71.計画実行⑤
冒頭から残酷な描写となっておりますので、苦手な方は、ご注意下さい。
「マーガレット‼︎」
「マーガレット嬢‼︎」
マーガレットの元に、慌てて駆けつけるライドとラナは、表情に焦りと苛立ちを隠しきれていない。
嫌でも視界に入るエミリアと三人の敵を見た途端、落胆の表情へと一変する。
首を垂れて、大きな溜息を漏らしていた。
「嗚呼、間に合わなかった。」
「え⁈」
ライドの嘆息混じりの呟きに、ラナも同感して頷いている。
マーガレットは、ライドとラナの謎の言動や行動に驚いていたが、エミリアではなく、自分を援護する為だけに、駆けつけたと察して、心苦しくなっていた。逃げ出したい衝動に駆られるマーガレットは、敵との戦いを振り返る。自分は、ただ一歩も動かず、じっと立っていただけであり、何もしていなかった。敵は全員、エミリアが物凄い勢いで倒していた。
エミリアは、迫り来る敵をマーガレットを盾にして、楽勝で倒してしまう。
青褪めるマーガレットの眼前で、エミリアの攻撃が炸裂する。飢えた獣達は、脂汗を流しながら吠えて、呻く。
猛獣に群がる、獰猛な獣達は、果敢に立ち向かうが、呆気なく仕留められる。
エミリアは、頑丈に紐で縛り付けた敵を、足で蹴って転がしながら、一ヶ所に集めていた。
白目を剥いて泡を吹きながら失神している者と、興奮してお仕置きを待ちきれない者、必死にもがいて抵抗する者には、短剣の先を喉元に軽く押し当てて、お仕置きを考えていた。
「綺麗な目をしているわねぇ~。目ん玉くり抜いてあげようかしら。ふっふふふ。」
「ふっ、お前の方こそ綺麗な青い瞳だろうが。やれるもんならやってみろ!目が無くなるくらい、どうって事はないからな!」
「あら、そう。潔い男は嫌いじゃないわよ。では、遠慮なくいかせて頂くわ。」
虚勢を張る敵の体に跨り、剣先を目に向けたエミリアは、冷ややかな目で敵を見つめて、不気味な笑みを浮かべた。左手で敵の額をグッと押さえて、目の中を覗き込むように、至近距離から敵と目を合わせる。右手に持った短剣を大きく振りかざして、敵の目を目掛けて、一直線に振り下ろした。
一瞬、甲高い男性の悲鳴が鳴り響く。男性は、ピクピクっと不随的に動いた後、全く動かなくなった。敵は意識を失い、完全に倒されていた。
興奮状態のもう一人の敵を横目に、ライドに向けて、にっこりと笑うエミリアは、行き過ぎた行動を反省する気など更々ない様子である。
エミリアを見ながら、額に手を添えて頭を抱えるライドは、呆れ返っていた。
「ふぅー。あのさ、リア、もうそのくらいにしておいたら。後は他の者に任せよう。因みに、ここがどこだか忘れていないよね。あんまりお城を血だらけにして欲しくないな。はぁ、良いね、分かった。では、マーガレット、私の後をついて来てくれないか。ラナ、後はよろしく頼んだよ。じゃあ、エミリア、また後で。」
「はぁーい。じゃあ、また後で。」
大袈裟に大きく手を振り、愛嬌を振りまくエミリアと目配せを交わすライドは、次の計画実行へと移り始めた。
マーガレットは、エミリアの隠された本性を知り、あまりの恐怖に言葉を失う。
平然と後片付けをするラナに「まさに、侍女の鑑です。」と、ちょっと思考はズレているが、感銘を受けながら、ライドと共に去って行った。
敵を回収に来た諜報員達は「わぁ!これはまた、随分と派手にやりましたね。」と苦笑いをして、嘆息を漏らす。敵を担いで消えて行った。
「ははは。」
男性の悲鳴に、笑いが込み上げて、涙が止まるグレンは、濡れた頬を袖口でサッと拭い、シモンズと目配せを交わす。二人は小声で、グレンの作戦を確認していた。
「この後は、どうする?」
「そのまま、体勢を変えるな。ミレーナが気づいていないようだから、ここで簡単に説明する。」
ゆっくり瞬きを一回して、グレンに応えるシモンズは、銃口を頭に突きつけたまま、違和感がない程度の距離まで、グレンに近づく。
「俺が率いる暗殺者のうち、数人は帝国軍で味方だ。ライラの命令で、俺の後に潜入してきた者達だ。見えるか、今、ミレーナがべったり寄り添っている、あの男は我々の味方だ。おそらく、ライラがもうすぐここに来る。そしたら一斉攻撃だ。見る限り、敵はミレーナしか残っていない。強敵の若い男が三人いたが、さっきの悲鳴が、全滅の合図だ。アリアナに似てほんと強いな。後、問題なのはユニタスカ王国軍だ。外堀の奴等は倒されたみたいだが、今から、この国に攻めて来るはずだ。彼奴らは、帝国より卑劣だからな。」
シモンズはもう一度、ゆっくり瞬きを一回して応える。体勢を変えずライラが現れるのを待っていた。そして、ミレーナと視線が合わないよう、注意しながら周囲を見渡す。
突如、背後の暗闇から、一人の男が現れる。気配を消して現れた男の正体に、シモンズは呆れているが、グレンは安心感を覚える。
「ほぉー、よく頑張ったようだな。偉いぞ、グレン。」
現れたと同時に、グレンに銃口を向ける男の声を聞いた途端、グレンは涙目になり、男と目を合わせる。
なんと、キールッシュ帝国第二皇太子カイアスの従者ゼンがいきなり現れた。グレンの先輩であり、尊敬する人物の登場に言葉が詰まる。
「グレン、ありがとな。」
キールッシュ帝国皇帝暗殺後、忽然と姿を消したグレンに、仲間達はだれ一人も、グレンが裏切ったとは思っていなかった。仲間全員がグレンを信じて、密かに協力していた。
ゼンの感謝の言葉に、グレンの目から涙が流れていた。
「シモンズ、抜けがけはずるいぞ。俺を置いて行くなよな。」
「え⁈ なんで⁈ 何しに来たんだ?」
「宿命の敵を倒しに来た。」
「は⁈ お前の敵は違うだろう。もう終わるから帰れ。こんな危険な所に、のこのこ来やがって、命がいくつあっても足らんぞ。」
「なんだ、その言い方は。折角、助けてやったのに、礼の一つもないなんて、相変わらず冷たい男だな。」
「で、何か大きな仕事してきたんだろう。教えろ。」
「はいはい。ユニタスカ王国軍を倒しました。」
「「え!」」
無表情で、しれっと言うゼンの言葉に、驚愕するシモンズとグレンは、少し声を上げてしまう。けれど、もうそれどころではなかった。俄に信じ難い話に食いつく二人は、興奮状態であった。
「いやぁー、案外あっさりだった。あの憎たらしい金の亡者の首も取ったから、もう安心だ。」
「は⁈ お前ら反政府組織だけで倒したのか?」
「そんなわけないだろう。俺らの敵は敵じゃなかったんだ。まっ、こっちも片がついたから、手伝いに来たってわけだ。実は、我らの宿命の敵も、あの悪女だったって事さ。」
「「はぁ、そうなのか。」」
自然と声が揃う二人は、あまりにも、とんとん拍子に物事が良い方向へと進み過ぎて、呆気にとられていた。そんな二人に、更なる衝撃が走る。
「ゼン、どこにいればいいんだ。」
またしても、暗闇から現れる男性。ゼンは男性を見るなり、嘆息を漏らす。
「は⁈ えー?待ってて下さいと言いましたよね。なんで来るかな。はぁ。」
「無理だ。」
「楽しそうな音が聞こえるから、足が勝手に動いてました。兄様、そうですよね。」
更に、男性の背後からもう一人男性が現れる。グレンは聞き覚えのある声に「え?!なんで?!」と目を丸くして、驚きを隠せないでいた。
なんと、今度こそ正真正銘、只者ではない人物が暗闇から姿を現した。
キールッシュ帝国第一皇太子ジルアンと第二皇太子カイアスが、並んで立っていた。
シモンズとグレンは、信じられない光景に、目を疑う。目を見開き、開いた口が塞がらなかった。
二人が、同じ場所にいることは、まずない。今まで誰も見たことがないくらい、あり得ない状況が起きていた。更には、ジルアンがカイアスを『兄様』と呼ぶ言葉に、衝撃を受ける。
おかしな顔となるシモンズとグレンを見たジルアンは、くすくすと無邪気に笑っていたが、視線は遠く離れたミレーナを射抜いていた。
冷たい瞳の奥に隠されたジルアンの恨みは、計り知れないものであった。
いつもたくさん読んで頂き、本当にありがとうございます。
ブックマーク登録もして頂き、感謝の気持ちでいっぱいです。
今回、なんと、ジルアンが登場しました。
実は敵ではなかったという事実に、驚いたかもしれませんが、ここだけは最初から構想していた内容だったので、漸くここまで辿り着いた!って感じです。
今後も頑張って執筆しますので、よろしくお願いします。




