82.隠された真実②
時代は遡り、ロズウェル国建国前と後を描いています。今回は会話文がなく、説明文ばかりですので、さらさらっと読んでいただけたら幸いです。
ロズウェル国建国の立役者の一人、ネビル・サディアブル。
彼が後に“稀代の極悪人”と名を馳せ、悪名高い悪者に変貌を遂げていく。
その人生は、並々ならぬ苦難の連続であった。
彼を悪人へと引きずり下ろした親友への強い怨恨が、彼の闘争心に火を付けて、人生を大きく変える。
全てを失った男の執念の復讐が始まる。
ロズウェル国を建国した国王ルフォンドは、元々は、現在ユニタスカ王国として繁栄しているカーマリシャ地方から移住してきた、いわゆる開拓民であった。
カーマリシャ地方からは、多くの移住者が開拓する目的で、現在ロズウェル国である土地に移り住んでいた。
移住者の中には、ルフォンドの幼馴染である二人の友人もいた。その二人の友人は、後にルフォンドの腹心となる人物であり、そのうちの一人であるネビルはルフォンドの右腕といわれ、絶大たる信頼を寄せられており、ほとんどすべてのことを委ねられていた。そして、もう一人の男、フランは屈強な体躯と武勇に優れており、彼は鉄壁の守り人といわれていた。
移住者達は、未開拓の土地を発展させようと日夜奮闘していた。
そんな移住者の中でも、ルフォンドは一際主導者としての統率力が高く、カリスマ性に優れた人物であった。ルフォンドは先住民達と共に、次々と事業を起こしていく。
けれどその陰には、ルフォンドを献身的に支えるネビルの姿があった。彼は表舞台には一切出ないが、ルフォンドよりも頭の切れる男であり、尚且つ情の深い男であった。先住民の信頼をすぐに得たネビルは、次々と新しい事業を始めて、ルフォンドと協力し合いながら民の生活に潤いを与えていった。
自給自足をしながら閉鎖的に暮らしていた先住民達は、持続可能な誇れる仕事を持ち、他国や他領地との交流を深めて、活気あふれる大きな街を築いていく。
名もないこの豊かな土地に、長年暮らす先住民の民族間で起こる紛争を鎮めて平和をもたらしたルフォンドは、民族の統一を図り、民の豊かな生活を守るためにロズウェル国を建国する。ルフォンドは、統治者として国の頂点に君臨したのである。そして、更なる発展を目指した。
国王となったルフォンドは、何一つも変わることはなかった。慢心することもなく、初心のまま突き進んでいた。それは彼の生活からも垣間見えていた。誰が見ても質素な暮らしをするルフォンドは、地位や権力、名声、そしてお金にさえも興味がなかった。
国益は全て新規事業に注ぎ込んで、ロズウェル国の発展に尽力していた。
そんなルフォンドの思想や価値観を受け入れるネビルは、実質、国王の側近であり、今で言うところの宰相の仕事を任されていた。
けれど、ルフォンドに合わせるネビルもまた、とても裕福とはいえない暮らしをしていた。それでもやりがいのある仕事に生きがいを感じて熱心に働くネビルは、妻を娶り、子供にも恵まれて、幸せな家庭を築いていた。ネビルは公私ともに順風満帆であった。
だがしかし、皆が皆、同じ思想や価値観であるとは限らない。
欲に塗れる者達は、善人の行いを受け入れられるはずがない。悪巧みをする者達は最終的には、他人を犠牲にしてまで自分達の欲を満たそうとする。そんな愚かな者達の欲を満たす為に罪のない一族が犠牲を払い、人生を滅茶苦茶にされてしまう。
転落の一途を辿る羽目になった一族が、ネビルを含むサディアブル一族であった。
じわじわとネビルの背後に忍び寄る黒い陰は、突然牙を剥いて一気に襲い掛かってくる。
ロズウェル国の首都ルクセルから馬を走らせて三十分程度の郊外にあるカルデラ湖のレンモール湖は、近隣を山々に囲まれた緑豊かな自然溢れる場所であった。
大昔、火山の噴火でできたレンモール湖周辺の近隣の山で、銀鉱石を発見した先住民とネビルは、国家予算を捻出して鉱山開拓事業を発起する。着々と準備が進められ、サバト鉱山と名付けられた銀鉱山では順調に銀の採掘が行われるようになっていった。あっという間に、国内外でロズウェル国産の銀が流通するようになり、銀による多額の富を得たロズウェル国は、急成長を遂げる。
政権を執る愚直なルフォンドの采配と的確な判断により、人々の生活は更に豊かなものとなり安寧の日々を送る毎日であった。
しかし、陰からルフォンドの地位と名声、更には多額の富を狙う人物がいた。
その人物は、ロズウェル国騎士団団長を務めるフラン・ミラウェイである。
彼にはルフォンドやネビルと比べて、知性は低く頭脳派というよりは肉体派であり、悪く例えると“脳筋”と言われるような人物であった。
国王ルフォンド、国王側近ネビル、騎士団団長フラン、この三人は長年苦楽を共に歩んできた幼馴染であり、親友でもあった。それぞれが収まるところにおさまり、ロズウェル国に貢献してきたはずであった。
けれどそれは、ルフォンドとネビルの思い違いであったのだ。
フランは、地位や名声を得てから、明らかに人が変わってしまう。気づいた時には、まるで別人のように、過去の姿は跡形もなく消えていた。
騎士として圧倒的強者のフランは、強い故の驕りが顕著となり、徐々に欲に塗れていく。満たされない欲求に潤いを与える為に、更なる高みを望み、大きな野望を抱き始めていた。
元々、フランの家族や親族も含めて欲深い人間が多く、どちらかというと金の亡者であった。騎士団を設けた際にも、ルフォンドとミラウェイ一族との間に、金銭に関わる大きな揉め事が起きていた。
国王ルフォンドよりも給金が高いフランは、ルフォンドの地位までも奪おうと企んでいた。愚かなフランは、ルフォンドやネビルが裕福で贅沢な暮らしをせず、あえて貧乏で質素な暮らしをしていることに憤りを感じてならなかった。
彼は何も分かっていなかった。
否、欲に目が眩み、何も見えていなかった。
愚かな人間が犯した罪により、ロズウェル国は大切なものを失うこととなる。
国王ルフォンドと王妃の間には一人娘がいた。娘は絶世の美女と謳われるレイナーラ王女である。王妃であるライラは身体が弱く、王女しか授かることができなかった。しかし、王妃を溺愛する国王は、側妃を持つのを頑なに拒んだ。その為、王女は婿を取ることとなっていた。
美しく聡明な女性に育った王女レイナーラには意中の男性がいた。レイナーラが好意を寄せる男性は、ネビルの長男モーフィスであった。父親の補佐として王宮勤めをしていたモーフィスは、優秀な能力を買われて父親と同じく責任ある仕事を任されていた。彼は他人からよく慕われており、温厚な人物であった。ネビルに似て容姿も、そして才能も優れていたモーフィスは、王女レイナーラのみならず女性達から好意を寄せられることが多かった。
国王ルフォンドと王妃ライラは、王女レイナーラとモーフィスの関係を公認していた。
もはや結婚秒読みと言われていた二人に、突然悲劇が襲い掛かる。
無惨にも、一瞬で全てが砕け散る。
けれど、惨事はこれだけでは終わらなかった。
ここからミラウェイ一族による怒涛の猛攻が始まる。
フランは、ルフォンドやネビルの知らないところで着々と陥れる準備を進めていた。
現在キールッシュ帝国となった領土に毒草を持ち込み繁殖させたのは、紛れもなくミラウェイ一族であった。
彼らは毒のある草を高価な薬草と説明して、高値で買取る契約を口約束で交わしていた。これら全てはロズウェル国の新規事業であり、責任者は自ずとネビル・サディアブルであると断言していた。数多の事業を成功させてきた信頼できる男の名を出された民は疑いを持たず、信じ込んでいた。騙されているとは露知らず、自分達もロズウェル国の恩恵を受けられると、期待や夢を抱いて、せっせと薬草ならぬ毒草を繁殖させていった。
その頃ネビルは、自国の事業開発で忙しく、他国の異変に気づいていなかった。
そんな最中に、ロズウェル国内に大事故が発生する。サバト鉱山で銀の採掘作業中に原因不明の落盤事故が発生したのである。閉じ込められた作業員である国民を救い出す為に、責任者であるネビルは鉱山へと向かい、しばらくの間、宰相の職務から外れて王宮に不在となっていた。それは騎士団団長であるフランも例外ではなかった。騎士団も国王より作業員救助の命令を下されていたのである。
でも彼らは命令に従っていると見せかけて、罪なきサディアブル一族に残虐行為を働く。そして、正気を失ったフランは、王宮にいるルフォンドを含む王族に刃を向けた。
ルフォンドは愛する家族やロズウェル国を守る為に、苦渋の決断を下す。
悩んだ末に出した決断は、人生の終わりを迎える最期の最期まで、ルフォンドの心を苦しめていた。
呪縛に囚われ続ける国王の最期は、民から慕われるような優しく穏やかな国王からは想像ができないほど苦悶の表情を残したまま、この世を去ったのであった。
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大幅に間違えていた為に、一部分だけ削除しています。
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