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79.決戦の時②

今回は、長文です。

 「貴様も、随分と偉くなったではないか。玉座まで上り詰めるとは、感慨無量であろう。ふっふふふ、貴様がそこに座るまでに、どれだけの人が犠牲になったことか。しかと心に刻むがよい。ふっ。」


 傲慢な態度で嘲り笑うミレーナは、苦境に立たされていても尚、闘争心は剥き出しである。攻撃的な瞳で、噛み付くようにクライシスを睨んでいた。

 けれど、ミレーナの焚き付けるような言葉を物ともせず、依然として玉座に座ったままのクライシスは、足を組み、片肘をつき、見下した態度を取る。わざと横柄な態度を取り、ミレーナを挑発しているようにも見えた。

 暫くの間、事態を静観していたクライシスは、虎視眈々と反撃の機会を狙っていた。獲物を狩るような目を光らせて、冷酷な表情をするクライシスが漸く動き出す。


 「貴様が、私を欺こうが、罵ろうが、罪を認めようが認めまいが、そんなのは、もうどうでもいい。どうせ、もうこの世にいない人間だ。あとは殺すだけだ。まぁ、最期に言い残した事でもあろうかと、猶予を与えたが、貴様にはそんなものは必要なかったようだな。」

 

 威圧感のある低い声が、謁見室内に響く。一瞬で場が凍りつき、殺気立つクライシスの悪魔のような恐ろしい顔に、オリビア連合国軍の軍人達はおろか、その場にいた全員が恐怖に震え上がる。

 

 クライシスはすっと立ち上がり、ゾーゼフと目配せを交わす。ゾーゼフから長剣を受け取り、剣を肩に担いで、闊歩して歩くクライシスは、ミレーナを追い詰めるように一気に近づいていく。その勇猛な姿に、ミレーナは前国王エスバーンの姿が重なる。

 喉元に刃を突きつけて、ミレーナを見下ろすクライシスは、まじまじと顔を見ていた。呆れて溜息を吐くクライシスは、軽蔑するように横目で睨み、罵倒する言葉を言い放つ。


 「まるで化物みたいな顔だな。醜い老婆が、よくもここまで生き延びたな。」


 ミレーナは、クライシスを鋭く睨むが、光り輝く琥珀色の瞳を目にした途端、突然、血相を変えて、うわ言を言い出した。その様子は、まるで何かに取り憑かれているかのように異様であり、幻覚が見えているのか、はたまた幻聴が聞こえているのか、それくらい明らかに様子が変であった。


 「ごめんなさい。貴方を、貴方を騙して。でも、私も騙されていたの。いや、違うわ。私にはこうするしかなかったのよ。従うしかなかった。刃向かうことが出来なかった。私は、ただ大切な人を守りたかった。それなのに、何もかも全てを失ったわ。もう取り返しがつかないところまで来てしまったのよ。ごめんなさい。だから、貴方は、こんな私を愛してくれなくて良いの。今度こそ私を殺して。そうすれば、みんな幸せになれるわ。貴方なら、この理不尽な世の中を変えられるから。」


 涙を流して心情を吐露するミレーナは、クライシスに深く頭を下げて、祈るように手を合わせていた。だがしかし、ミレーナが懇願している人物は、目の前に立つクライシスではなく、違う人物であった。ミレーナの異様な姿に狼狽えるクライシスは、長剣を持ったまま、思わず後退りをしていた。しかし、すぐに状況を察して、冷たく低い声で見下ろしながら、淡々と言葉を告げていく。


 「貴様は、エスバーン前国王陛下が見えているのか?

 嗚呼、そうか。父上は、貴様を一度殺そうとした事があった。だが、どうしても殺せなかった。悪女の貴様を、愛していたからな。けれど貴様は、愛していなかっただろう。貴様の最愛の人は、今も変わらず、ヒルマン様だろうからな。山間部族リューシュの族長であった彼は、とてもお強い方であった。………父上よりも。」


 クライシスが言い放った予想だにしていない言葉に、ジルアンとカイアスは一瞬思考が止まり、固まる。

 祖父ヒルマンの名を耳にしたカイアスは、あることを思い出していた。ロズウェル国に留学する前日、皇帝ザシランから渡された一通の封筒。中身は何が入っているのかは分からない。だが封筒の中身よりも、気になることがあった。

 言葉足らずの父帝が、直接カイアスに封筒を手渡しした際に告げた言葉。そのたった一言の言葉が、未だに理解できずにいた。


 『身に危険を感じたら、これを敵に差し出せ』


 カイアスは、ザシランが友好関係が悪い隣国に、あえて自分を留学させたのは、邪魔な息子を暗殺する為だと思っていた。けれど、あの時なぜか邪険に扱うカイアスに対して、いきなり突拍子もなく、子を守るような、父親ぶった態度をしてきたことをふと思い出す。おそらく何か意図があったのかもしれないが、もう当の本人はこの世を去り、確かめられない。

 あの時は何も考えずに、ただ皇帝の命令に忠実に従い、渡された封筒を持参して留学した。けれどロズウェル国で、一度たりとも身に危険を感じたことがなく、封筒は使われないまま、机の引き出しの中に入ったままであった。まさか、今の今になって封を開ける時が訪れようとは、これもザシランの手の内なのかと思わずにはいられなかった。

 皇帝ザシランが隠し通してきた本心が、明らかになろうとしていた。


 「ゼン、ちょっといいか。」とカイアスはゼンを呼びつける。

 どこからともなく現れるゼンは、カイアスの背後に身を隠して、用件を確認する。

 「父上から渡された封筒を、今すぐ持ってきてはくれないだろうか?」

 「はっ。かしこまりました。」

 「すぐにだ。頼んだぞ。」


 軽く会釈して、瞬時にその場から姿を消す。一方で、隣に立つジルアンは、二人の会話を耳にしているはずなのに、無表情でミレーナを見つめていた。


 (怪しい。何か企んでいるな。)

 カイアスはジルアンを訝しげな表情で見ながら、動きを注視する。

 すると、いきなりカイアスの方へと振り向き、真剣な表情で訊ねてきた。ジルアンも何かを察知していたようだ。


 「お祖父様は、あの女を愛していたと思いますか?」

 「はぁ⁈ 相変わらずお前は、唐突だな。そうやって平気で核心を突こうとするな。どうせ気づいているんだろう。お前の想像通りだと思うぞ。」

 「封筒の中身はお祖父様の唯一の遺品です。それが何を意味するのか。今、漸く分かりました。」

 「ほら、やはり知っているではないか。否でも応でも、封筒の中身を見れば、自ずと全てが明らかになる。でもおそらく、愛していたんだろうな。理由はどうであれ、愛し合う二人は引き離された。あの女を操っている奴は、なぜそこまでして、この国にこだわるんだろうな。我ら帝国を巻き込んでまで。」

 「それは全てあの女、サディアブル一族しか知り得ない事です。今ここで明らかにする為には、是非とも兄様の協力が必要となります。」

 「はぁ⁈ 協力?何だそれは?」


 ジルアンの唐突な言葉に、思考を巡らせるカイアスは、嫌な予感がしていた。案の定、予感的中する。ジルアンの考案に、カイアスは嫌気がさしていた。表情が曇り、徐々に不機嫌になっていった。


 「二人でミレーナに話し掛けるのですよ。父上の生写しである私と、お祖父様の生写しである兄様。私達が目の前に現れたら、どういう反応をするのか見てみたくありませんか?クライシス総帥閣下のように、本音を口にするとは思いませんか?一か八か試してみたいのですが、いかがでしょうか?」

 「お前なぁ、何を言っているか分かっているのか。私達は姉上の援護が目的でここに居るんだぞ。余計な真似は出来ない。分かったら、じっとしてろ。」

 「では、なぜ封筒を取りに行かせたのですか?」

 「封筒はクライシス総帥閣下に渡す為だ。」

 「意味がわからない。そういうところは、本当に父上に似ていますよね。変に慎重というか、賭けに出ないところが。じっくり考えて行動するところなんて、まさに父上と同じです。これが終わったら、さっさと皇帝にならなければいけないのですから、さっさと片をつけて欲しいのに。ほんと頭が固いなぁ。」


 ジルアンとカイアスは、意見の相違が原因で兄弟喧嘩が勃発しそうになっていた。しかし、タイミング良くゼンが戻って来た為、間一髪の所で喧嘩は回避される。二人は、怒りをグッと堪えるように掌を握りしめていた。


 (え⁈ 今、殴ろうとしてたよな。すぐ力にものをいわせようとして。二人とも、恐ろしく気性が荒い。さすが、ザシランの血が流れているだけある。)と喧嘩を回避できて安堵しつつも、ゼンは任務に集中する。


 「カイアス様、お持ち致しました。」

 「早かったな。助かる。」


 カイアスが封筒に気を取られている隙に、ジルアンの耳元で自分の意見を囁くゼンは、ジルアンの考えに強く共感していた。しかし、地獄耳のカイアスには全て筒抜けであった。


 「ジルアン様、私はその賭けに賛同致しますよ。」

 「ゼン、貴様は余計な事は言わなくていい。」

 「はっ。」とカイアスの怒気を含んだ声に怯み、一旦退避しようとするゼンを、咄嗟に引き留めるジルアンが、嬉々とした声で囁く。


 「ゼン、うまくやってみせるから。まぁ見ててよ。面白い事になりそうだ。」

 「悪い顔してますね。」


 ジルアンは、何かを企んでいるような悪巧みの顔となる。不敵な笑みを浮かべながら、頭の中で瞬時に計画を練っていた。


 カイアスの制止をいとも容易く振り切ったジルアンは、突如、物陰から姿を現した。悪びれもせず、平然と歩くジルアンは、ミレーナの元へと近づく。

 クライシスに一礼した後、ミレーナを見下ろすジルアンは、なぜか微笑んでいた。

 そして、ジルアンの凛とした声が謁見室内に響く。固唾を呑んでジルアンの行動を見守るライラやカイアスは、あっという間にジルアンがザシランと重なっていた。

 恐ろしいほどに、ジルアンはザシランに似ていた。


 「あの見せかけの笑顔と穏やかに話す声に、何度、騙されたことか。まさしく、あの顔だ。全て見透かされている腹黒い顔。」

 「わざと似せて演技しているのよ。それにしても、本当にザシラン陛下がいるみたいで怖くなってきたわ。あの目が嫌いなのよ。なに考えているのか全然わからない目。」

 「若かれし頃の、あの、誰も寄せ付けない孤高のザシラン様だな。」

 「ああ、誰もが恐れをなした、あの日、あの時代に生きていた悪魔の皇帝、まさしくその人物が、今ここに存在している。」

 「噂通り、まさしくザシランの生写しだな。見てるだけでも、背筋が凍るようだ。」


 口々にザシランの悪口などを言い合う。

 けれど、ライラ、カイアス、シモンズ、ゼン、グレンの五人は、ザシランを思い出しながら郷愁に浸っていた。

 いつもいつも、たくさんの方々に読んで頂き、本当にありがとうございます。

 できる限り早く投稿すると宣言しておきながら、遅くなってしまい、大変申し訳ございません。

 次話も引き続き、キールッシュ帝国側目線での内容を描いていく予定です。

 今後も読んで頂けたら嬉しいです。

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