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81.隠された真実①

 しばらく間があいてしまい、大変申し訳ございませんでした。

 「帰ろう。」


 ミレーナに手を差し伸べるカイアスの表情は、とてもじゃないけどぎこちなく、笑顔はひきつっていた。


 ライオネル、ゴードン、エミリアの三人は、突然現れたカイアスが、何食わぬ顔でヒルマンを演じていることに驚かされていた。普段の彼からは想像ができない行動に、もはや面白すぎて笑いを堪えるのに必死であった。三人は不器用な笑顔を見た瞬間、堰を切ったように笑いが止まらなくなっていた。

 張り詰めた空気の中、ライオネルとゴードンは少しだけ吹き出して笑ってしまう。こんな時に笑うのは不謹慎なことくらい、頭では十分理解はしているつもりでも、目の前で友人のおかしな演技を見せられたら、それはもう笑う以外の選択肢はなかった。 

 天井裏でも、予想通りエミリアが豪快に腹を抱えて笑っていた。ラナは冷や汗をかきながら慌ててエミリアの口を塞いでいるが、エミリアはそんなことはお構いなしに大笑いしていた。

 一方でカイアスは、ほんの微かな笑い声が聞こえて、ライオネルとゴードンを横目で睨み怒りを露わにする。鋭い視線にゴードンは背筋がゾクっとして固まるが、ライオネルは愛想笑いでその場を取り繕うとしていた。

 しかし、一番問題なのは考案者のジルアンであった。カイアスの胸で泣いていたはずのジルアンは、肩を震わせて声を出さずに笑っていた。目には涙を浮かべるほど、大笑いしていたジルアンに、「おい!」と小声で怒るカイアスは、ざっと周囲を見渡すと誰もが笑っているように見えてきて、急に恥ずかしくなり顔がぽっと赤くなっていた。


 そんなカイアスをミレーナだけは、恍惚とした表情で見ながら頬を赤く染めていた。

 勘違いするミレーナは、ヒルマンがクロウネを依然として愛してくれているのだと感じて、嬉しさが溢れて気分が高揚していた。

 もはや、ミレーナの視界にはカイアスしか映っていなかった。


 ミレーナに気づかれないように、静かにその場から立ち去るジルアンは、カイアスと一瞬目を合わせて瞬きをする。すぐにゼンの元へと向かうジルアンは、ゼンから封筒を受け取っていた。ザシランから渡された封筒を、カイアスはクライシスには渡さず、再びゼンに預けていた。封を開けて中身を確認するジルアンは、祖父ヒルマンの筆跡で書かれた文面に目を通していた。読み進めていくうちに目が点になり、紙を持つ手は震える。衝撃の内容にジルアンは、頭が真っ白になっていた。


 カイアスはジルアンを一瞥しながら、次の行動を思案する。


 (ジルアン、何が書かれていたのだ?あの様子だと、もはやこの老婆に聞かなくても、全てお祖父様が書き記していたのか?ジルアン、早く解読しろ、頼んだぞ。)


 

 カイアスはミレーナが錯覚を起こしている間に、真実を明らかにしようとしていた。ミレーナは、表情や声からして未だに祖父ヒルマンに好意を抱いているのは明らかであった。ミレーナの感情をうまく利用して、心を揺さぶるような言葉や態度を取れば、本音を漏らすのではないかと考えるカイアスは、危険な賭けに出ていた。ジルアンもカイアスの考えをすぐに察して、自ら進んで行動に移し始める。

 カイアスは、ふとジルアンから伝えられたザシラン皇帝が遺した言葉を頭の中に思い浮かべていた。


 “宿敵を倒して、帝国を守り抜き、国の繁栄と幸福を願う”


 『お前らに期待している。頼んだぞ。』


 その言葉に込められた意味はーーー全てを知ったうえでの言葉なのであろうかーーー

 カイアスは、ザシランが遺した言葉に違和感を覚える。


 クロウネを含むサディアブル一族は、父親のヒルマンを死に追いやり、更には生まれ故郷リューシュに毒草を繁殖させた。それだけでは飽き足らず、次から次へと他部族の集落にも被害を拡大させる。帝国人から底知れない深い恨みを買うサディアブル一族は、平然と悪事を後世に継承させるような醜悪な連中であった。


 だがしかし、それもこれも全てはサディアブル一族の企みが他国を巻き込んでまで成し遂げなければならないほどの壮大な計画であり、その目的や計画の全ては、一族しか知り得ないことであり、彼らは決して口にすることはなかった。


 サディアブル一族が、キールッシュ帝国や他国を巻き込んでまでロズウェル国にこだわる理由。

 それは、過去に囚われ続けるサディアブル一族の史上最悪の陰謀であり、悪魔の血が流れる、とある一族がもたらした大罪と深く関係している。

 真実は長い間、深い闇の中にに葬られたまま、だれ一人も触れようとはしなかった。


 ロズウェル国の存続にも関わるような大事を、王族が意図的に黙認した罪は、どんな理由があろうとも決して許されることではない。


 ロズウェル国は、今まさに過去の呪縛から解放されようとしていた。


 「クロウネ、なぜ、ロズウェル国の王妃に?」


 遠回しに訊ねるカイアスは、段階を踏みながら真相に迫ろうとする。慎重に言葉を選ぶカイアスは、不安と緊張、そして何よりも恐怖で足が震えていた。真実を今すぐにでも知りたい半面、知らない方が良いこともこの世には多く存在するからである。カイアスは、なぜだか嫌な胸騒ぎがしていた。

 でももう既に、後には戻れないところまできていたのであった。


 ジルアンが現れてから錯覚を起こしているミレーナは、過去と現在が錯綜して、現実と夢の狭間に立っていた。混乱する頭の中では、ミレーナはヒルマンと出会った頃に戻っていた。若かりし頃のクロウネに戻るミレーナが、全ては錯覚だと気づくまでにそう時間はかからなかった。


 ミレーナの口から伝えられる、サディアブル一族の陰謀は、当然ながら未だ終わってはいない。標的を仕留めるまで、ミレーナの戦いは終わらなかった。

 ミレーナが我に返り戦いを終わらせようとした時、それは宿命に翻弄される人生の終わりでもあった。


 「ヒルマン、私はロズウェル国でなければならなかったの。貴方にも伝えたはずよ。我が一族の目的を果たすだけの為に、貴方とはお別れをしなければならなかったのですから。」


 (え⁉︎ お祖父様は知っていた?)


 カイアスは一瞬驚いて思考が停止するものの、すぐにジルアンを横目で見ながら、言葉の信憑性を確認する。何度も首を縦に振るジルアンの姿に、(やはり、お祖父様は全て知っていた。という事は、父上も知っていたんだな。)と察するカイアスは、予想通り封筒の中に全てが記されていると分かり、もうこの場から立ち去ろうとした。踵を返してジルアンの方を向いたカイアスに、ジルアンは戻れと言わんばかりに手を払う動作をして見せた。

 カイアスはジルアンの行動意図が分からず、立ち止まってしまう。すると、ミレーナが冷静な口調で話を続けてきた。ミレーナは、カイアスの不自然な動きを気にも留めていなかった。声が聞こえてミレーナの方へと振り向くカイアスは、ヒルマンとザシランが真実を黙秘した理由が何となく分かり、急に底知れぬ恐怖に襲われる。これ以上、過去を詮索してはならないと自制心が働いていた。


 サディアブル一族が隠し通す真実は、軽々と踏み込んではいけない領域であった。


 「ヒルマン、忘れたの?無理もないわ。とても衝撃的な事実ですものね。信じられないわよね。私も初めて聞いた時はそうだったわ。でもね、本当のことなの。我々は嘘は吐いてはいないのよ。嘘を吐いているのはロズウェル国の王族と彼奴らなのよ。この国の者達は、未だに何にも知らないまま、のうのうと生きているのよ。騙されているとも知らずに。それもそうですわよね。王族が隠蔽していますもの。…………だから我々の苦しみは、誰も知る由もないのよ。」


 カイアスは驚きのあまり、思わずポカンと口を開けて呆然としてしまう。にわかに信じがたい言葉に、(お前は何を言っているんだ。嘘を吐くな!)とミレーナを疑いの目で見てしまう。どうしてもミレーナの言葉を受け入れられないカイアスであったが、これ以上踏み込むのも危険であり、躊躇する心に頭を悩ませていた。頼みの綱であるジルアンを見れば、鋭い視線を向けられて、口をパクパク動かしては、しきりに訴えていた。明らかに口の動きは“いけ!いけ!”と言っていた。

 ここで全てを終わらせる為には、結果がどうであれ踏み込むしか選択肢はなかった。カイアスは意を決して核心に迫る。


 「計画は、もう終わったのか?」


 真剣な表情で訊ねるカイアスに、ミレーナも真剣な表情で応える。

 ミレーナの言葉に、サディアブル一族の深い闇と強い復讐心が垣間見えて、この場に居合わせた全員が言葉を失う。

 衝撃的な言葉に、ただ呆然とミレーナを見つめることしかできなかった。


 「いいえ、終わりはありませんわよ。この国が滅びるまで戦うつもりですから。我々の功績を奪い、抹消しようとした彼奴らを、そんな易々と我が一族が許すはずがありませんもの。徹底的に痛めつけるようですわ。だから計画は、まだほんの序の口の段階に過ぎないわ。なにしろ、青い瞳はこの世から抹消しなければなりませんから。一族総出で奔走しておりますわ。

 私のお祖母様や親族を殺した、あの青い瞳の忌々しい一族を、この手で葬るまでは、私は死んでも死にきれませんわ。だって、私をこんなにも苦しめているのですから。…………でも、お祖父様が一番無念だったと思いますわ。あんなお方ではなかったそうですから。

 我々一族を悪人に仕立て上げた彼奴らを、絶対に許しはしませんわ。」


 終わりの見えない戦いの裏には、隠された過去の陰謀に長年苦しむサディアブル一族の姿があった。

 

 諸悪の根源が、サディアブル一族ではないと思い知らされる。

 いつもたくさん読んでいただき、本当にありがとうございます。しばらくの間、投稿ができず大変申し訳ございませんでした。

 

 これから物語は、色々と急展開する予定となっています。不定期な投稿ではありますが、今後もよろしくお願いします。

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