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40.国王と宰相

 2日間、投稿出来ずに大変申し訳ございませんでした。そして、書いていたら長文になってしまい、読者の方々には飽きるような話になっているかもしてません。

 さらっと読んで頂ければ幸いです。

 “バタバタバタバタ”


 「フゥー、フゥー、ハァー」


 ザィードが王宮西棟の廊下を、重たい体を揺らしながら走る。

 予定時刻より大幅に遅れ、全力疾走で国王政務室に向かっていた。明らかに、スタスタと隣を歩く侍女よりも遅い。いつもと変わらない光景に、侍女は見向きもせず歩いていた。

 大きな足音を響かせて、息を切らしながら走り、漸く辿り着く。肩で呼吸をして、額から大粒の汗が止まらない。急いで汗を拭うが、ハンカチは絞れるほどに濡れていた。荒い息は整えても治らないので、そのまま扉をノックして部屋の中へと入った。


 「失礼致します。」


 クレイアス国王は、ロッキングチェアに座りながら窓の外を眺めている。全く見向きもしない癖に、思うがままに嫌味を連発して、嘲笑う。


 「其方が歩くと、建物が揺れて今にも壊れてしまいそうだ。その腹の中には、子供がおるのか?いつ生まれてくるのだ? いやいや、まるで風船みたいに、パンパンに膨れているではないか。刺してみたらどうだろう。萎れて細くなるのではないだろうか?試しに、私がやってみても良いだろうか?

 ああ、そうだ。痩せる良い薬があるが、どうだろう、試してみないか?」

 「いえいえ、陛下。結構でございます。」

 「ほぉ、そうか。それは誠に残念だ。」


 先程から全く何も変わらず、ゆったり椅子に腰掛けて、窓の外を眺めている。

 一方でザィードは、クレイアスを見下していた。軽蔑した視線を向けて、心の中で嗤う。


 (冗談にも程がある。ふざけるな。貴様の方こそ、少しは国王らしくしたらどうなんだ。人の事をどうこう言える立場か。ふっ、どうせ貴様は、崩壊した国と一緒に朽ち果てる運命なんだよ。せいぜい、今のうちに楽しんでおくが良い。

 それよりも、まさかあの女が生きていたとは。やはり、しぶとい女だ。またどうせ殺されるというのに、どいつも此奴も馬鹿な奴らばかりだ。まぁ、もう関係ないがな。ふっははは。)


 数日後には、キールッシュ帝国に亡命する為、着々と準備を進めていた。マリアンヌ故王妃が生存していようが、ザィードには、もう何もかもが関係のない事実である。


 マリアンヌが突如現れた日、意識を失ったザィードは翌日の朝に目覚める。至急、王宮内の侍従や使用人達を徴集して調査するものの、誰一人として知っている者がいなく、目で見て確認した人物は、王宮内にはいない。忽然と姿を消していた。

 変装までして侵入しておきながら、身元が判明するような不可解な行動をとり、結果的に浅はかな計画は、失敗に終わっただけだと悟る。

 だが、しぶとい女がこれで終わるとは限らない。予定よりも早く逃亡を図ろうと画策する。


 ザィードは、全てを捨て、一人で亡命する計画を企てていた。



 『節目の年よねぇ。愛しい貴方に、早くお会いしたいわ。』


 頭の中で亡命の計画を確認していたが、()()()()()の言葉が脳裏にふと浮かぶ。


 (なにが節目の年だ。強い男が、貴様の様な老婆を愛すると思うのか。夢も程々にしろ。こんな事になるなら、さっさと殺せば良かったんだ。まさか妻も娘も洗脳されるとは。あーもう手遅れだ。貴様のお遊びに巻き込まれるわけにはいかない。早く逃げなくては。)


 男を侍らせて嗤う悪女は、真実の愛に飢えていた。愛した夫達は、屈強な戦士であり、女性の思う理想の男性像そのものであった。

 しかし、夫は妻である女性を愛していなかった。所詮、夫達が愛したのは、自分が虐げ、排除した女である。

 どんなに足掻いても、辛い現実に容赦なく叩きつけられる。女性の想いが届く日は一向に訪れなかった。それなら、一層全てを排除して、この世から消せば楽になれると、荒んだ心が暴走する。姑息な手段と巧みな話術などを駆使して、自分の手を汚さず多くの人を殺めてきた。

 もはや誰からも愛されなくなった女性の末路は、暗殺されて呆気なく終わりを迎えるはずであった。


 余計な事をした人物がいる。当時、男爵の爵位しかない男が、悠々自適な生活に憧れて、悪女の罠に嵌る。男は端正な容姿を武器に、悪女と男女の深い関係にあった。悪女から多額の金銭授受で味を占めた男は、泥沼から抜け出せず、挙げ句の果てには悪女との間に子を授かってしまう。男の妻は、夫よりも裕福な生活を捨てられず、悪女に洗脳され手を汚し続けた。悪女の権力を行使して、公爵に陞爵。国王の側近、宰相の地位を得た男は、能がない国王の代わりに政務を執り行い、横領を続ける。そんな愚かな男は、長いようで短いロズウェル国での生活に、終止符を打とうとしていた。

 男の名は、ザィード・ソロン・ヴェルシア。十年の歳月を経て、醜く肥えた巨体が、彼の人生を物語っている。


 (そう簡単に逃がすものか。貴様が手を差し伸べさえしなければ、こうはならなかったものを。思い知るが良い、跡形も無く消し去ってやるからな。)


 ザィードが亡命する計画を()()()()()から報告を受けていた。

 生温い水に浸かって生活してきた奴等と其奴らの背後に見え隠れする悪女。

 皆一斉に、綺麗さっぱり消し去るつもりでいた。そこには、自ずとクレイアス自身も含まれていた。


 (漸く、これで終わる。)

 「ライオネル……約束、果たせずにすまないな。」

 虚な目をしながら、ぼそぼそと呟く。


 「陛下、何か言いましたか?」

 ザィードは聞こえていたが、わざと聞こえない振りをしていた。


 (今更、血も繋がっていない人間を想って、本当に頭がイカれちまったのかもなぁ。貴様の大切な宝物は、オリビア連合国に亡命したんだよ。もう会いたくても二度と会えませんからね。ふっははは。)


 「いや、何も言っていないが。……それより其方は、悪い顔をして何を企んでいるのだ。逃げるのは許さんぞ。ふっははは。」

 「わっ! 陛下、何をおっしゃいますか。私は、この国ましてや陛下の事しか考えておりません。陛下を誰よりも一番に想っていますから、ご安心下さい。さぁ、仕事をしましょう。」


 下を向きながら思案していたら、クレイアスの声が近くに感じて顔を上げる。すると、至近距離に顔があり驚く。気づかないうちに、覗き込んで見られていた。

 冷静に応えて事なきを得るが、驚きの余りクレイアスの放った言葉を聞き取れていなかった。


 (ふぅー。びっくりした。いつの間に来たんだ。全然気づかなかった。危ない、危ない。バレたら大変だ。)


 クレイアスが企みに気づいているとは、知る由もない。能無しと馬鹿にしている時点で、真の脅威を感じられなくなっていた。


 椅子に座り、書類をパラパラとめくるクレイアスを一瞥する。とりあえずザィードも書類を手にするが、直ぐに溜息が漏れる。

 ここ一年くらい、殆どの政務を第一王太子ライオネルが代行していた。自ずと書類を目にする機会は無く、久方ぶりの仕事である。

 ライオネルが策定した政策の数々が記されている書類は、事細かく、難解な計画ばかりである。到底理解は出来ないが、こんな紙切れを分からなくとも、別にもうどうでも良かった。体裁上、仕事をする振りを続けていた。


 (立派になったな。やはり、クライシスの子供だ。)


 書類を見ながら、どこか寂しげな表情を浮かべていた。

 あの日、自分が思わず口にした言葉により、酷く傷つけてしまう。絶望する子供を前に、逃げた自分を恥じて後悔していた。元に戻せるなら、やり直しの人生を送りたいと望む。

 もう一度、またあの屈託のない笑顔で父と呼んで欲しいと思うクレイアス。色鮮やかな思い出に浸っていた。

 徐に、胸に手を当てる。上着の内ポケットに入っている古びた封筒。中には一枚の絵が入っていた。愛する子供が父親を描いた似顔絵。


 肌身離さず持ち歩く絵は、たった一つの大切な宝物であった。




 いつもたくさん読んでいただきありがとうございます。

 全然、上達しない文章に挫けそうになりながらも、試行錯誤して執筆しています。これからも頑張りますので、よろしくお願いします。

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