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7.通学中の出来事

 ここから暫く、話が遡ります。1話より前の話となり、学園生活から王太子救出前までを予定しています。

 突然、内容が変わりますが、繋がりが無い訳ではありませんので、読んで頂けたら嬉しいです。宜しくお願い致します。

 いつも通り、王宮から学園まで馬車で移動していた。諸事情により、漸く学園の正門前に到着する。


 前方に第二王太子を乗せた、豪華絢爛な馬車が停車していた。護衛の騎士二人が、近衛騎士団専用の馬から降りた。

 第二王太子が馬車から降りたので、騎士は前後に配置して、歩き始める。


 (さて、降りるとしますか。)


 ライオネルも馬車から降りて、一人で歩き始めた。歩いていると、第二王太子専用の馬車が、見たくもないのに視界に入り、費用が脳裏をよぎる。ライオネルは、溜息を吐いていた。


 本来であれば、同じ馬車に乗合した方が、王太子としての世間体も良く、また予算的にも好都合である。

 何故なら、前国王時代の戦による損失で国の負債が膨れ上がり、予算編成が難儀している為だ。これ以上、国民の負担を増やす訳にはいかないと日夜奮闘しているのに、たった一台の馬車で、全てが水の泡となっていた。甚だ腹立たしい。


 けれども、通学する為だけに、個人的に作製した豪華絢爛な馬車に、それも一人で乗り、私より先に到着しないと気が済まないらしい。

 どこまでもお粗末なのが彼奴の生き方である。


 それに比べて、私の乗る馬車は相変わらず古く、揺れも中々酷い。同じく一人で乗っているが、それは言うまでもなく、護衛が付かないからで、好んで馬車に一人で乗っている訳ではない。


 他の生徒達の視線が痛く、一度だけ通学に関する意見を述べたが、全て否定から入る人間とは知らず、無駄な時間と労力を費やした。元より、まともに話すらした事がないので、成立しない会話に唖然とした。


 否定しか出来ない彼奴が、自信満々に自分を次期国王と謳うくらいだ。それは、それは素晴らしい政策を打ち出すのであろう。

 政策に予算が足りるのであれば良いが。碌に計算も出来ない彼奴には、何も出来ないのが、目に見えて分かる。


 幼い頃から自由奔放、勝手気ままに生活している彼奴の将来が、逆に楽しみの一つとなっていた。



 馬車から降りると、直ぐにゴードンが駆け寄って来た。遠くからエミリアが優雅に歩いているのが見える。


 「おはよう!ライル。」

 「おはよう。」

 「どうした、元気ないぞ。」

 「ゴードン、朝からうるさいわよ。ちょっと邪魔よ。おはよう、ライル。」とエミリアがゴードンの体を押し退けて、間に割り込んで来た。

 「おはよう、リア。歩くの早くないか。」

 「うん?そう?貴方達が歩くの遅いのよ。」と首を傾げて、愛想笑いをしている。


 周囲が騒がしくなってきた。

 毎日の習慣に、気にも止めず歩いていたが、久々に三人揃って歩く光景は、かなり好奇で貴重なのであろう。悲鳴や歓喜の声が、五月蝿すぎて耳障りである。

 噂好きの貴族の端くれ達が、彼方此方でヒソヒソと内緒話を始めた頃には、ただいつも通り歩いているだけなのに、三人とも自然と溜息が漏れていた。


 「あー、今日リアがいるからかぁー?何で一緒になったんだ?朝から疲れるな~。」

 「はぁー??こっちだって一緒になりたくもないわよ。仕方ないじゃない、今日は寝坊したの。あーもう、今日は一段と厄介だわ。もうこの際だから諦めて、舞台俳優にでもなったつもりで、手でも振っときゃ満足するんじゃないの!」


 エミリアは、苛立ちを抑えきれず、ゴードンの腕にいきなり拳でパンチした。


 「おい!本気で痛いからやめろよ!ライル~、リアが暴力振るってきた。助けてくれよ~。」

 「無理だ。自分でどうにかしろ。リア、寝坊って珍しいな。大丈夫か?無理するなよ。」

 「そう言うライルも目の下に隈が出来てるわよ。お互い様じゃない。ふふふ。」


 騒ぎは一向に収まらず、白熱する。

 結局、エミリアの策に従うしかなかった。無論、逆らうと怖いからというのも一理ある。そして、負け戦をする余裕もなかった。舞台俳優演出に、渋々同意して、三人で一斉に四方八方を歩く生徒達に、微笑みながら軽く手を振った。


 エミリアは上機嫌であるが、ライオネルとゴードンは不機嫌が最高潮に達していた。


 “え~‼︎今、私に手を振ってくれたわ。なんて素敵なのかしら。

 キャアー!お美し過ぎて目が痛いわ。

 こんなの初めてよ。

 美男子が二人って尊いわ。

 学園で一番の美人に見つめられた。

 俺のこと好きなのかな。

 婚約申し込もうかな。

 いやーお美し過ぎる。

 何あの笑顔、破壊力が凄すぎる。

 スタイル良すぎだ。

 顔が小さ過ぎないか。

 唇が…なんとも言えない。

 お胸が、え~理想を遥かに超えて…抱き締めて欲しい。”


 周囲から様々な声が聞こえてくる。中でも、エミリアが一番色々と言われていた。中には卑猥な言葉も混じっていた。

 ライオネルは苛々して、じわじわと殺気が漏れる。


 突然、辺りが静まり返る。小鳥の囀りや歩く足音がよく聞こえるようになっていた。


 「リア、もう手を振るのはやめよう。俺が嫌だ。」

 「あら、嫉妬したの?私に好かれてもいないのに、お馬鹿さんね。じゃあね。」


 ライオネルを一瞬見つめて、エミリアは微笑んだ。手を振りながら優雅に歩いて行ったのに、まるで走っているかのように、遥か先へと行ってしまった。


 「いつも思うが、歩くの早いよな。走っても追いつけないな。……ライル良かったな。朝から一緒になって。」


 ライオネルがエミリアの後姿を見つめながら「あー。今日は良い日だな。」と微笑んでいた。


 ゴードンは、今日は『最悪の日』だと思っていたが、ライオネルに救われた手前、グッと堪えて我慢した。

 そして、エミリアへの仕返しを考えながら、ニヤリと笑っていた。



 遠くから、こちらを睨んでいる男が一人いた。第二王太子ロマイクスである。


 「何故、いつも彼奴ばかり人気なんだ。許せない!俺は未来の国王なんだぞ!そうだろ!ここにいる奴は全員、頭がおかしいんじゃないか!」


 (はぁー。お前が一番頭がおかしいからな。いつも、いつも、何が国王だ。一生なれるわけないだろう。全く馬鹿じゃないのか。俺はお前よりライオネル王太子殿下を護衛したいよ。)


 側に控えている護衛の騎士二人は、表情を穏やかにしながら、相槌を打つ。悪口はいつもと変わらず、心の中に封じ込めた。




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