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83.隠された真実③


 何も知らないネビルは、絶望を迎える、その時が刻々と迫っていた。



 ネビルは、王宮内で不測の事態が起きているとは考えもしていなかった。

 フランを、親友を信用していたからこそ、裏切るとは思えなかった。

 疑いの目でフランを見ることもできず、フランが言い放つ言葉さえも全然頭に入らなかった。

 真っ白になる頭で、ただ現実逃避するかのように、がむしゃらにフランから逃げるネビルは、自分が自分でないようで、もう何が何だかわらず、これから何をしたら良いのかさえも見失っていた。



 フランが暴挙に出た時、ネビルは、ただひたすら落盤事故現場で作業員救出にあたっていた。

 作業員を全員救助して、ようやく外に出た時、そこで初めてフランの陰謀を知ることとなる。

 なぜなら、フランは不敵な笑みを浮かべて、ネビルが現れるのを待ち構えていたからだ。

 直接、首謀者であるフラン本人から告げられた事実。それは、自分を含むサディアブル一族全員が、身に覚えもない無実の罪を着せられて、もう既に自分以外は全員処刑したという、耳を疑うような衝撃的な内容を声高々と言い放ったのだ。

 フランには後光が差していたが、悪い顔が光を掻き消すように、はっきりと浮かび上がって見えていた。

 フラン率いる、ミラウェイ一族は常軌を逸していた。

 狂気に満ちた悪魔の形相で、突如ネビルを含む作業員達に襲い掛かる。

 何一つ武器を所持しておらず、更には怪我を負う作業員もいる中で、容赦なく襲い掛かかってくる敵に、逃げることしかできないネビルや作業員達は、必死に山道を下り、騎士団の屯所がある市街地の方へと向かって走っていた。


 ネビルは走りながら、己の無力さと悔しさで涙がこぼれ落ちていた。


 救助したばかりの、未来ある若き作業員達が次から次へと血を流して倒れていく。

 けれど後ろを振り返れなかった。振り返させてくれなかった。

 背後から聞こえてくる仲間の叫ぶ声が、自分に全てを託す仲間達の想いが、強く心に響き、後戻りして仲間を助けに行きたい足を止めてはくれなかった。前へ前へと、ネビルの足を早く動かし続けていた。


 ネビルを庇い犠牲となり、怪我により命を諦めざるを得なくても、仲間達はネビルを強く信じて無念の思いを全力で託していた。

 罪なき者を殺す悪魔、騎士団団長フランを絶対にネビルが倒すことを、仲間達は心の中で強く信じて、命を落としていった。


 しかし、ネビルも絶対絶命の窮地に追い込まれてしまう。

 振り翳した長剣の鋭い刃がギラリと光るのを見た瞬間、人生の最期、死を悟る。

 不思議と恐怖はなかった。ただ言いようのない悔しさが込み上げるネビルは涙が止まらなかった。


 山道を転がり落ちたネビルは、長剣を振り翳すフランの顔を見上げていた。抵抗することはなく、ただ呆然とフランを見つめたまま、涙でぼやける視界でも見えるフランの悪魔の形相を目に焼き付けていた。



 絶対に忘れてはならない。

 たとえ死んでも絶対に許してはならない。

 魂は生き続ける。だから、ミラウェイ一族を、フランを永遠に呪い続けると、己の心に復讐を誓う。

 


 剣が振り下ろされて、一瞬目を閉じるネビルは、すんでのところで息子ラームスに助けられる。


 ネビルが目を開けた時、突如視界に飛び込んできた光景に、驚愕して声も出なかった。



 ラームスは、モーフィスの弟であり、彼は奇跡的に助かっていた。

 ラームスもモーフィスと同様に才能が認められて王宮に勤めていた。丁度、仕事の関係で国王ルフォンドの生家に赴いていたラームスは、数人の部下と騎士を伴い、カーマリシャ地方からロズウェル国に帰還している最中であった。


 帰還している道中で、ラームスは異変に気づく。ロズウェル国との境にあるオルガナ族が住む集落で、怪しい動きをするオルガナ族達を目にしていた。

 彼らは、明らかに高貴な身分の者が纏う衣服を着た人間を、二人がかりで小さな小屋の中から外へと運んでいた。二人の男達に命令されて怯えながら運んでいるが、時より具合が悪いのか吐く者も見受けられる。

 ラームスは、病人でも運んでいるのであろうと、遠くて見えないこともあり、最初は浅はかに考えていたが、徐々に小屋へと近づくにつれて無意識に馬を制止させていた。


 ラームスの視界に、兄モーフィスの顔が映り、間違いなくはっきりと見えていた。

 だらんと垂れ下がる両腕からは血が流れて、顔は真っ白くなり、目を開けているが目線は合わない。明らかに兄モーフィスはもう既に息絶えていた。

 そして、更にラームスに衝撃が走る。

 モーフィスを運ぶ者達の後ろから母親が兄と同じ状態で運ばれてきたのだ。

 口から血を流している母親の姿が目に入った途端、ラームスの身体は、感情の赴くままに動いていた。

 何が起きているのかわからなかった。自分の目を疑いたくなるような光景に、発狂したくなるほどに、高ぶる怒りの感情をコントロールできないラームスは、記憶が抜け落ちたように、ハッと我に返った時には、自分の足元に長剣を突き刺した男が二人、転がっていた。二人の男は見覚えのある顔であった。騎士団団長フランの親戚で、ミラウェイ一族の者である。


 正気を失い暴走するラームスを、誰も抑えようとはしなかった。否、そうではない。部下や騎士達も同じ感情であり、彼らも無意識に突き動かされて、ラームスに協力していた。

 敵であるミラウェイ一族の男達に、詳しい事情を訊く前に殺害したラームスは、オルガナ族から話を訊いて、仕事の報酬を渡した後、民に謝罪を述べて解放した。


 その後、もはや憔悴しきっているラームスは、なんとか気持ちを奮い立たせて小屋の中を確認する。

 むせ返り、吐き気を催すほどに血の匂いが充満する小屋の中は、目にもしたくない凄惨な光景であった。

 一面赤黒く染まる小屋の中で、身を寄せ合うように折り重なるサディアブル一族が、ラームスの目に焼き付いて離れない。

 必死に攻防して、敵と戦った一族の最期は、血の海に埋もれるように息絶えていた。


 ラームスは、地面に横たわる無残な姿の兄モーフィスを抱きしめていた。嗚咽を漏らして泣きながら嘆く叫び声が、遠くの方にまでこだまして、集落に住むオルガナ族の民までもが嘆き悲しんでいた。


 立ち上がり、青筋を立てて怒りを顔に滲ませるラームスは、馬を走らせてロズウェル国へと急いだ。


 ラームスは王宮ではなく、ネビルがいるサバト鉱山へと向かっていた。



 いつも読んでいただき、ありがとうございます。投稿が遅くなり大変申し訳ございません。

 今回はいつもより短いですが、説明文なので、短い方が良いのかなぁと思い、短めの文章で投稿してみました。


 今日、私が住んでいる場所で雪が降りまして、とうとうこの時期がきたかと、外を見るたび溜息ばかりでした。久々の雪かき作業で身体が痛いですが、執筆活動がんばります。これからも応援よろしくお願いします。


 今年は寒いようですので、お体に気をつけて、年末で忙しいとは思いますが健康で過ごせるように祈っております。


 

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