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77.ライラとエミリアの想い

投稿が遅くなり、大変申し訳ございません。


 「エミリアは?ご無事でしょうか?」


 ライラの第一声は、エミリアの安否を心配する言葉であった。ライラはアリアナの死後、自責の念に駆られて、せめてもの罪滅ぼしにとエミリアを陰ながら護り続けることで、自分を見失わず、自我を保ち生きてきた。エミリアの存在がライラの生きる糧、生きる希望でもあった。

 

 無言を貫くシモンズに、ゾーゼフが応える。


 「エミリアは、無事です。任務終了により、オリビア連合国に帰還する準備をしています。」


 ゾーゼフの言葉に、ライラは驚きを隠せない。ゾーゼフが発した言葉に納得がいかず、否定する言葉を継ぐ。ライラの頭の中は疑問符で埋め尽くされていた。自分が思い描いていた終わりとは、遠くかけ離れていたのである。またしても理不尽な世情に憤りを感じていた。


 「え⁈ どういうことでしょうか?なぜ、オリビア連合国に?エミリアは、ライオネルとようやく結ばれるのですよ。どうしてそんなことに。これではあの二人は、またこれからもずっと苦しんで生きていくことに………。それはあんまりではないですか。………どうして、どうしてあの二人ばかり………」


 言葉を詰まらせて泣き崩れるライラに、ジルアンが優しく肩に掌を置いて囁いた。

 「姉様、御事情があっての決断なのでしょうから。」

 続けてカイアスも、ライラの肩をぽんと叩いて呟く。

「二人が決めたことを、我々がとやかく言うのも不躾ではございませんか。」

 ジルアンとカイアスを見上げたライラは、泣きながら言葉を紡ぐ。 


 「しかし、それではエミリアの幸せは、(わたくし)の苦労は。………姉上に、顔向けできないわ。護ると、エミリアを幸せにすると約束したのよ。こんな醜い女の所為で、これから先も人生を台無しにして生きていかなければいけないなんて、そんなの間違っている。もう戦いは終わったのよ。あの子達には、幸せと自由を与えなければいけないと思わないのですか。払った犠牲の対価は、いつ払うのですか。大人達が道理に反してばかりで、これでは示しがつかないではありませんか。だから、この国はとうの昔から腐敗しているのよ。」


 ライラの切実な想いが、次から次へと言い放たれる。

 この場に居合わせた全員が、複雑な表情をしながらライラの言葉を呑む。


 静まり返った舞踏会ホール内は、ライラの啜り泣く声だけとなっていた。


 エミリアは天井裏で、ただ静かにホール内の様子を見ていた。

 ラナや諜報員達は、エミリアの寂しげな背中を、息を呑んで見守ることしかできなかった。

 エミリアは、泣きながら心情を吐露するライラの姿に胸が痛くなる。


 (どうして、自分なんかの為に。ライラ様の方が、随分苦労しただろうに。きちんと伝えて、御礼を申し上げなければならないわね。)


 エミリアは、後方で待機する諜報員達とラナに指示を出す。


 「皆は先に謁見室へと向かって。私はライラ様に説明した後、すぐに向かうから。」


 にっこりと穏やかに笑うエミリアの表情に、ラナは不安に駆られていた。

 多くの犠牲を払い生きてきたエミリアは、自制心が強く、感情を飲み込みすぎるところがあった。エミリアの笑顔の裏には、苦しい心を我慢する、強い自己犠牲心が隠されていた。


 「お嬢、無理しないで下さいね。」とラナは心配になり、思わず不安を口にしてしまう。

 軽く頷くエミリアの表情に、ラナや諜報員達は、一気に悲しみが込み上げて、胸が締め付けられていた。


 エミリアは目を赤くして、今にも泣きそうな顔で、ホール内へと降り立って行った。

 

 ホールに降り立つエミリアは瞬時に、ライラの前に跪き敬礼する。

 いきなり現れたエミリアの姿に、周囲は一瞬ざわつくものの、その後は、固唾を飲んで二人を見守っていた。


 「王妃陛下、お初にお目にかかります。(わたくし)は、エミリア・ネモフィー・グランドと申します。先立ってご無礼をお許し下さい。陛下の話を勝手に盗み聞きしてしまい申し訳ございませんでした。そして、ゾーゼフ元帥様の御言葉の証明をさせて頂きたく、馳せ参じました。

 (わたくし)は、今後、オリビア連合国軍の諜報員に正式に就任する処遇であります。

 ライオネル王太子殿下におかれましては、新生ロズウェル国の王となり、伴侶となる王妃におかれましても、改めて、(わたくし)を除く婚約者候補の中から選定する事が決まっております。王妃最有力候補として、バルツバーク公爵御令嬢キアラ様の名が上がっております。お二人が結ばれた暁には、ロズウェル国の輝かしい未来が約束されると、高位貴族達は大いに期待を寄せております。

 輝かしい未来と、民の幸せが守られるのですから、この上ない幸せでございます。」


 エミリアは、項垂れるライラの手を包み込む。

 エミリアの目からは、涙が流れていた。

 手に落ちた涙の雫に、ハッと顔を上げるライラは、エミリアの青く綺麗な瞳に胸が痛くなる。

 エミリアは涙に声を詰まらせながら、言葉を紡ぐ。


 「私は…………此度、ライラ様のお命をお護りすることができて、漸く御母様との約束を果たせました。今日まで、私のことを想い、お護り頂いたこと、心よりお礼申し上げます。このご恩は一生忘れません。恩に報いる為にも、争いのない世を築く礎となるべく尽力していく所存であります。

 ロズウェル国、キールッシュ帝国、オリビア連合国、そしてユニタスカ王国は、同盟締結をして、平和な国づくりをしようとしております。不躾なお願いですが、ライラ様は、ユニタスカ王国の女王として、これからも助力して頂きたく存じます。更なるご活躍を心から願っております。故に、どうかご自身の命を大切にして下さい。

 それでは、私はここで失礼させて頂きます。」


 ライラから手を離して、敬礼するエミリアは、この場から立ち去ろうとしていた。

 踵を返すエミリアに、ライラは言葉を噛み締めるように、ゆっくりと話を始める。

 

 「(わたくし)には、もうそんな地位や身分はありません。そもそも、この世に生を享けた時から、存在しないに等しいのですから。

 貴方の御父上は恨んでいるでしょうね。愛する女性を殺した人物が(わたくし)だとお思いでしょうから。エミリアも思い当たる節があるでしょう。貴方の愛する王太子を殺そうとしたのは、紛れもなく、この(わたくし)なのですから。

 わたくしの命なんて、もうこの世から消えたも同然なのです。………後は塵となり消えてなくなるだけです。」


 自嘲めいた笑みを浮かべて、ゆっくりと立ち上がるライラは、踵を返して扉の方へと歩き出した。


 ジルアンとカイアスは、「姉上、どこに行かれるのですか?」「姉様!待って下さい!」とライラを呼び止めようとする。


 エミリアは、咄嗟にライラの腕を掴み、「ライラ様!お待ち下さい!ライラ様は、何も悪くありません。全て、正当防衛ではありませんか。御父様も私も、だれ一人も、ライラ様を疑うなど、そんなこと、思うはずがありません。恨むなんて、そんな滅相もありません。

 王太子殿下は、女性の正体が誰であろうが、自分の身代わりとなった女性が、目の前で溺れているのを見て、ただ助けようとしただけの事ですから。御母様に至っては、ライラ様を一番に護りたかったのです。辛い境遇にたたされているライラ様を救い出したかった。幸せになって欲しかった。ライラ様の幸せを誰よりも願っていたのは、私の御母様ですから。どうして今更、そんな過去の話をされるのですか。

 もう終わりにしませんか。自分を犠牲にする人生は、もう今日で終わりです。謙遜も、我慢も、苦労も、諦めも、そんなの全て、ただの飼い主に従順な犬でしかありません。美徳でも、なんでもありませんから。

 …………カミラ様の命令に背く行為は、心優しいライラ様にはお辛かったのではないですか。

 どんなに虐げられても、母親は母親です。

 母親に愛されたいと思うのは当然のことです。

 だから、命令に従うしかなかった。そうですよね。でも、途中で気づいたのです。自分が間違っていることを。理性が働いたから、自ら湖に飛び込んだのではないですか。

 そして、あの日、王妃の自室にいたのはカミラで、ライラ様はカミラの命令に背いたのです。アリアナに、そして王妃マリアンヌ陛下に毒薬を盛れなかった。ローラ様に剣を向けたのは、痺れを切らしたシーラですよね。

 ユニタスカ王国の命令で動いていたカミラが、自分の失態の責任をライラ様にかぶせて、毒を飲ませて殺そうとしたのを、御母様が代わりに飲んだ。罪をライラ様に、メレエナーラ側妃に着せたくない、濡れ衣を着せられたライラ様を護りたい、その一心で。ライラ様が、いずれロズウェル国の王妃となりクレイアス国王と幸せになれると確信したから。

 現実は、そう甘くはなかったですが、それでも御母様は宿敵を倒した、終わったと、思ったのです。あの日、あの場所で。…………あの日、我が家に帰還した御母様は、穏やかな死顔でしたから。」 


 エミリアの言葉に、ライラは声にならない掠れた声を紡ぐ。一縷の望みに縋る思いで訊ねた。 

 

 「貴方の幸せは?エミリア、貴方の幸せはどうなるのですか。貴方も、貴方の方こそ、呪縛から解放されるべきではないのですか。」


 ライラの言葉に、エミリアは柔らかな声で、穏やかな表情で応えた。

 固い決意、志を決して曲げることはない。

 エミリアの強い心が、顔に表れていた。


 「………もう十分すぎるほど私は幸せです。こうして大勢の仲間もいて、信頼できる一族郎党もいて、好きな仕事に没頭できるのですから。だからこれからも変わらず、幸せです。そして新しい地で、また新たな幸せを見つけます。

 前に、自由な道へと歩んで参ります。

 ライラ様も今度こそ幸せになって下さい。ライラ様こそ、幸せにならなければいけないお方なのですから。もうこれ以上、ご自分を犠牲にしないで下さい。」


 掴んだライラの手首を優しく摩り、深く頭を下げるエミリアは、さっと涙を拭い、にっこりと笑った後、倒れている敵の男を担いでライラの前から姿を消した。


 ライラは天井を見上げた後、顔を手で覆い、嗚咽を漏らして泣いていた。


 「エミリア」と呟き、再び泣き崩れる。


 ジルアンは、ライラの傍に近寄り、泣き崩れるライラを抱き抱えた。

 カイアスは、帝国軍の暗殺者達に命令を下す。その姿は、もはやキールッシュ帝国皇帝のような威厳のある風格であった。


 意識を失った宿敵は、帝国軍が謁見室へと運んで行く。他の面々も足早に謁見室へと向かって行った。


 静まり返る舞踏会ホールに、エミリアが現れる。牢屋に敵を収容後、再びホールへと戻って来たのである。



 「ありがとうございました」



 舞踏会ホールを見渡してお辞儀するエミリアは、灯りを消して、謁見室へと向かって行った。


 いつもいつも読んで頂き、本当にありがとうございます。予想より長文となり、読むのが大変だったと思います。いつもながら長くてすみません。

 それぞれが抱える複雑な事情があり、うまく描けていたかはわかりませんが、ライラとエミリアの想いが伝われば良いなぁと思い書いていました。


 次話から、ミレーナ断罪場面になると思いますので、これからも読んで頂けたら嬉しいです。

 


 ※少々脱字や間違いが多く見つかり、訂正しました。


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