夢
「どうぞどうぞ!何もない所だけど!」
今私はこの女性、片桐由紀子に連れられて彼女の部屋へと招かれていた。
父親を待たせていると説明したのだが、軽く家の事情を話すと。
「そんな所に居る必要ある?」
と言われた。
そう言われるとそれもそうだなと思い、私は彼女に付いていった。
そして、今に至る。
「でさ、巴ちゃんが苦しんでる理由ってそれだけじゃないんでしょ?」
やたらグイグイと来る。
いきなり名前呼びだ。
普通ならば只の不審者として通報されてもおかしくは無い。
……こんな私でも、普通なら、なんて言葉が出てくるのか。
私はこれまでの辛かった事を全部話した。
気が付けば涙が溢れていた。
片桐さんは必死にメモを取り続けているが、優しく相づちを打ってくれている。
恐らく、誰にも相談出来ず、努力も認められず、そして誰にも共感してもらえなかったのがいけなかったんだろう。
「うん!ありがとう!良いネタになりそう!」
言っている事は最低だが。
人の不幸をネタにしている。
「でさ、巴ちゃん。小説に興味無い?」
「小説……ですか?」
思わず聞き返してしまう。
私の問いに片桐さんは頷いき、答える。
「そう。小説。」
「でも、そんな事父が許すはすが……。」
すると、対面に座っていた片桐さんは横に来て手を握ってきた。
「自殺する人って相談できる相手が居ないっていうのと、自己肯定感の低い人がしやすいんだと思うんだ。だから、私が話を聞いてあげる。簡単に死のうとしたら駄目だよ。人生長いし、辛い事があったなら必ずいい事があるはずだから。」
この人、実は良い人なのでは?
小説のネタにするとか言っておいて実はただ助けたかっただけ?
「だからさ……。」
すると、片桐さんはメモ帳を開き、ペンを握る。
「もっと話聞かせて!」
……良い人なのかどうなのかよく分からなくなってきた。
「で、小説ってどういう事ですか?」
また涙を流しながら詳しいことを話してから冷静になった。
まぁ、スッキリしたので良いのだが。
小説を書いていると言っていたが、そこについて詳しく聞きたい。
こちらがいいだけ話したのだから今度はこちらの聞く番だ。
「うん、インターネットの小説投稿サイトに投稿してるの。」
成る程。
普通の小説家かと思ったが、いわゆるなろう系作家と言うやつか。
「まだまだ人気は無いんだけどね。いつかは書籍化、コミカライズ化、出来ればアニメ化まで行くのが夢なんだ!」
つまり、底辺。
そのサイトで無数にいるとされる底辺作家か。
そんな状態で書籍化は絶望的だろう。
「さっきから話聞いてみてさ、思ったんどけど巴ちゃん。頭良いでしょ?」
「……まぁ。」
テストの点数は良い。
頭が悪いわけでは無いだろう。
「お願い!恩返しだと思って一緒に小説書いてくれない?」
「嫌です。」
すると、明らかにがっかりした顔をする。
「……何か見返りは?」
流石に可哀想に見えたので助け舟を出す。
「私が生活の面倒見ます!ちゃんと手続きしてあなたの親代わりになります!だから私の夢を手伝って!」
あの親から離れられるのは良いな。
それにどうせなら命の恩人の夢を叶えてから死ぬ方が良い。
どうせ学校もつまらないし、まぁ、親の束縛からは抜けられるけど。
生きてて楽しい事を見つけられないのなら私はまた死のうとするだろう。
確かに話を聞いてもらってスッキリしたのは良いが、それでも辛いものは辛い。
なら……。
「良いですよ。手伝います。」
「ありがとう!」
私は悔いなく死ぬ為、片桐さんは夢を叶える為。
私は小説を書くことを決めた。
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