50.真相告白ーエミリア編①ー
大変遅くなりまして、申し訳ございません。またまた長文になってしまいました。読みにくいとは思いますが、さらっと読んで頂けたらと思います。
「リア、君の母上から聞いた話を、今からここで話してもらえないだろうか。以前から幾つか気になる点があって、計画を実行する前に、白黒はっきりさせときたい。 グランド公爵閣下、宜しいでしょうか?」
ライオネルから真剣な眼差しを向けられたエミリアは、一瞬考えて悩む。アリアナから聞いた話の内容は、秘匿情報が多すぎる。言葉を選び、端折って話しても、うっかり秘密を漏らし兼ねない。虚言を弄して、上手く誤魔化すしかなかった。その場凌ぎとはなるが、致し方ない。エミリアはオーウェンを一瞥して、目配せを交わす。父親と娘の見解は一致していた。後は、ライオネルの反応を伺いながら、父親のようにうまく欺けると良いが、手強い相手な為、気は抜けない。万全の注意を払い、平静を装うエミリアは、真実である事を強調するかのように、至極真面目な顔をして話を始めた。
「当時はまだ8歳で、御母様から言われたことを理解するのは大変だったわ。それに呪うと言われたら、恐ろしくて、聞かなかったことにしようともしたわ。ミレーナ暗殺任務は、御母様が勝手に単独行動をした結果、殺されたのよ。自業自得なのよ。本当に酷い母親よね。はぁ。」
エミリアがわざとらしく溜息を吐いた瞬間、扉が開きクライシスとマリアンヌが大会議室に戻って来た。扉を開けるや否や、クライシスは身の毛がよだつ言葉を放つ。オーウェンとエミリアは背筋が凍り、顔が見る見るうちに青褪めていった。
「嘘は吐くな!姑息な手段は、あれほどやめろと言っただろ!オーウェン!そしてエミリア!そんな事を続けてたら、碌な人間にはなれんぞ!わかったか‼︎」
叱咤する声が室内に響き渡る。怒りを露わにするクライシスは、上に立つ者として、部下の過ちを黙って見過ごすわけにはいかない。厳しく忠告する心中は、誰よりも仲間を大切に想う、義理堅く、人情深いクライシスの性格が反映されていた。彼なりの激励の意を込めた言葉は、オーウェンとエミリアの心に深く刻まれる。
「部下としてあるまじき行為は、今後、二度としないように。次はないからな。わかったか。」
「「はっ。」」
跪き敬礼する二人を、塵を見るような冷たい目で見下すクライシスは、冷酷無比な総帥閣下の権威を誇示していた。威厳に満ちた姿と忠実に従う部下の姿は、まさに、真の主従関係を示していた。
ライオネルは、目の前で見せつけられた光景に、違和感を強く覚える。自分が知り得るエミリアは、もうそこには存在していなかった。心にぽっかりと穴が開いて、虚無感に襲われているライオネルは、呆然と虚な目をして、エミリアだけをを見ていた。
マリアンヌは、不安げな表情でライオネルを見ながら、思考を巡らせていた。
(何年経とうが、何も変わらないわね。王子と影……。そう言えば……。同じ運命は辿らせたくはないわよね。でもどうしたら。うーん。)
「マリアンヌ、君は怒っていたのではないのか?どうした?次は何だ?何を考えている?」
考え事に集中していたマリアンヌは、クライシスの気配に全く気づいていなかった。いきなり耳元に聞こえてきた囁き声に驚き、その拍子に視線を上げると、クライシスの端正な顔が至近距離にあり、ドッキとする。
「うわぁ。びっくりさせないでよ。もう、心臓に悪いわ。それより忠告は終わったのかしら。」
「ああ、終わった。どうかしたのか?珍しく、考え事か?」
「ええ、まぁ。アリアナを思い出していたら、少し色々と思うところがありまして。」
「そうか。これからな、アリアナについて話をしようとしていたから、丁度良い。何か間違っていたら忠告を宜しく頼むぞ。では、さあ始めるとしよう。」
クライシスは、オーウェンとエミリアに鋭い視線を向ける。
マリアンヌは、再び思考を巡らせていた。
(年を重ねても、変わらず顔は良いのよね。いやだわ、こんな年にもなって。不覚にもドキドキしてしまったわ。 ライオネルとエミリア、二人を見てると昔のクライシスとアリアナを思い出すわね。二人共、親の血をここまで引いているとは……。)
潔く諦めて、話を再開するエミリアの表情は、苦悶に満ちていた。私事を一切口にせず、更には感情も抑え込んでいるエミリアが、初めて私的な感情をあらわにしようとしていた。しかし、これから告げられる内容は、アリアナの壮絶な過去である。ライオネルはエミリアを見ていると胸が締めつけられて苦しくなる。直視できなかった。
一方でゴードンは、いつも通りに柔和な顔でエミリアを見つめていた。目が合い、瞬きを二回する。心の友であるゴードンの寛容な眼差しに、気持ちを落ち着かせていた。何があろうとも、いつも味方でいてくれるゴードンは、家族よりも心を許せる存在であった。
(ゴードン、どうしよう。絶対、助けてね。お願いよ。)
(リア、大丈夫だ。いつも通り、正直に話せば良いんだ。誰も咎めないから。だってさ、リアは何も悪くないだろ。俺がここで見守ってるから、安心しろ。)
自ずと、心は通じ合っていた。ゴードンを見ながら「ふぅー」と息を整えて、重たい口を漸く開いた。
「先ずは、虚言を弄したことを深くお詫び申し上げます。そして、これから話す内容は、秘匿情報となります。決して口外しないようにお願い致します。では、御母様の素性から話させていただきます。」
先程までとは打って変わり、意を決したような真剣な表情を見せるエミリアは、母親から聞いた事実とロズウェル国の現状を端的に告げていく。
驚愕の事実に、この場にいる全員が言葉を失う事となるが、周囲の様子を気にすることなく、次から次へと告げられる話の内容は、オーウェンでさえも知り得ない情報も含まれていた。
「本名、アリアナ・ネモフィー・グランド。別名、青い花。キールッシュ帝国、孤児院育ちの暗殺者である。我が国に留学中のカイアス皇太子専属従者ゼンの同僚であり、弟のシモンズ・アイル・スランダードも同じく孤児院育ちの暗殺者である。シモンズとアリアナは、全く血の繋がりもない赤の他人であり、二人を孤児院から引き取り、暗殺者として育て上げたのは、元グランド公爵家諜報員のモネと帝国一の暗殺ギルド長、アイルである。姉弟のミドルネームはモネとアイルの名であり、ネモフィーは、モネの数多くある別名の中から選んで付けています。
帝国軍の配下に所属していた四人は、暗殺任務の為だけに作られた、偽りの家族であり、アリアナは、モネと同じ青い瞳が理由で選ばれ、シモンズは、帝国内の孤児院で一番賢いという理由で選ばれています。そして同じく孤児院で共に過ごしたのが、ゾーゼフ元帥様です。
偽りの家族とはいえ、ごく普通に仲の良い家族であり、アイルとモネは婚姻はしていないが、互いに相思相愛であり、仲睦まじい本当の夫婦のようであったと話しておりました。
しかし、偽りの家族との時間は、そう長くは続きません。隣国ロズウェル国との戦争が激化していく最中、一人の女性が皇室に入内します。それも敵地のロズウェル国から、皇帝の妃として差し出されます。明らかに不自然な所業は、ミレーナの仕業であり、嫉妬による悪行は、キールッシュ帝国にまで及んでいました。
女性の名は、カミラ・メレエ・ベアルクス。エスバーン国王が最後に愛した女性、ミレーナによって没落されたベアルクス侯爵家の御息女である。ベアルクス侯爵家の爵位は、嫡男がいない理由により、親族である義兄のアスモンド伯爵家次男、エレインの父親に譲渡されています。現在は、ベル商会を経営している悪徳貴族の一人です。
アスモンド伯爵家は、現在、調査中ではありますが、幻覚作用の強い薬草を領地で栽培して、闇取引をしていると内通者から情報があります。ここの所、やけに羽振りも良いので、事業が順調に進んでいる証拠と頷けます。こちらも裏で、ミレーナが関与している情報がある為、確証をつかみ次第、追って報告させて頂きます。」
「え⁈」と目を見張るオーウェンは、アスモンド伯爵家の機密情報を一切報告されていなかった。初めて耳にする情報に、驚きを隠せていない。
驚くオーウェンを無視して、クライシスに向き合い、反応を伺うエミリアは、ライドより必ず報告をするようにと依頼されていた案件の報告を終え、ほんの少しだけ安心していた。
「うむ。わかった。では話を続けたまえ。」
「はっ。畏まりました。」
無事に報告を終えて、ライドから依頼された任務は全て終了した。後は、母親の壮絶な過去を語るだけとなる。再び、緊張感が走る。視線がエミリアに集中していた。
「カミラは、キールッシュ帝国皇帝の妃になる事はありませんでした。皇帝は、即刻カミラを暗殺するように、モネに命令を下します。“さもなければ、貴様も殺す”と脅し、モネに暗殺させようとしました。
察しが良い皇帝は、悪巧みを思いついていたのです。あと数日でエスバーン国王はミレーナ王妃が始末して、崩御するであろうと推測して、嫉妬と憎悪による、醜悪な女同士の争いで二人共に命を落としたという嘘の事実を、ロズウェル国に報せます。エスバーン国王の精神の苦痛を助長する目的で、モネとカミラを暗殺する命令を下したのです。
嘘の悪い報せを知ったエスバーン国王は、更に心労を重ねて、最期はミレーナに毒を盛らて暗殺されました。毒を準備して、暗殺に加担した内の一人に、アリアナも含まれていました。赤の他人であるモネに、不思議と似ているアリアナは、囮役として任務を命じられたそうです。
ほんの悪ふざけであった陰謀が、思惑通りに成功して大層上機嫌であった皇帝は、未だ殺されていないモネとカミラのことなど、気にも留めていませんでした。
アイルは、モネとカミラを死亡したことにして、暗殺者の隠し部屋の一室に、二人の女性を隠しました。そして、潜伏生活を始めて間もなく、カミラの妊娠が発覚します。お腹の子は、紛れもなくエスバーンとの間に授かった子であり、カミラの意志を尊重して、出産、女の子が生まれました。その子が、ロズウェル国現王妃メレエナーラである。メレエナーラは皇帝が名付けた偽名で、本名はライラ、エスバーン国王のミドルネーム、初代王妃の名を付けています。
ライラは、エスバーン国王にあまり似ていなかった為に、暫くは隠し通せていました。しかし、長引く戦争に、勝利が絶望的であると確信した皇帝は暴挙に出ます。
ここから、アリアナの想像を絶する壮絶な人生が始まりました。」
静まり返った部屋に、淡々と話すエミリアの声が響き渡っていた。
いつもたくさん読んで頂きありがとうございます。
ブックマーク登録も本当にありがとうございます。
拙い文章を読んで頂けることに、日々感謝しております。本当は、もっと早く投稿できれば良いのですが……。これからも最後まで読んで頂けたら嬉しいです。




