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46.真相告白ーオーウェン編①ー

 またまた長文になっております。

 「では、お時間もあるようですし、続きをお話しようかしら。皆様、宜しいかしら。」


 大方、戦略も決まり、役割を確認し終えたマリアンヌは、ゴードンやエミリアが座る席の方へ視線を向ける。ゾーゼフとエドワードは、準備に取り掛かる為、部屋から去って行った。


 「待て。お前はもういい。オーウェン、全て話せ。わかったな。」

 「はいはい。わかりましたよ。」


 渋々引き受ける様子に、ライオネルとゴードンはオーウェンに視線を向けてお辞儀をした。

 「すまん、すまん。そんなに畏まらなくて良いからな。リア、もし間違っていたら訂正してくれ。」


 穏やかな表情で優しい口調に変わる父親を見ながら、エミリアは無言で首を縦に一回振る。


 たちまち二人は暗い表情へと変わり、悲壮感を漂わせる。グランド一族が決して忘れる事のない酷く辛い、壮絶な過去が告げられようとしていた。クライシスがあえてオーウェンを選んだのは、一族しか知らない過去を語ると察したからであった。予想は的中する。


 「まず先に、ロズウェル国の歴史からだ。我が国は民族争いに勝利して、広大で豊かな土壌の領土を獲得、ロズウェル国を建国した。それは捏造で嘘だ。」

 「「はぁ⁉︎」」

 口を開くや否や衝撃的な言葉が放たれた。驚きのあまり開いた口が塞がらない。ライオネルとゴードンは唖然としていた。

 しかし、まだこれは序盤に過ぎなかった。ここから怒涛のように信じられない言葉が告げられていく。ライオネルとゴードンは、話を聞くだけで精一杯であった。


 「まぁ、そうなるよな。民族争いはしていないし、領土は元々所有していた土地だ。移民がこの地を気に入り、先住民と共に開拓して、ロズウェル国を築き上げた。ただそれだけの事だが、帝国人は気に入らなかった。はぁ、またそれは後ほど話すとしよう。

 建国の王は、当時問題になっていた民族間の紛争を制圧して、民族を統一した。その功績により移民ではあるが国王に君臨する。民からの信頼は厚く、争い事を嫌う善良な国王であり、一人の妃を生涯愛し続けた。しかし、世継ぎに恵まれず、娘の王女は騎士と婚姻を結び、待望の男の子を授かる。それが、前国王エスバーンだ。

 この頃から、グランド公爵家は、王命で諜報員の任務に就き、私の父親はエスバーンの影を務めていた。二人は歳も近く、とても仲が良かった。よく公爵家に遊びに来ていたそうだ。誰かさんに似ているな。性格はとても穏やかで優しく、争い事を嫌う、まさに建国の王にそっくりだったと話していたよ。

 隣接する領土に、キールッシュ帝国が建国されてから我が国の雲行きが怪しくなっていった。一気に勢力を強めた帝国軍が、我が国に侵略してきたんだ。国王は戦はせず、和平交渉を提案したが、交渉は決裂して暗殺された。王妃も後を追うように心労で亡くなり、若くして国王となったエスバーンは、異母弟のライアンと協力しながら、父親の意思を継いで和平交渉を進めた。けれど、そう簡単にはいかず、難航していた。

 そんな最中に、突如エスバーンの妃候補として、帝国側からミレーナが差し出される。自ずと和平成立の為には、王妃にするしか選択肢はなかった。

 でも、エスバーンには愛する女性がいた。その女性が、グランド一族の諜報員モネである。モネはリアと同じく青い瞳が特徴的な女性でな。」


 『青い瞳』を耳にした途端、ライオネルは目を大きく見開いて、微動だにしない。隣に座るエミリアは、悲痛な面持ちでライオネルやゴードンを見た後、目を伏せた。

 モネの話をしながらエミリアを見ていたオーウェンは一瞬、言葉が詰まる。エミリアの姿が、アリアナと重なる。いつもは晒せない娘の青い瞳が、亡き妻の姿を彷彿させた。周りに悟られぬよう、直ぐに気を取り直して、話を続ける。


 「エスバーンは、モネを失いたくなかった。異母弟のライアンに国王の座を譲り、ライアンがミレーナと婚姻を結ぶ計画を兄弟二人で考えた。すぐに帝国側に提案して、すんなり快諾される。しかし、計画成功に安堵する兄弟に、魔の手が忍び寄っていた。順調に事が進んでいた矢先、ミレーナが王宮に突然来訪して、騒動を起こす。

 彼女はエスバーンの妃になる為、強硬手段に出た。多勢の兵士を引き連れて、王宮に攻め込んできたんだ。不合理な条約を提示して、不同意の場合は、このまま戦争を始めると宣言した。

 和平の条約は、ミレーナにとって好都合の条件ばかりでな。条約の内容は、覚えている内容だけになるが、エスバーンが国王に君臨、王妃はミレーナにする事やモネはキールッシュ帝国軍の諜報員に就任させる事、諜報員の誓約書を改訂する事、側妃は廃止する事、建国の歴史書を改竄する事などであった。自ずと強制的に同意せざるを得ない状況に、苦渋の決断で同意したそうだ。でもな、条約の同意を後悔しない日はなかったそうだ。

 ミレーナは、モネの暗殺やライアン王弟殿下を男妾にする陰謀を企てていた。また、帝国軍も領土奪還を目的とした戦争を引き起こそうとしていた。建国の歴史書を、帝国側が捏造した文書に改竄させたのは、皇帝の陰謀だったんだ。元々我々の所有する領土を、あたかも帝国の領土であったと両国の民に知らしめてな。全てを察していたエスバーンは、綿密に計画を企てる。

 ここから、国を巻き込んだ、ミレーナの醜い愛憎劇と、帝国軍との壮絶な騙し合いの心理戦が始まった。エスバーンは変貌して、残虐で卑劣な恐怖政権が幕を開けるわけだ。

 我々諜報員は、陰謀阻止の命令が下された。当時、強靭な私兵が多いラリーシュシュ辺境伯にライアン王弟殿下を婿入りさせた。エスバーンの兄弟愛は慈愛に満ち溢れていたそうでな、遠く離れた辺境伯領は、帝国と隣接する領地ではあるが、一番安全な場所はここしかないと、自ら辺境伯閣下に頭を下げて懇願したと聞いている。爵位も大公にしなかった理由は、自分の死後、国王にさせたくなかったからだ。国王になれば、死は免れない。それよりも一番の理由は、ミレーナの男妾になるのを免れないからだ。

 密偵からミレーナの醜悪な痴態の報告を受けて、どうしても切り離したかった。でもそれは、兄弟の縁を切る事でもあった。自分が全てを背負うと決めて、弟には嫌われるように仕向けた。ライアン王弟殿下が婿入りした日は、切り捨てるように冷酷にあしらい王宮から追い出したそうだ。その後、自室で暫く泣いていたと聞いている。本当は傍に居て欲しかったはずだ。それはライアン王弟殿下も同じだったとは思うが。なぁ、エミリアそうだろう。」


 「え⁈ 急に話を振らないで下さい。もう。

 御父様の推測は当たっています。私の友人であるラリーシュシュ辺境伯御息女の話によりますと、ライアン様の自室にはエスバーン国王の肖像画が多数飾られており、お揃いの指輪をしていたそうです。指輪にはエスバーン国王の瞳の色と同じ宝石を入れて、大事にされていらしたようで、今では辺境伯家の家宝として、金庫に保管していると話しておりました。」


 「え⁉︎ まさか、これは。」

 ライオネルは、徐にネックレスを外して、指輪を手にする。ネックレスに指輪を通して、肌身離さず持ち歩いていた。指輪を凝視するライオネルに、マリアンヌが口を開く。


 「それは、クレイアスがエスバーン国王より頂いたものよ。何故か絶対に男の子が生まれると言われて、生まれた子に指輪を渡せって。そして名前にも自分の名を入れろって言うのよ。怖かったわ。」

 「え⁉︎ ええー⁉︎ はぁ⁉︎ 何ですかその話は!もっと早く教えて下さいよ‼︎」

 「あら、そんなに怒らなくても良いじゃないの。指輪にアメジストの宝石が入っていないかしら。それはライアン王弟殿下の瞳の色よ。名前も指輪もね、魔除けとか言っていたわ。

 あっ、そう言えば、ライオネルはライアン王弟殿下に名付けて頂いたのよ。貴方は生まれる前から、なぜかあの二人に愛されていたのよ。私は詳しい事は知らないのよ。クレイアスがよく知っているわ。

 エスバーン陛下はね、貴方が生まれてくるのを楽しみにしてたのよ。私のお腹を、今思えばクレイアスよりも触っていたわ。戦地から帰って来ると『もう生まれそうか』なんて言って。おそらく、もう直ぐ自分が死ぬとわかっていたのよ。最期の生きがいが、我が子よりも貴方を守る事だったんだわ。恐ろしく怖い方ではあったけれど、時より見せる穏やかな表情が本心だったとはね。今更気づいても遅いわね。もっと早く気づいていれば良かったわ。」


 ライオネルは祈りを捧げるように、指輪を握りしめた拳を胸に当てる。一粒の涙が頬を伝った。

 「恨んでしまい、すみません。貴方の無念は、必ず私が果たします。見守っていて下さい。お祖父様。」

 名前に込められた想いに触れて、嬉しさが込み上げる。生涯、忌み嫌うはずであった名前に愛着が湧く。心がじんわりと温かくなっていた。

 

 「きっと喜んでいるだろうな。あの人の事だから天から名一杯、力を注いでいるかもな。」

 「そうしてもらわないと困るわ。魔除けの意味ないですもの。」

 「あははは。まったくお前は、とことん神経が図太い女だ。」

 「ええ、そうよ。図太くないと長生きはできませんからね。」

 仲睦まじく、お互いに微笑みながら愉しく会話する光景をエミリアは、羨望の眼差しで見ていた。

 

 (いいなぁー。あんな風になりたい……。)

 

 クライシスとマリアンヌを自身とライオネルに重ねて見てしまう。決心が揺らぐ弱い自分に嫌気が差すも、抑えていた感情は、自然と体が反応してしまう。一粒の涙を流していた。咄嗟に手で拭うが、ライオネルは見逃してはくれない。


 「リア、どうした?」

 いつもと変わらない優しく甘い声に、胸が苦しくなる。

 「感動しちゃって。ライオネル、良かったわね。」


 皮肉なことに、その場しのぎの嘘がこの十年で上達する。

 本音を言えない自分に、いつも通り心の中で自嘲を繰り返していた。



 いつもたくさん読んで頂きありがとうございます。

 投稿が遅くなり、またまた長文を執筆してしまい申し訳ございません。上手く区切る事が出来ず、読みにくい文章になっておりますが、温かい目で読んで頂けたら嬉しいです。


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