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63.シモンズとグレンの関係性

 一際目立つ、ド派手で、豪華絢爛な馬車が一台、王宮の正面入口前に停車する。


 爵位順位により、馬車の停車位置はそれぞれ異なり、暗黙のルール通りに、建物の入口付近に停車するド派手な馬車。その後ろを、モダンでシックな造りの、品格ある馬車が近づいて来ていた。だがしかし、少し離れた場所に停車する。

 品格のある馬車から、四大公爵家の内の一人であるウィルストン公爵家御令嬢リリスが、早々と降り立つ。

 リリスの到着を待ち構えていたかのように、どこからともなく現れた一人の男性は、純白のドレスが汚れないように、華麗な立ち振る舞いでエスコートする。男性の腕に手を添えて、腕を組んで優雅に歩く姿は、さすがは公爵家、王家に引けを取らない、一流のマナーが身についていると窺える、美しい所作を見せる。

 羨望の眼差しを向ける、若い女性達からの視線を浴びながら、仲睦まじく談笑する二人は、王宮内へと入って行った。

 リリスには、幼い時から、幼馴染の婚約者がいる。お相手は、四大公爵家のバルツバーク公爵家御令息ルフォンである。エスコートする男性は、自ずとルフォンであった。二人は、ロズウェル国きってのビッグカップルであり、家柄的にも文句無しの、国王公認の紳士淑女である。そのうえ、政略的な関係にも関わらず、互いに好意的である故、羨望や嫉妬を抱く者が後を絶えない。そんな二人を妬む人物に、同じ公爵家の御令嬢も含まれていた。


 16歳を迎える若い御令嬢達の、正式な社交界デビューをする日ともあり、王宮には続々と貴族達が集う。馬車が停車する場所も限られている為に、長蛇の列をなしていた。


 突然、彼方此方から驚きの声が上がる。高貴な二人とは、全く違う意味で人目を引く女性が、漸くド派手な馬車から降り立った。不満そうに口を尖らせて、不貞腐れた顔を全面に押し出す女性を、優しくなだめて、エスコートする一人の男性は、想像を遥かに超える美丈夫である。

 女性の不満の矛先は、おそらく、リリスとルフォンであるに違いない。エスコート役の男性と付き添いの女性に、不満や怒りをぶちまける女性。その様子を伺う若い御令嬢達からは、美丈夫な男性を擁護する声が、チラホラ聞こえ始める。声に反応して、不機嫌なオーラを撒き散らし、毒突く女性に呆れる男性は、時間も差し迫っている為に、機嫌取りをしながら、無理矢理にでも歩かせていた。

 次第に、上機嫌となり、肩で風を切って颯爽と歩き始める女性。未だ、すれ違う参加者達からは、嘆きの声や、嘆息が漏れていた。どよめき出す貴族達の視線は、明らかに女性の煌びやかな装いと傲慢な態度に釘付けとなっている。予想通り、女性はデビュタントの注目の的であった。


 気にも留めずに、ゆっくりと王宮内の廊下を歩くリリスとルフォンは、後ろから歩み寄る女性に、いきなり声を掛けられる。


 「あら、まあ、今日もお二人揃って、本当に仲がよろしいこと。ふふふ。お先に失礼しますわね。」と追い越されてしまう。

 「今日も一段と派手ね。」と呟くリリスに、ルフォンは鋭い眼差しで、前方を歩く男性を見ていた。


 (あれが敵かもしれないな。お祖父様、見守っていて下さい。)


 心の中で、亡き祖父に祈りを捧げるルフォンは、デビュタントの目的を事前に伝えられていた。そして、それは、本日参加する全ての貴族にも、グランド公爵一族から内密に伝えられている。

 デビュタントという名目の、“極悪組織一斉取締の会”と名付けた計画は、全員が何かしらの武器を装備して、可能な限り私兵を、王宮の外縁に待機させる命令を、各貴族に下していた。

 バルツバーク公爵家は、祖父の時代に、反王妃派である事を理由に、苦境に立たされ、挙句の果てには、祖父はミレーナの手下に殺される。それでも屈することなく、グランド公爵家と共に、王家と対等に渡り合い、財を成して、今の地位を確立していた。今回の計画にも、すぐに賛同した後、総力を挙げて力を発揮してくれている。ルフォンは、慎重に構えて、臨戦態勢をとる。


 「ねぇ~。あの二人、どう思います?公爵令嬢の癖に地味な顔ですわよね。ドレスもイマイチで、同じ公爵家とは思えない。まぁ、お相手が不細工なルフォンですから、あれくらいで十分なのかしらね。うっふふふ。」


 学園で級友の二人に、嘲笑を浮かべて、嫌味を言う女性は、ヴェルシア公爵家御令嬢セレンである。学園では、下位貴族の仲間達と共に、リリスを妬み、悪態をついているセレンに、ルフォンは手を焼く毎日であった。クラストップの成績を誇るルフォンとリリスは、生徒会長のライオネル王太子から一目置かれる存在であり、先生や生徒からの信頼も厚い。また、セレンも端正な顔立ちではあるが、ルフォンとリリスも引けを取らない美しさがあり、欠点が見当たらない二人に嫉妬心を燃やしていた。

 一方で、セレンに呆れ返るエスコートの男性は、暗殺者のグレンである。ザィードが行方不明となり、ミレーナの命令で、エスコート役を担っていた。王宮に堂々と潜入したグレンは、影に潜む敵の配置を念入りに確認し始めている。じわじわと、ターゲット暗殺の機会を狙う。

 一瞬、セレンを見ながら、ニヤリと気味の悪い笑みを浮かべた。


 (相変わらず、野蛮な娘だ。本当、誰かさんにそっくりだよな。今から殺されるというのに、呑気だこった。それよりザィードは、此処にはいなそうだな。となると、とうとう捕まったか。まぁいいさ、時間の問題だったからな。ふっ、嬢ちゃんよ、その真っ白なドレスは似合わないからさ、首からぶら下げてる、その大っきな宝石の様に、真っ赤に染めような。どうせなら、皆んなの前で美しく咲いて見せよう。綺麗にしてあげるから、楽しみにしてな。あー、今回の仕事は幾ら貰えるんだ。割に合わなかったら許さないぞ。)


 グレンは、いつもと変わらず、冷静沈着であった。国王の謁見に、穏やかに応対している姿は、彼の猟奇的な性格が伺えた。狂気に満ちた男の目的は、だだ一つ、とある人物との約束を果たすことであった。

 見張るライドの背筋がゾワリと粟立つ。相手の隙を一瞬たりとも見逃さないグレンは、ライドがほんの僅か一瞬、グレンに視線を向けた目に、ピッタリと合わせてきたのである。一瞬で射抜かれたライドは、口角を上げて不気味な笑みを見せる恐ろしい顔のグレンに、恐怖を覚える。一気に不安が襲いかかり、急ぎエミリアの持ち場へと向かって行った。


 謁見待ちをするルフォンが、腕に添えられたリリスの手に、自らの手を重ねる。そして耳元で優しく囁いた。

 「リリス、何かあったら、必ず私の名前を呼ぶんだよ。わかったね。大丈夫、きっと無事に終わる。あのお方を信じよう。」

 リリスの手が震えている状態を見逃さないルフォンは、献身的に支えていた。落ち着きを取り戻したリリスは、ルフォンを見つめて、目で合図する。


 「素敵ですわね。あの二人、ずっと仲良しなんですよ。」

 「あら、そうなのね。本当にお似合いね。」

 「うっ、ふふふ。もう、叔母様ったら、笑わせないで下さい。叔母様もとても似合っていますわよ。」


 笑いを堪えるのに必死なサラは、付き添いの叔母役を演じる父親の変装や言葉遣いに、吹き出しそうになっていた。しかし、周囲の様子からして、誰も男性とは気づいていない。暗殺者グレンでさえも、目がばっちりと合ったが、気づいていなかった。女装を得意とするシモンズの完璧な変装に、国王夫妻はおろか、ライオネル王太子さえも、謁見の間、全くもって気づく素振りはなかった。


 (よし、順調だな。後はミレーナがいつ現れるかだ。グレン、お前は困った男だ。今度こそ、俺から逃げるなよ。)


 シモンズは、過去にグレンとタッグを組んで、暗殺任務を果たしていた事がある。グレンとは同じ孤児院育ちであり、年齢が近いこともあって、当時は、周囲も認める仲の良さではあった。シモンズと別れてからのグレンは、暗殺者の素質を存分に発揮して、ゼンが率いる反政府組織の一員となり、帝国で大活躍を成し遂げていたのである。

 しかし、キールッシュ帝国皇帝ザシラン暗殺の任務遂行後に、忽然と姿を消す。姿を現した時には、ミレーナの手下となり、刃を向けられていた。

 何はともあれ、敵と化した元相棒のグレンを始末するのは、シモンズの重大な役割でもあった。グレンとは、二度目の戦いとなるシモンズだが、前回の戦いは、あえなく失敗に終わっている。深傷を負ったグレンにまんまと逃げられてしまい、ミレーナ暗殺任務以来の失態を冒す。

 今回は、オーウェンが策を講じている為、足手纏いにだけにはなりたくないと、一心発起していた。未だかつてない厳しい訓練を積み重ねて、二度目の戦いに挑むシモンズは、グレンを一瞥して、ニヤリと笑っていた。



 いつも読んで頂き、本当にありがとうございます。


 投稿して直ぐに、名前間違えに気づいて、急いで修正しています。いつもいつも、間違いが多くてすみません。

 

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