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4.エミリア帰還

 悪口が多く、不快に思うかも知れませんが、さらっと流して読んで頂けたら幸いです。

 

 玄関ホールで、使用人達が叫び声を上げながら、目を白黒させて狼狽えていた。


 その中を一人の女性が、男性に支えられながら歩いているのが見える。

 オーウェンの息子と娘が任務から帰還したようだ。


「リア‼︎ライド‼︎何があった!」


 オーウェンは、叫びながら息子と娘の方に駆け寄っていった。

 騒然とする中で娘のエミリアは、片足跳びをしながら、器用に外套を脱ぎ捨て、いつも通りに冷静沈着である。


「ただいま帰りました。お父様、そんなに慌てないで。ちょっと足を挫いただけだから。お兄様が大袈裟なのよ。もう!」


 エミリアは、にこっと満面の笑みを浮かべて、何事もなかったかのように父親に抱きついた。オーウェンは、向かい合わせに抱き、複雑な心境で、そっと優しく抱き締める。


「父上、リアは軽い捻挫ですが怪我をしています。そして今回の任務は、想像以上に過酷でした。正直、死ぬかと思いました。もう今日は休んで、明日報告書を記載しても宜しいでしょうか。あとリア、いいかい、お前は大袈裟だと思うかもしれないが、任務での怪我は命取りになりかねない。俺にとってお前は大事な妹なんだから、少しは自分の体を大事にしろ。わかったな。」


 息子のライドは、瞳の奥に強い憎悪を浮かべて、歯噛みしていた。


「うん。ごめんなさい。ありがとうお兄様。」


 反省するエミリアにライドは、温かい眼差しで見つめながら、そっと優しく頭を撫でていた。

 そして、すかさず傍にいた使用人に、簡単に怪我の状態を説明した後、医者の手配を指示する。


「わかった。報告書は明日で良い。あーリア、私の愛しい娘。無事で何よりだ。お帰り。」

 

 ライドの言葉に、一先ずほっとするオーウェンは、エミリアを今度は強く抱き締めた。

 だがしかし、エミリアからじわじわと殺気が漏れるのを感じて、鋭い視線が突き刺さり、とてもじゃないが痛かった。

 オーウェンが異変に気づいた時には、もう既にエミリアの怒りが頂点に達していた。


「どうした、リア?」

「どうしたもこうしたもないわよ!はぁー⁇ 何で彼奴がここにいるのよ‼︎彼奴の所為で、今日、散々な目にあったのよ!お父様どういうこと‼︎」


 エミリアは抱きついた体を離して、オーウェンの顔を見上げると、鋭い眼光で睨んだ後、ライオネルを鋭く睨み付けた。


「お帰り、リア。次は僕が抱き締める番だよ。おいでリア。」


 明らかに怒りを露わにするエミリアに対して、ライオネルは猫撫で声で、優しくあやすように両手を開いてゆっくりと近づいていった。


「キモい!顔も見たくない!ゴードン、そこに突っ立ってないで早く捕まえて、とっとと帰って!まずそもそもゴードンが役立たずだからこうなるのよ!もう‼︎」

「はぁーー。ふぅー。また俺にとばっちりが飛んできた。」


 ゴードンは、いつもの情事に心底嫌気がさして深い溜息が漏れる。


「え?何?俺が一番悪いの?いやいやそれはないだろう。リア、そんなに睨んでたら可愛いお顔が台無しだよ。さっきみたいに、にっこり笑って。ね、笑って。」


 まったく反省の色が見えないライオネルに、エミリアの怒りが爆発する。


「はぁ⁈ あんたが一番悪いのよ!何で呑気に我が家で寛いでいるのよ!ほんと信じられない。こっちは疲れてるの!少しは労わるって気持ちはないわけ。この脳筋野郎‼︎ そして、言わせていただきますが、愛称で呼ぶのを禁止していましたわよね?さっきから、リア、リア呼んで、馬鹿か‼︎罰として明日から次の試験が終わるまで、一切話しかけないこと‼︎わかった‼︎あっ、後試験で私に勝てない場合は更に延長になりますので、そのおつもりで。早く帰ってお勉強した方が宜しいんじゃないかしら。あははは。」


 怒り心頭のエミリアは腰に手を当て、眉毛を吊り上げながら睨み付けて、捲したてる様に暴言を吐いて罵倒した後、塵を見るような目で、嘲笑する。


 周りにいた人達は、衝撃が強すぎて、開いた口が塞がらず、呆然と立ち尽くしていた。


 一方で、ライオネルとゴードンはいつもと変わらない光景に、安堵していた。ライオネルは、満面の笑みを浮かべ、目を細めていた。ゴードンは、「通常運転で何よりだ。」と呟き、毒舌が終わるのを静かに待っていた。


 すると突然、横から猛スピードで、何かが近寄って来るのを感じる。

 ライオネルが警戒しようと身構えた時には、既に侍女のラナがエミリアの前で、片膝をついて敬意を払う姿勢で待ち構えていた。


 エミリアを見つめていたライオネルの視界は、突如遮られて、ライオネルは、眉間に皺を寄せて苛立ちを隠せない。けれど、ライオネルを気に留めないラナは、いつもと変わらず主人に忠実であった。


「旦那様、お嬢は疲れております。後は私にお任せ下さい。」


 ラナは、直ぐにエミリアを横抱きにすると走り出した。エミリアは横抱きにされながら、ライオネルを一瞥して、ニヤリと笑って、手を大きく振っていた。あっという間にエミリアの姿は見えなくなっていた。


「ちっ、許せない。あの男。」と苛立つライオネルは舌打ちをしていた。


「「はあーーー。」」


 オーウェンとライドは、同時に深い溜息が漏れる。


「ライオネル、ゴードン、いつもすまない。亡き妻に似てどうも口が悪過ぎる。私からきつく叱っておくので、今日の所は許していただけないだろうか。」


 ライオネルとゴードンに謝罪するオーウェンは肩を落とし、顔面蒼白であった。

 ライドは、何度も深々と頭を下げて謝罪していた。

 気落ちするオーウェンとライドの気持ちとは裏腹にライオネルは、嬉しそうに意気揚々と話し出した。


「お義父上(ちちうえ)、そんなに落ち込まないで下さい。義兄上(あにうえ)も、もう頭を上げて。私達は愛し合っているのですから、こんな罵声は、痛くも痒くもありません。愛されいる証拠ですから、もっと言って欲しいくらいですよ。」


(あ……、遂に壊れたようだ。愛は人を変えるというが、変わり過ぎだろ。はぁー、リア、父はもう無理だ。自分で何とかしろよ。アリアナ……助けてくれーー。)


 唖然とするオーウェンは掛ける言葉も見つからず、ライオネルの言葉を全てを聞き流して、忘れることにした。

 亡き妻に、助けを乞いながらーーー。



 そんな最中、一人だけ明らかに様子がおかしい人物がいた。ゴードンである。


「え!?今の・・・何?男?……は?どういうこと?」


 ゴードンはラナが男性である事実に動揺を隠しきれず、慌てふためいて、なりふり構わず頭を掻きむしりながら、右往左往していた。


「おい!ゴードン邪魔だ。お前ちゃんと見えてるか。あれは何処からどう見ても男だろう。」


 ライオネルは嘲笑を浮かべて、ゴードンを揶揄い始めた。狼狽えるゴードンにすかさず、ライドは近寄り、声を掛ける。


「どうした?ゴードン?大丈夫か?初めて見た人はみんなびっくりするから、まず落ち着こう…な。」

 

 ライドはゴードンの肩や背中を優しく摩り、ボサボサになった髪を手櫛でとかし整えた。そして、これ以上は時間を割いていられないため、ラナについて簡潔に説明する。


「最近、雇った使用人だ。彼は…いや違う、彼女は優秀だけれど色々とまぁ…あって今はあれで落ち着いたって感じだ。リアの専属侍女として、良く働いてくれている。あれでも今は居ないと困る存在だ。また会う機会があると思うから、その時に色々と話してみると良い。良い奴だからさ。それでは、私も失礼させて頂きます。」


 ライドはライオネルと一瞬目を合わせて瞬きをした後、深々と敬礼して、自室へと去っていった。


「ライド様、ありがとうございます。」とゴードンは、すたすたと歩くライドの背中に向かい、深々とお辞儀をした。

 ライドは、歩きながら手をヒラヒラさせて自室へと消えていった。


「ライド様はいつお会いしても素敵な紳士です。」


 ゴードンは、うっとりした表情で、ライドが歩いていた廊下を見つめていた。


「おい!しっかりしろ!今のお前は、あの女か男かわからん奴と一緒だぞ。全くどいつもこいつも。さっ、帰るぞ。グランド公爵閣下、大変お騒がせしました。また近々遊びに来ます。ここは、いつ来ても面白いので。」


 オーウェンに向かい、ライオネルとゴードンは深々と礼をしてから、紋章が記されていない馬車に乗り、公爵邸から王宮へと帰って行った。



「ふぅーー。今日は疲れた。」


 オーウェンは、深い溜息が自然と何度も漏れていた。



 執務室に向かい歩いていると、スミスがドアを開けて待機している姿が見えた。


「旦那様、お疲れ様でした。お茶を用意致しましたので、少し休んでから残りの書類を片付けましょうか。」

「あーそうさせてくれ、ありがとうスミス。いつも助かるよ。」

「いえいえ。」


 スミスは、オーウェンの言葉に恐縮して更に小さくなっていたのであった。



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