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41.ライオネル発見

 

 奥深い森を走り抜ける、見目麗しい男性と白馬。



 森の中で猟をしていた男性は、見慣れない白馬に目を奪われる。

 「この辺じゃ見ない馬だな。……うーん?誰かに似てる?あー総帥閣下だ。なんでこんな所に?まぁ、いいか。」


 暫く馬を走らせていると突然、視界が一変する。


 緑生い茂る木々を避けながら走る白馬。突如、一面を覆う緑が消え、一気に視界が晴れる。目の前に湖が現れた。森の真ん中にポッカリと穴が開いた場所。湖面に眩しい日の光が差し込んでいた。白馬は走る足を止めて、ゆっくりと湖のほとりを歩く。見上げた空は、真っ青で雲一つない。


 神秘的な場所に、自然と心は落ち着きを取り戻していった。


 「疲れただろう。ここで、少し休もう。」


 湖のほとりで、腰を下ろす。白馬も隣で横になっていた。

 時より心地良い風が吹いて、木の葉が擦れる音と波打つ湖。日の光で煌めく髪が風で靡く。


 瞼を閉じて、物思いにふけるが、そのまま眠ってしまう。


 頬に落ちてくる雨粒のような感覚に、目を覚ます。


 「え⁈」


 重い瞼を開けると、覗き込むエミリアの顔がある。大粒の涙がライオネルの頬に落ちていた。今にも消えそうな声で、名前を呼ぶ。ずっと泣きながら名前を呼び続けていたに違いない。


 「ライル、良かった。」

 

 絞り出すような声は、切実な想いであった。


 咄嗟に起き上がり、エミリアを抱きしめる。


 「どうして。リア、なぜここに?それより体はもう大丈夫なの?」

 「うん。」

 「よくここがわかったね。」

 「ライルは湖が好きでしょ。だから、だから、あの時みたいに……。」


 震えながら泣きじゃくるエミリアは、ライオネルがレンモール湖で自殺を図った出来事を思い出していた。

 当時13歳であったライオネルは、生誕式典を終えた後、自ら命を絶とうとした。直感で動いたエミリアが救助して、未遂には終わるが、心に焼き付いた光景は、忘れたくても忘れられない。思い出すだけでも、手が震えてしまうほどに恐怖が植え付けられていた。


 自殺未遂で終わった出来事は、一部の人しか知らない。ゴードンは、オリビア連合国に提出する報告書に記すか迷い、エミリアは相談を受けていた。今回は伏せる事に決めたが、まさかこんな事になるくらいなら、報告書に記すべきであったと後悔する。


 (後で、クライシス総帥閣下だけには報告しないと。これからの事もあるだろうし。)


 エミリアは、諜報員に任命された時から既に、クライシス率いるオリビア連合国軍の計画通りに任務を遂行していた。

 十年計画と称する壮大な計画は、グランド一族も陰の立役者として協力していた。ライオネルを王に君臨させる計画を実行する為に、護衛の任務が命じられている。

 ライドやラナが焦燥に駆られるのも無理はない。任務失敗は決して許されない。諜報員の職務を降りる罰則が科せられていた。


 任務の成功に、安堵する。感情を切り替えると、涙は自然と引いていった。


 泣き止むエミリアを、まだ抱きしめているライオネル。


 「ライオネル、泣いちゃってごめんね。えへへ。よし、戻りますかね。」

 ライオネルの腕を振り解き、立ち上がる。追うようにライオネルも立ち上がるが、再びエミリアを抱きしめた。

 「あともう少しこうしていたい。」

 「わかったわ。」

 エミリアは、ライオネルをぎゅっと抱きしめた。


 何かがエミリアの背中をグイグイと押す。


 「あー、シルビア。ダメですよ。ほらおいで。」

 ラナが必死にシルビアに合図を送るが、全く見向きもしない。エミリアの背中に鼻を擦り付けて、押していた。


 「くっくっくっ。離れて欲しいのかい。分かったよ。」

 ライオネルは、シルビアを見ながらエミリアを抱きしめる腕を離した。途端に、シルビアはライオネルの側で鼻を鳴らして、鼻の先でツンツンと突いてくる。ライオネルは、シルビアを優しく撫でていた。


 「美男子好きで、困った子だわ。でも、良く働いてくれたわ。ありがとう、シルビア。飼い主にお願いして、たっぷり贅沢をさせてもらいましょうね。ふふふ。」

 エミリアも一緒に優しく撫でながら、笑っていた。

 「リア、怖い顔してるよ。ほんとにもう、困った子だ。まぁーいつもだけどね。あははは。」


 二人は、お互いを見つめながら微笑む。


 神秘的な場所で、日の光で輝く美しい男女と白馬。まるで別世界に迷い込んだような光景に、ラナはうっとりしていた。


 背後から、馬の足音が聞こえる。段々と音が大きくなり、近づいて来ていた。側にいるカイアスの愛馬は警戒している。馬の足音が止まる。


 「ラナ、あれはなんだ。まるで美しい絵画のようだな。」

 ラナは気配でクライシス総帥閣下が馬を走らせ、向かって来ているのを察していた。

 クライシスも、元部下の気配を察していた。湖のほとりに佇む男女と馬の光景に目を奪われている。


 「ええ、そうなんです。素敵ですよね。」

 「わざわざすまなかったな。見つけてくれてありがとう。ふぅー、良かった。」

 「いえ、主人の命令ですから。とりあえずは、任務成功です。」

 「そうか。ラナも立派な諜報員になったな。では、先に戻っているから、ゆっくり来るが良い。ここは良い所だからな。」

 「閣下、なぜここだと。」

 「それは、お前の考えと一緒だ。」

 「……………え⁈」

 

 考えている間に、クライシスはもういなくなっていた。


 オリビア連合国には、湖が三ヶ所ある。

 その中でもここは、誰もが一度は迷い込むと言われている湖である。不思議なことに、心に迷いがある時に、必ずここに迷い込んで、何故か心の迷いは自然と解決している。

 そんな神秘的な力がある湖は、オリビア連合国では神聖な場所として知らない人はいない。ラナは、任務を命じられて直ぐに、この湖を思い浮かべた。そして、予想は的中した。ライオネルを見つけたのである。

 ラナは、湖周辺を集落としていたオルガナ族の出身であった。今は、四つの部族が統一してオリビア連合国になってしまったが、ここはラナの故郷である。

 オルガナ族は、湖に宿る神を信仰して集落を守ってきた。

 ラナは、神に祈りを捧げる。


 「ラナ、何しているの?」


 目を瞑り、神に祈りを捧げていると、エミリアが不思議そうな顔で覗き込んでいた。

 「助けて頂いたので、神に祈りを捧げていました。」

 「え⁈ 神⁈ 」

 「やはり、ここには神様がいるんだね。」

 「どういうこと?え⁈ ライル、会ったの?」

 「いや、会ってはいない。でも、ここに来たら何故だか、気持ちがスーッとしたから。」

 「それは、良かったです。」

 「よくわからないわ。まぁ、私も礼をしておきましょう。」

 

 宗教や神の信仰、思想などの類を全く信じていないエミリアでも、今回ばかりは湖の神様に感謝していた。

 三人揃って、厳かに祈りを捧げる。


 静寂の中に、風がふわっと包み込むように吹いた。


 「では、クライシス総帥閣下が待っておりますので、官邸に向かいましょう。」


 ラナはライオネルを乗せて、シルビアを操縦する。エミリアは、カイアスの愛馬に乗っていた。


 ライオネルは深く息を吸い込んで吐く。決心が揺らいでいた。嫌でも待ち受ける未来に立ち向かわなければいけない。

 

 エミリアを見つめる。何も言わずに、微笑みながら見つめ返される。

 いつもと変わらず、無理に作った笑顔が彼女の意志の固さを表していた。


 何一つも変わらない関係を、変えることすらできない。

 王族と一介の諜報員でしかない二人は、それ以上の関係にはなれない。



 本来あるべき、主従関係となる時が今まさに訪れようとしていた。



 いつも読んで頂き、ありがとうございます。実は、まだまだ続きそうです。最後まで気長にお付き合い、よろしくお願いいたします。

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