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75.エミリアの新計画

 「ごめん、遅くなった。どうわかった?」

 「いいえ。」

 「あっ、そう。」


 ラナに素っ気ない態度をとるエミリアは、ゼンに事実確認した後、瞬時に天井裏へと戻る。戻って直ぐに、出題した問いの答えをラナに求めていた。

 エミリアはホールに降り立つ前、ミレーナの隣にいる男の正体が誰なのか、ラナに問題提起していた。

 見覚えのある顔と声、不審な動きと怪しい表情。どう見ても、あの男一人だけが浮き足立っているようにしか見えないエミリアは、ミレーナよりも隣に立つ男ばかりに目が行く。

 早々と、先々のことを考えるエミリアの頭の中は、もう既に男の正体を想定して、今後の計画の見通しを立てていた。

 そもそも問題提起した時から、ラナの答えには、はなから期待はしていなかったが、ついついラナを試してしまうエミリアは、全然悪気はなかった。

 けれど、ラナは悪ふざけがすぎるエミリアに、心底嫌気がさし始めていた。いつも任務中、ラナはエミリアに振り回されてばかりであった。


 エミリアは、冷たい態度をとった後、主観と計画を矢継ぎ早に言い放つ。


 「絶対に彼奴は敵。額の汗が怪しい。完全に焦りを隠しきれていない。暗殺者としては失格ね。まぁそれはいいとして。私があの若い男三人衆を倒したから、もう残すは、あのくそばばあと自分しかいないでしょう。それは焦るわよね。………でも何か、引っ掛かるのよね。たぶん、どこかで一度は会っているはずなのよ。あの男、うーん。まっ、いっか。悩んでる時間もないし。

 えーとですね。では、私達の仕事は、まずライラ様を死なせるわけにはいきませんから、とりあえず、敵から回避させます。あの男とミレーナは、私が倒すから。おそらく、私の予想では、あの男は、王国軍の工作員ではないかと思うのね。でも、王国の王城は帝国軍が占拠しているらしいの。何たって、あの小憎たらしいバカ男は、あそこにいる帝国の第一皇太子に殺されたみたいなのよ。もうびっくりしたわ。で、あの男はまだ、その事実を知らない。何でロズウェル国、それもミレーナの配下として潜入しているのか、まぁ、だいたい予想はつくけど、殺さない程度に痛めつければ、自供するでしょう。そしてね、たぶんミレーナは拳銃を隠し持っているはずだから、あれを使おうと思うの。名付けて、吃驚仰天作戦を決行します。腰でも抜かして動けなくなればいいのよ。ふっふふふ。」


 ラナは相槌を打ちながら、心の中で嘆き、溜息を吐く。桁外れな能力と尋常ではないほど人格豹変するエミリアに、呆れ返っていた。


(全然、分かりません。というか、男の顔すらもはっきり見えないのに、誰かも分かるわけないでしょう。汗なんてかいてるのさえも分からないわよ。お嬢は私のことを買い被りすぎですから。一緒にされても困ります。今のところ、お嬢と同等レベルの方は見たことありませんよ。誰も追いつけませんから、もう少しお手柔らかにお願いしますよ。なんだか一度会っているように言いますけれど、一度じゃ覚えてないですから。

 あの若い男達をあっさり倒したように話しますがね、お嬢でなければ、そううまくいかないですからね。どれだけ犠牲になったことか。そして、ミレーナとその王国軍の男は自分が倒しますからって。はぁー、もう怒られても知りませんからね。自分の話ばっかりして、早口すぎて聞き取れないし。どうせ私が何を言っても、無駄でしょうから、何も言いませんけど。もう敵しか見えてないようですし。はぁー。)


 ラナが心の中で嘆いている間に、エミリアは何やら重たい物を運んでいた。

 それは、ザィードとミレーナの娘セレンを、そっくりそのまま模した特注人形であった。

 グレンが拳銃で二発撃った相手は、実はこの人形であり、本物は瞬時に捕縛して、人形とすり替えていた。

 セレンは今頃、牢屋で怒り狂い、発狂しているだろうと想像するエミリアは、「セレンさん、お仕事ですよ。」と人形に話しかけていた。



 「ふぅー。重い。いつも思うけど、これ、もっと軽くならないのかしら。」

 「無理みたいですよ。これでも過去最高の軽さとか言ってましたけど。」

 「え⁈ これで⁈ はぁ、そうなの。そう言われたら、何も文句は言えないわね。

 では、この紐を通して、よし、これで良いわね。そろそろ逃げる時間かしら。」

 「はっ。では参りましょう。」

 「ふっふふふ、楽しみね。」

 「今日も一段と恐ろしい顔してますねぇー。」

 「え⁈ そうかしら。」


 エミリアとラナは、会話を弾ませながら、用意周到に着々と計画を進めていた。


 丁度、ミレーナの真上に位置する場所に、エミリアが到着すると、ミレーナと男が動き始めた。予測していた通りのタイミングで、正確な動きを見せるエミリアは、狙いを定める。


 そんな最中、突如グレンの叫び声がホール内に響き渡る。


(おお、そうきましたか。敵さんは、どれどれ。ふっふふふ。)


 一旦、思案するエミリアは、想定外の事態が起きても至って冷静である。しっかり敵を捉えて、臨機応変に対処していた。

 身構える敵の武器を確認して、瞬時に防弾服を着用した後、敵の後方に移動するエミリアは、タイミングを見計らい、重たい人形を背負ったままホール内へと降り立った。


(人形も重いのに、この服も重いわ。もっと鍛えなきゃだめね。もう重いから、さっさと終わらせてしまいましょう。)


 多少、息が上がってはいるが、動きは変わらず機敏なエミリアは、躊躇せず敵へと接近していった。


 一方その頃ラナは、全く別の場所へと向かっていた。


 「ゾーゼフ元帥、ゾーゼフ元帥。」

 「うーん?おーラナ、そんな所で何してるんだ?」


 ゾーゼフ率いるロウマン中将の部隊が、舞踏会ホールに向かって廊下を歩いている途中、隠し通路の扉を開けて、突如姿を現したラナは、扉から少しだけ顔をのぞかせて、ゾーゼフに声をかけながら、手招きをしている。

 ラナの手招き動作を疑問に感じて、立ち止まるゾーゼフは、王妃の援護命令に反しないか考えていた。

 けれどもラナはラナで、一刻も早く計画通りに行動しなければならない為、焦りが出ていた。


 「とりあえず、早くこちらに。」

 「ああ、分かった。」


 ラナの焦り顔に、事の重大さを認識したゾーゼフは、ラナの方へと駆け寄る。ゾーゼフの後を追うように、ロウマン中将の部隊も駆け寄って来た。

 直ぐに隠し扉のドアを閉めるラナは、ゾーゼフに状況説明とミレーナ捕縛計画を耳打ちした。


 「はぁ⁈ 」と大声を出すゾーゼフの口を塞ぐラナは「静かに。」と鋭い視線をゾーゼフに向けて、「これが最善策です。」と言い放つ。

 嘆息を漏らすゾーゼフは、手持ち無沙汰に戦意喪失していた。ラナの後について歩くゾーゼフとロウマンの部隊は、隠し通路を通り舞踏会ホールへと向かっていた。


◇◇◇

 時間は少し遡り、敵が動き出す前の舞踏会ホールでは、ジルアンとカイアスが、ライラが現れるのを息を殺して待っていた。

 するといきなりゼンが二人に近づいて、「話がある。」と小声で囁く。ゼンに耳を傾けるジルアンとカイアスは、ゼンの指示に従い、瞬時に奥の暗闇の中へと、三人揃って消えていった。


 シモンズは、ゼンと二人の皇太子が消えたことに気づき、グレンに目で合図した。


 (エミリア、何かするつもりだな。)


 シモンズは、エミリアの目的を察して、気づかれないようにミレーナの方へと視線を向ける。ミレーナと男が話をしているが、男の動きが妙に変であり、なんとなく違和感を感じる。

 いまいちよく見えない為、正確に判断ができず、グレンに確認しようと視線を向けた。

 なんと、グレンは鋭い眼光を男へと向けて、ミレーナがグレンに視線を向けていた。


 「おい、そんなに見つめるな。」と、咄嗟に囁くシモンズの目の前に、いきなり戦っていたはずの暗殺者達が、一斉に男の方へと駆け寄って行く後姿が見えた。

 シモンズはグレンに再び視線を向けた瞬間、突然「其奴は敵だーーーー!!!!!!!」とグレンが叫び声を上げて、走り出した。


 シモンズの静止を振り切り、男に駆け寄るグレンを追いかけるシモンズは、「待て!行かなくても良い!」とグレンに向かって叫ぶが、一分一秒を争う事態に、シモンズの声は一切届かない。


 男は、駆け寄る暗殺者達に銃を乱射した。

 盾も銃もなく、長剣もしくは短剣しか所持していない暗殺者達は、銃弾を避けるように縦横無尽に駆け回る。


 (ほぉー。敵さんは銃に慣れていないとみた。よし、チャンスだ。ふふふ、あの銃は私の物よ。)


 エミリアは人形を背負ったまま、急いで男に接近していく。被害を最小限に抑えたいエミリアは、周りに人がいないうちに仕留めたかった。そして、何より武器を奪われたくなかった。

 もはや、敵を仕留めるというよりかは、明らかに武器を強奪する為に、敵に向かっているようにも見えた。


 いきなり、迫り来る大きな物体の影に、狼狽えながら物体に向かって銃を連射する敵の男は、弾切れを起こす。

 人形を放り投げて、回し蹴りするエミリアは、見事、ハイキックが敵の首に命中して男は気を失い倒れた。瞬時に男の手から武器と、ポケットから残りの銃弾を奪うエミリアは、暗殺者達の方へと縄を放り投げて、牽制をかける。

 そして瞬時に、次の標的へと向かうエミリアは、暗殺者達を横目に、ミレーナの動きを見逃さなかった。

 エミリアは、微かに聞こえた音に反応を示す。微かな音の正体は、拳銃を手にした音に違いなかった。咄嗟に放り投げた人形を前に抱えるエミリアは、シモンズとグレン、暗殺者達の気配を感じ取りながら、頭の中で残りの時間を推し量る。

 ミレーナの方が、敵の男より銃の扱いに慣れている為、慎重に行動したいが、もうそんな猶予はなかった。勢いそのままに突進するエミリアは、無謀な行動に出た。


 突然、人形の顔に光が当たる。


 暗闇の中に、突如現れた光り輝く人形の顔を見たミレーナは、腰を抜かして、へなへなと床に座り込む。だが、こんな事で怯むような人間ではないミレーナは、すぐに気を取り戻して、人形の顔目掛けて発砲しようと銃口を向けた。


 すると、人形の首がボキッと折れて、ボトっと前方へ落ちる。


 なんとも運悪く、人形の頭部がミレーナの頭を目掛けて落ちてきた。

 折れた人形の頭は、ミレーナの頭に命中する。

 ミレーナは、そのまま気を失い倒れた。



 「うっわ、最悪。」



 嘆くエミリアの声を掻き消すように、ホール内は、歓声が上がっていた。



 いつもたくさん読んで頂き、ありがとうございます。

 これからもよろしくお願いします。



 急いで投稿したので、確認してみたら間違いが多く見つかりまして、所々、修正と文章を追加しました。そこまで大幅には修正していませんので、いつもいつもすみません。


 そして今回、やっとミレーナが捕まりました。なんかあっさり戦いシーンが終わってしまいましたが、まだまだこれから、本題に深く関わる因縁の戦いシーンを描いていく予定にしていました。

 また色々と新事実が判明しますので、最後まで読んでいただけたら、嬉しいです。



 

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