表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/103

54.真相告白ーエミリア編④ー

 「不思議なことに、ザシラン率いる帝国軍の精鋭部隊は、クレイアス様一行に危害を一切加えず、交渉を持ち掛けます。ライラの身柄を引き渡す条件を提示されますが、カミラ、ロマイクスの命と引き換えにする内容に、クレイアス様は敵の意向を汲み取り、当初の予定通り、カミラとロマイクスを連れて、ロズウェル国へと戻って行きました。

 ライラを頑なに手放さない、ザシランの異様な行動に違和感を感じたモネとアリアナ、シモンズは衝撃の事実を目の当たりにします。ザシランは、実はミレーナの子供だったのです。本人から告げられた事実に、三人は唖然とします。

 ザシランは、ライラが自分の過去と何故か妙に重なり、ミレーナのいるロズウェル国に行かせたくなかったのです。そして、なぜかカミラが、ミレーナに重なって見えて、不安を募らせていました。

 帝国を共に築き上げた亡き父が、一度だけ語った母親に関する言葉。山間部の少数部族の長であった父親は、部族を守る為に、一度だけ関係を持った女性がいます。女性は、異国から移り住み、領地に有毒植物を許可なく勝手に栽培・繁殖をさせた、憎き一族の血縁でした。

 女性は、族長にミレーナと名乗ります。しかし、本名は、クローネ・サディアブル。”稀代の極悪人”の名で、長年、闇組織の頂点に君臨し続けてきた男、ネビル・サディアブルの孫でした。根絶したはずの一族は、生きながらえていたのです。

 『青い瞳の騎士が、悪魔を倒し全滅する』

 サディアブル一族と戦い、勝利へと導いた騎士が一族を根絶する、過去に実際に起きた戦いを、そのまま描いた実話があります。古くから伝承されてきた、ロズウェル国の民話であり、主人公の騎士は、前国王エスバーンの父親です。後に、嘘で塗り固めた『青い瞳の呪い』にすり替えられてしまいますが。

 ミレーナをロズウェル国の王妃に君臨させた真の目的は、サディアブル一族の屈辱を晴らす為ではないかと、御母様は悟っていました。ミレーナが思い描く、因縁の対決が幕を開けます……」


 「エミリア、もうそこまでだ。」


 隣に座るオーウェンは、娘のエミリアを気遣い、肩に優しく手を置いて、話を中断させた。俯き加減で涙を堪えているが、ゆっくり顔を上げて、父親のオーウェンに視線を向ける。

 エミリアが、サディアブル一族の因縁の相手と同じ瞳の色であるが故に、ミレーナの標的から逃れられない事を、オーウェンはとうに知っていた。だが、事実を受け入れられず、ずっと現実逃避していたのである。再び、耳にしたくない話を聞いて、現実に突きつけられる。焦りや不安に苛まれていた。

 

 気迫のこもった話を、真剣に聞き入る他の面々は、衝撃の事実に言葉を失い、押し黙っていた。心の内では、口を挟み意見したいが、言葉が見つからない。

 クライシスは、エミリアの言葉を反芻する。計画の練り直しと変更が必要であり、思考を巡らせていた。もう既に、戦略を紙に記し始めていた。

 マリアンヌは、漸くライオネルとエミリアの異変に気づく。話の内容から二人の“永遠の別れ”を察して、胸が苦しくなっていた。


 ライオネルは、エミリアを失う恐怖に襲われていた。心配や不安が募り、次第には、心に余裕もなくなり、気持ちだけが焦っていた。

 ゴードンは、この中で一番冷静であった。ライオネルとエミリアを注意深く観察して、二人の感情を読み取っていた。


 「御父様、後もう少しで話は終わります。最後まで言わせていただけないでしょうか。」


 真剣な眼差しが、最期の日に見た、アリアナの瞳と重なる。揺るがない固い決意に、オーウェンは折れるしかなかった。

 

 『一部の人間しか知り得ない情報だから、絶対に誰にも言わないのよ。わかったわね。』


 周りの様子を見る限り、三人の大人達は、情報を知らないのが、よく分かった。エミリアは、母親の告げた言葉の重みを実感して、自分だけに告げた理由を、漸く理解していた。

 もしも当時、サディアブル一族との因縁の戦いに挑んだところで、負けは確定していた。母親は、それを踏まえて、好機が来るのを待っていた。同僚のゼン率いる反政府組織が、壮大な野望の実現に向けた謀略を巡らせているのを知り、ゼン達の協力も得ながら、自分(アリアナ)は敵を徐々に追い詰めて、弱体化させる策略を練り、実行に移していた。そして、命懸けで敵と戦い、この世を去った。

 情報を自分(エミリア)に託した理由は、時が来れば、必ず口にせざるを得ない状況が訪れると確信していたからである。クライシスの想いを汲み取っていた母親は、いずれクライシスが宿敵と戦うと信じていたに違いない。

 狙い通りに、敵は弱体化しており、今が絶好の機会である。

 エミリアは、母親の想いに応えようとしていた。自分の使命は、一語一句、全てを伝えることしかないと感じていた。


 一呼吸置いたエミリアは、話を再開した。


 「ザシランは、暗殺計画を中止して、紛争を終わらせたことを後悔します。もしもあの時既に、ミレーナを暗殺していたら、余計な資金や労力を要さなかったからです。そう考えると、帝国一の暗殺ギルド長アイルの過ちは、決して許せるものではありませんでした。代償として、身分を剥奪、男の物を切除しました。今回は、なんとか命拾いをしますが、二度目の過ちは自ずと、死を意味していました。

 実母ミレーナ暗殺に闘志を燃やすザシランは、父親の無念を晴らすと共に“不実の子”と言われ、虐げられてきた幼少時代を払拭させる為に、普段よりも格段と卑怯で狡賢い皇帝ザシランに変貌します。ここまで性根が腐った人間になったのも、紛れもなくミレーナの所為でありました。悪女の子供であるが故に、もたらされた幼少期の酷い差別と、それにより植え付けられた、人間への強い憎悪が、心の成長に大きく影響していたのです。

 全てを知った、アイル、モネ、アリアナ、シモンズの最強暗殺者達は、ミレーナを仕留める為に、戦います。しかし、アイルはまたしても過ちを犯します。愛してやまないカミラと再び逃亡を図り、亡命したのです。ミレーナが裏で援護をしていた所為で、今度こそは本当に姿をくらまして、居場所も全く分からなくなりました。

 そんな矢先、突如ミレーナが帝国に赴いて来たのです。ザシランとの一騎討ちに、皇室内は物々しい雰囲気が漂います。けれど、すんなり和解して、呆気なく暗殺計画は、終わります。

 ザシランは、ミレーナの巧みな話術に騙されていました。皇帝にのし上がった後、昔より欲深い男になり、お金に目がない人間になったザシランは、ミレーナを救う代わりに、多額の資金を得ます。そしていずれは、ロズウェル国の全領土を譲渡する契約を交わしたのです。

 当時の宰相や重鎮達は、ザシランの目を覚まそうと、必死に説得を続けます。けれど、気が変わることはありませんでした。最早、クレイアスと同様に、ミレーナに従順な人間に変貌を遂げていました。もう手遅れでした。

 実は、ミレーナに薬物を盛られていたのです。ザシランは、優れた耐毒性能力を保持していましたが、異国の薬物には通用しませんでした。操り人形と化したザシランは、モネとライラの暗殺を指示されます。

 報せが届いたアリアナとシモンズは、再び帝国へと向かいました。

 この時、御母様は、誰にも言わずに、勝手に帝国へと向かった為、御父様の怒りが暴走して、グランド公爵家は大荒れ状態になっていました。

 一方でライラは、カミラとロマイクスが、ロズウェル国に帰国した後、ザシランの配慮により、モネと一緒に宮殿の別棟で暮らし始めていました。ライラは、モネを本当の母親のように慕い、モネは、ライラの気持ちに応えるように、たっぷりの愛情を注いでいました。

 突然、命の危険を感じた二人は、急いで逃亡します。知人のいるユニタスカ王国に、なんとか逃げた二人は、身を潜めて生活していました。

 そんな二人の潜伏場所に、伝を使い、居場所を知ったアリアナとシモンズが訪れてきます。身の安全を保障する為にも、ロズウェル国に潜伏場所を変える提案をしました。御母様はグランド公爵家に、二人を匿う予定でいました。急ぎ準備をして、ロズウェル国へと向かいます。

 しかし、ロズウェル国とキールッシュ帝国の国境で、ミレーナ率いる近衛騎士団第一部隊が待ち構えていたのです。」


 いつもたくさん読んで頂き、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ