64.計画実行①
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国王の謁見も終わり、参加者の貴族達は王宮の舞踏会ホールに集結していた。
本日のデビュタント・ボールで一躍注目を浴びたのは、純白のドレスを身に纏う、うら若きご令嬢達ではなく、間違いなく王妃メレエナーラである。変装を解き、本当の姿を現した王妃は、推定年齢、二十歳でもおかしくない美貌と若さであり、驚愕する参加者が続出する。実年齢も二十一歳であり、あながち見解は間違ってはいない。
長年、密かに隠し通し続けてきた真実を知り、漸くロズウェル国の実態が明らかになる。それにより、国王や王妃、第二王太子に向けられる視線は、より一層、冷たく鋭いものへと変わっていった。
「あら、まあ。またお会いしましたわね。うっふふふ。」
舞踏会ホールでは、デビュタントとエスコート役の男性が横一列に並び、向かい合わせとなって、ダンス開始までの一時の時間を、神妙な面持ちで待ち構えていた。並び順は爵位順であり、リリスの隣には自ずとセレンが立っていた。宰相の娘という肩書きで、常日頃から特権を行使するセレンは、我先と先頭に立ち、相変わらず傲慢な態度である。整列する男性に、愛嬌を振り撒く姿は、悍ましいほどに醜い姿であった。
(まじか。嬢ちゃんも、男なら誰でも良いときたか。)
セレンの呆れた行動に、最早、称賛の拍手を送りたくなるグレンは、エスコート役を存分に楽しんでいた。大規模な舞踏会に堂々と潜入して、更には最高位の称号を有するお陰もあり、気兼ねなく行動に移せていた。参加者の貴族との会話を流暢に嗜んでいるように見せかけて、それとなく探りを入れている。いとも容易く、淡々と事を謀り、事を成し遂げていった。
早々に計画を暴いて、ターゲットを確実に暗殺しようと目を光らせているグレンの行動を、逐一監視して報告する、グランド一族の諜報員達も、同じく目を光らせる。
グレンが会話を嗜んだ貴族は、全て変装した諜報員である事など、グレンが知る由もない。
オーウェン考案の“極悪組織一斉取締の会”は、計画通り順調に進んでいた。
◇◇◇◇◇◇
「総帥閣下、目的地に到着しました。」
「うむ、では予定通り、計画を実行する。マルコ大佐、頼んだぞ。」
「はっ!」
クライシス総帥率いる連合国軍は、定刻通りに、ロズウェル国に入国。王都のアスモンド伯爵邸前に馬車を停車した。中級クラスの軍隊を率いて入国したクライシス率いる連合国軍。目的地に到着する頃には、日もすっかり落ちて、辺りは街灯の灯りだけとなり、暗い街並みに、人影も見当たらない。
王都は国費削減により街灯が少なく、ここ数年は治安も悪い為に、夜に街を出歩く人は、余程のことがない限りまずいない。寂れた王都に、ロズウェル国の深刻な情勢が顕著に現れていた。
アスモンド伯爵邸前は、街路樹の影響もあり、更に薄暗く、人影を認識し難い環境である。絶好の好条件が揃う中、先に諜報員が邸内の様子を観察した後に、一気に攻め込む作戦である。一番の難関は、近隣に気づかれないように、秘密裏に始末する事であった。マルコ大佐率いる二等兵達は、ターゲットにひっそりと忍び寄る。
二手に分かれて任務を遂行するマルコ大佐の部隊は、四人編成である。お気楽に酒を飲み、悪い話に花が咲く当主と嫡男、自室で眠りにつく妻と娘を瞬時に捕獲。気絶させた状態のまま、馬車の床に放り込み、悪行の証拠書類を全て押収する。あっという間に任務は完了した。
その後、王城の地下牢に拘束する為、捕縛者は軍人二人の監視の元、王城へと向かっていた。途中、他の二組の部隊と合流する。ワイズ少将とニール中佐の部隊も定刻通りに、第一任務を完了していた。
連合国軍はロズウェル国に入国後、三手に分かれて計画を実行する。クライシスは、三部隊それぞれの司令官に、デビュタント・ボールでダンスが開始する前に、王宮東棟側の庭園前に集合する命令を下していた。三部隊共に、忠実に命令に従い、任務を遂行する。中級クラスの部隊とは言え、さすがは連合国軍である。厳しい訓練の賜物であった。
三部隊の中でも、ワイズ少将の部隊は、群を抜いて優秀であり、ベアルクス公爵邸で一家全員を捕獲した後、証拠書類から親族に当たる、ベル商会共同経営者のラーニッシュ男爵の名を見つけ出して、すぐさま男爵家へと向かい、一家全員捕獲していた。
ニール中佐の部隊は、国境付近の監視を命じられており、キールッシュ帝国へ逃亡するマチルダ、シーラ、そしてザィードを捕獲する。昨晩、ライラによって地下牢に収容されていたザィードは、何者かの仕業により、牢から脱獄していたのである。
それでも、ニール少佐の陰湿な誘導尋問により、牢から逃した共犯者は、ザィードの抵抗も虚しく、自白した事で明らかとなる。共犯者は、ザィードからの金銭授受に目が眩み、呆気なく手を汚した二人の衛兵である事が判明する。
捕縛者、計十五名を、東棟側の庭先で荷馬車にぎゅうぎゅう詰めに押し込み、王宮地下牢前で待機する近衛騎士団団長ファレルに、荷馬車ごと身柄を引き渡す。騎士団員の共犯も報告すると、即刻、地下牢の警備に当たる騎士団員二人は処罰された。
「クライシス総帥閣下、お久しぶりでございます。この度は、お役にも立てないような弱小の近衛騎士団に、重大な任務を命じて頂きましたことを、感謝しております。
我々近衛騎士団は、オリビア連合国軍総帥クライシス閣下に忠誠を誓い、誠心誠意尽力いたします。」
ファレルの宣言と共に、集結していた騎士団員は、一斉にクライシスへと敬礼する。
「期待しているぞ。良いか、気を抜くな。弱小と卑下しているが、国や王宮内を知り尽くしているのは、お前ら、近衛騎士団しかいない。訓練の成果を発揮する時が来た。悔いを残さないように、存分に戦え。やりたいように暴れて来い!そして勝利を掴みとった暁には、皆で美味い酒でも飲もうではないか。よし!持ち場に戻れ!」
「はっ!」
一斉に散らばって行く団員達の目は、闘志に燃えていた。団長ファレルは、団員達の変貌ぶりに、胸が高鳴っていた。
「おい、ファレル。なんか久しぶりにワクワクするな。やはり、クライシス総帥閣下は凄いお人だ。国王陛下の弟とは思えない。」
「そうだな。久々に騎士として、生きている心地がする。ヘイルズ、騎士団員で共犯者が他にもいないか洗い出せるか?幾つか思い当たる節があるだろう。」
「ああ、それは俺も考えてたさ。もう目星は付けてある。じゃあ其奴らを連れて来るから、準備しといてくれ!あー、お前も彼奴を逃すなよ。」
「おう!分かってる。」
第ニ近衛騎士団副団長ヘイルズと別れて、騎士団本部に向かうファレルは、ヘイルズと話していた共犯者を捕まえようと、駆け足で向かっていた。共犯者は、元近衛騎士団団長エレインの次男で、現在、第一近衛騎士団副団長のケビンである。次期団長の有力候補者である彼は、前々から職務怠慢と悪行を繰り返していた。背後にザィード宰相が見え隠れしている為、手出し出来ずにいたファレルは、いつの日か、悪行が明るみに出る日を信じて、着々と証拠を集積していた。漸く、積もり積もった鬱憤を晴らす時が来た。ザィードがボコボコに始末されていたのを見たファレルは、ケビンも同じくボコボコに始末しようと企む。
「彼奴はずっと、訓練をサボっているからな、俺には、手も足も出ないに決まっている。部下達の分もだから、それなりには痛めつけないといけないな。」と不敵な笑みを浮かべた後、建物の中へと消えていく。
直ぐに、建物の中から野太い男の悲鳴声と、悶え苦しむ声が聞こえてくるのであった。
「総帥閣下、第二任務に移ります。報告では、ターゲットはまだ邸宅内に居て、此方に向かう準備をしているようです。馬車に乗り次第、裏手から回ります。」
「うむ。ここまで良くやった。だが、ここからが本当の大勝負だ。失敗は許されんぞ。」
「はっ。」
どこからともなく現れる黒ずくめの男。諜報員イルマである。クライシスに耳打ちした後、瞬時に消えていった。ミレーナの動向報告の為、オーウェンもしくはライドの元へと向かう。
イルマが去った後、すぐに男娼風の装いを外套で隠した男性が一人、クライシスの前に現れる。クライシスに耳打ちした後、瞬時に王宮内へと消えていった。
この男は、ミレーナの男娼として、ヴェルシア公爵家に潜入していた連合国軍の工作員である。ミレーナが、馬車に乗り、王宮へと向かった後、公爵家に残る共犯者達全員に、催眠作用のある薬物を酒に混入して、摂取させていた。ミレーナが不在になると、高級な酒を飲み漁る奴等の習性を逆手に取り、あらかじめ高級な酒瓶に薬剤を混入して、一番先に手に取るように、罠を仕掛けていた。まんまと罠に嵌る共犯者達は、クライシスが到着する頃には深い眠りについている予定である。証拠書類の在処も、正確に報告されており、金庫の鍵の解錠方法も念入りに調べ尽くしていた。
「馬車に乗ったそうだ。では、我々も本拠地へ向かうとしよう。準備は良いか!」
「はっ!」
クライシス総帥閣下率いる連合国軍は、民がよく好んで着用する衣服を身に纏い、各々がロズウェル国民に成りすまして、闇組織の本拠地、ヴェルシア公爵本邸に向かい、馬車や大きな荷馬車を走らせる。
「さあーて、ミレーナが怒る、皺くちゃの顔を見るのが楽しみだ。」
冷酷無比なクライシス総帥閣下の凍てつく恐怖の笑みに、マルコ大佐の足は震える。
(元帥様ぁ~なぜ私が総帥閣下と一緒なんですか~。)
嘆き苦しむマルコの配置場所を決めたのは、ゾーゼフである。マルコは優秀であるが、他の軍人と比べて穏やかで、一際冷静に判断する能力に優れていた。慎重派のマルコを買い被るゾーゼフは、クライシスの暴走を道理的に抑えられる人物が、自分以外にマルコしかいないと判断した結果である。連合国軍では、本人の意思は、殆どが反映されない。致し方ない事であった。
王宮舞踏会ホールでは、国王陛下と王妃のファーストダンスに続いて、デビュタント達のダンスが始まる。
目を光らせる諜報員達を掻い潜り、敵はじわりじわりと距離を縮めていた。
殺伐とした雰囲気が漂う場内は、美しい音色に合わせて、華麗なダンスを踊る人々でかき消されていった。
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