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番外編 事故物件

 大学に進学した俺と篤は、親元を離れてそれぞれアパートに住むこととなった。篤は根っからの心霊オタクなので、アパートも世間でよく言う『事故物件』と呼ばれている物件に入るだろうと思っていたのだが、意外にも篤は普通の2階建てのアパートで1Kという間取りの部屋を借りたようである。


 意外に思った俺は篤に、


「てっきり篤の事だから、事故物件を選んで住むと思ってた」と言うと、篤は呆れた顔をしながら「はぁ?家は休む場所なんだから、わざわざそんな場所借りて住むかよ」と正論を言われてしまった。


 篤の基準がよく分からないが、言ってる事が真面なので俺は何も言い返せなかった。



 大学進学に伴い、引っ越しや何やらで慌ただしい日常も落ち着いてきた時の事である。篤から俺に1本の連絡が入った。


「今何処に居る?」


「家でゴロゴロしてたわ」


「じゃあ今から俺のアパートに来て!面白い物見つけたんだよ!!」


 篤にとっては面白い物でも、絶対に俺にとってはそうでもないとは思いつつ、興味をそそられた俺は篤のアパートに向かう事にする。篤の住んでいる物件は、築20年経っているかどうかの2階建て1棟10戸の木造アパートだ。


 今でこそアパートの外壁は茶色や黒などの暗めな色が多くなっているが、篤の住んでいるアパートの外壁は、エメラルドグリーンというなんとも主張が激しい外観をしている。それでいて、年数の古さを感じさせるかの様に、近くで見ると色が剥げていて、より奇妙な外観になっていた。


 失礼かもしれないが、篤の様な変わり者はやっぱりこのような変わった色のアパートに住むのがお似合いだな、と思いながら篤が住んでいる2階角部屋の201号室の呼び鈴をならした。


「おッ!ようやく来たか。まず中に入ってくれ」


「それで面白い物ってなんだよ?」


「あれれ?千春君は気付かなかったのかな?」


 妙に俺の神経を逆なでするような口調で話してくる篤にイラッとしたものの、このような輩に付き合うと長くなることを知っている俺はグッとこらえる。


「…そうだな。特にはなにも」


「全くしょうがねぇなぁ。ヒントその1この部屋にはありませんッ!!」


「そのノリに付き合うのしんど…」


「なんだよノリ悪いな。玄関だよ玄関!」


「玄関…?」


 篤に連れられて玄関に行くと「静かにしろよ」というジェスチャーをされたので大人しく従った。


 玄関のドアを開くと周りに誰も居ない事を確認した篤は、俺に左の方を見ろとジェスチャーしてくる。さっきまで騒いでいたくせに、なんなんだ…と思いながらドアから頭だけを出して左を見る。


 2階は201~205号室の5部屋だ。その隣の202号室の方を見ると玄関の両脇に何かが置いてある事に気付いた。


「…塩?」


 小皿に乗せられていたのは盛り塩。長い間取り替えていないのか、少し黒ずんでいて全体的に水っぽくなっている。


「隣の部屋の玄関に置いてあるのって盛り塩だよな?」


「だよな!俺もさ本当に最近気づいたんだよ!最初はゴミだと思ってたらよく見たら盛り塩だったからビビった!」


 俺も詳しい事は分からないが、何も盛り塩が玄関の前にあるからと言って怖がる必要はない。よく盛り塩が心霊スポットなどに置いてあったりするが、あれのほとんどがイタズラである。


 そのような事から盛り塩=怖いというイメージが付いている人もいるだろうが正(・)し(・)い(・)使(・)い(・)方(・)をすれば邪気を払い、良い運を招くとされている。


 だが間違ったやり方をすると、逆に邪気を呼び寄せてしまう。篤の隣の部屋の住人は盛り塩を放置したままにしている。これはやってはいけない事で、基本的には毎日交換することがいいらしい。


「それで盛り塩がしてあったからと言って、事故物件だとでも言うつもりか?」


「俺もそれが気になってさ、不動産屋に昨日の日中に突撃してきたんだよ。俺の住んでるアパートは事故物件ですか?ってな。でもさ、そんなことはない。とか言ってくるんだよ」


「篤みたいな奴に付きまとわれて不動産屋も可哀そうだな」


「それはちょっと酷くないか?それでだな、なんか隠してる気がしてさ?事故物件サイトで検索しても…何も出てこなかったんだよ」


「つまり不動産屋の言ってる事が正しくて、篤はただのクレーマーだったって事だな」


「いつにもまして今日はトゲトゲしいな…。それでも俺の心霊センサーはビンビンに反応してるから、思い切って隣の部屋の呼び鈴を押してみたんだ」


「まあ、篤の勘は結構馬鹿には出来ないからな。それでどうだったんだ?」


「いや、何回も呼び鈴鳴らしてるんだけどさ、全然出てこないんだよ。隣から物音なんかはするから部屋には居ると思うんだけどな…」


「知らない奴が来たら出るのも面倒だからシカトしてるだけじゃねぇの?それで隣の人が出てきたとして、篤はなんて言うつもりだったんだよ」


「いや、普通にこの盛り塩なんですか?で良くない?」


「ずいぶん直球で聞くんだな…そこはちょっと世間話からはいれよ」



 面白い物という言葉に釣られてきた俺も悪いのだが、特に何てことのない話でガッカリしつつも、大半はこんな感じでいつも終わるなと思っていた。


 その日は家に帰るのも面倒になり篤の家に泊まり、酒盛りをしながらいつものように心霊スポットの話なんかしていたと思う。


「やっぱりさっきから隣から音するよな?ちょっと今から隣の部屋に行ってみないか?」


「は?今から?そんな遅い時間じゃないし行ってみれば?」


 時刻は20時を過ぎたあたり。この時間なら呼び鈴を鳴らしても迷惑な時間ではないだろうと思い、そう返答したが篤は一緒に行こうとしつこい。


 仕方なく2人で隣の部屋の呼び鈴を鳴らしに行くが、やはり返答はない。


「気分悪いな。無視かよ」


「そりゃ知らない男が2人玄関の前に居たら出てこようとは思わないだろ?」


「明日、不動産屋に隣の部屋がうるさいってクレームいれてやる!」


「そんな気にするほどの物音でもないだろ。本当にクレーマーになるつもりかよ。」


 部屋に戻ってからもたまに隣の部屋から物音、というか生活音が聞こえてくるので部屋に居る事は間違いはなかった――




 次の日、篤は不動産屋の開店時間と同時にクレームの電話を入れた。不動産屋から返ってきた言葉は、


「202号室には誰も住んでないのですが…」



 事故物件ではない、家賃相場も他と変わらないからと言って安心して部屋を借りるのは少し気が早いかもしれない。それに、世の中の不動産屋が全てホワイトかと言うと決してそんなことはない。


 中には従業員を事故物件に住ませて告知義務をしないで良いようにする不動産屋もあるらしい…。今の時期は特に大学や就職などで引っ越しをする人が多いだろう。事故物件に住みたくないのであれば、十分に気を付けた方がいいだろう。

どうも。ゆりぞうです。


カクヨム様の方では5話先行で投稿していますので、続きが気になる方はカクヨム様の方までお越し下さい。


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