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42.作戦会議前

 大変遅くなりまして、本当に申し訳ございません。

 「はぁ。」


 あっという間に、官邸の正面入口前に到着する。憂鬱な気分になり、溜息を漏らす。


 馬から降りた途端、名前を呼ぶ叫び声が聞こえ、女性が駆け寄って来るのが見えた。背後からクライシスやゾーゼフもゆっくりと歩み寄って来ている。


 「ライオネル‼︎ 」


 駆け寄る女性を、さすがに避けるわけにもいかない。静かに動かず、その場に立っていると、いきなり強く抱きしめられた。しかし、すぐに抱きしめる腕が離れて、その場に膝をついて泣き崩れてしまう。

 ライオネルは、浮かない顔で女性を見下ろしていた。再び、溜息を漏らす。


 

 「はぁ、嘘ではなかったか……。」


 エミリアも、溜息と一緒に本音が漏れる。女性の腕を掴み、立ち上がらせて、お姫様抱っこをした。これ以上、ライオネルの目に入れないように、スタスタと官邸内へと歩いて行った。

 途中、すれ違うクライシスに、目配せを交わす。ゾーゼフは、エミリアが知人に非常に似ていた為、思わず二度見していた。


 呆然と立ち尽くすライオネルに、クライシスは声をかけた。

 「ライオネル、マリアンヌの事だが、私の軽率な判断であった。申し訳ない。」と深々頭を下げて謝罪した。

 「頭を上げてください。クライシス総帥閣下は悪くありませんから。私も軽率な行動をしてしまい申し訳ございませんでした。」

 ライオネルも、深々頭を下げて謝罪をするが、表情はどんよりとしていて暗い。

 「ライオネル、謝らなくて良いんだ。なぁ、良いんだ……。」

 クライシスは、悲痛な面持ちでライオネルを見ていた。明らかに他人行儀な言葉や態度に変わり、悲壮感に苛まれる。努めて気丈に振る舞っているものの、表情は気持ちを顕著に表していた。

 そんな二人を見ながら、ゾーゼフとラナは心を痛めていた。


 マリアンヌがもたらした影響は大きかった。閉ざされた心を開くのは、容易ではない。時間に猶予がない今、ゆっくりと向き合う状況ではなかった。真の目的である計画説明と作戦会議を優先した。


 (全てが終わったら、親子の時間をたくさん作って、思う存分楽しもうな。)


 愛情に満ちた眼差しを向けながら、今後の予定を説明する。共に大会議室へと歩んで行った。

 会議室の前に、エドワードとゴードン、もう一人、男性が立っている。


 男性は、クライシスに敬礼して耳打ちする。

 「うむ。では、下がって良い。」

 「はっ。」

 男性は、瞬時に消えた。


 「今のは、誰ですか?」

 「ああ、ラナの兄だ。諜報員で、私の部下なんだよ。」

 「え⁈ 兄?へぇ~オリビア連合国出身とは、知らなかった。」

 「ラナとは仲が良いようだな。」

 「ええ。まあ。助けてもらってばかりですが。良い奴です。とても。」


 (ロズウェル国に修行に行かせて本当に良かったよ。ここまで活躍しているとは。ラナには感謝しないとな。)


 穏やかに笑うライオネルを見ながら、一安心したように微笑むクライシス。ラナの存在が、ライオネルの心の靄に良い意味で刺激を与えていると感じ取っていた。

 ラナは長年苦しんだ問題に、自らの力で乗り越えて生きていた。中性的であるからこそ、自然と惹かれる部分も多く、豊かな人間性に救われる場面も多い。ラナの今後の活躍に、大いに期待を寄せていた。



 会議室では、エドワードが紅茶や軽食を準備している。

 逃走劇を繰り広げた結果、もう既に正午の時間であった。

 長期滞在は、敵に密会や密約が露見しかねない。積年の計画が水の泡となれば、打開策は残されてはいない。可能な限り早く帰国するのが最善であるが、この機会に徹底して話を詰めておきたいと考えていた。クライシスは、時間の許す限り話し合いをする予定であった。

 ライオネルもクライシスの心中を察して、提案する書類を確認しながら、覚悟を決める。


 隣に座るゴードンの様子が、どこかしら変である。普段は明朗快活で五月蝿いくらいなのに、陰々滅々で暗い雰囲気であった。ずっと気になっていたライオネルは、探りを入れることにした。


 「ゴードン、カイアスに頼まれた同盟の協定書はあるよな?」

 「ああ、ここにある。」

 「どうした?何があった?」

 「………リアに叱られて。………図星をつかれたから。」


 ぼそぼそと覇気のない無気力な声が、エミリアの放った言葉を連想させる。正論で相手を打ちのめす彼女は、全く言い返せない相手の反応を愉しんでいたに違いない。そうでなければ、ゴードンがここまで気落ちするはずがない。


 「運が悪かったな。」

 「ほんとだよ。毒に苦しんでるって聞いてたからさ、すごい心配してたのに、めちゃくちゃ元気だよな。心配して損した。」

 「どうかされたのですか?」

 エドワードが不安げな表情で二人を見ながら、軽食と紅茶をセッテイングしている。

 「いえいえ。先程の出来事を説明していまして。」

 「あー。大変でしたよね。ご苦労様です。あのお方は、私でも勝てませんね。」

 「あははは。そんなに言われたのか。お前には容赦ないからな。」

 「笑い事じゃないんだぞ。反論したくても出来ないんだぞ。すぐ殴るだろ、はぁ。」


 ライオネルは笑いを堪えて、エドワードは開いた口が塞がらない。三人で楽しそうに会話している様子を羨望の眼差しで見ていたクライシスは、堪らず口を挟む。


 「そこの三人、何をそんなに盛り上がっているんだ?」

 「父上、すみません。部下の失態を聞いて、あまりにも面白くて、つい笑ってしまいました。おい、ゴードン。会議中だ慎め。」

 「え⁈ 何でだよ。」

 二人は、コソコソと小声で楽しそうに小競り合いを始めていた。


 「二人は仲が良いな。」と口元が緩み笑みを浮かべる。嬉々とした表情で話を続けた。

 「良いんだ。全然構わない。すまないが、時間がない。食べながら作戦会議となるが良いか。」

 「「はい。わかりました。」」

 威勢よく返事をしたライオネルとゴードンも笑みを浮かべていた。


 ゾーゼフは「良かったな。」と小声で話しかける。クライシスは満面の笑みで頷いていた。



 「では、私から先に説明する。」

 

 漸く始まった壮大な計画の説明と計画実行に向けた作戦会議。

 次々と明かされる真実に言葉を失う、ライオネルとゴードン。



 別室では、エミリアの容赦ない尋問に、青褪める二人の男女が項垂れていた。



 いつも読んでいただき、ありがとうございます。今日もう1話投稿できればしたいと思っています。

 

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