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38.コスターの告白

 「あっ!」


 突然、ラナが声を上げる。焦った表情に変わり、目線をわざと合わせない。

 (なに?隠し事?顔に出てるわよ。相変わらず、嘘が下手ねぇ~。)

 ニヤリと笑い、どのように切り抜けるのか、わざとらしく問うてみる。


 「なになに、どうしたの?」

 「お嬢、支度は別の侍女でも宜しいでしょうか?ライド様の所へ行って参ります。すみません、失礼します。」

 瞬時に部屋から消えて、既に別の侍女が傍に立っていた。

 (え⁈ 早い。まあまあやるじゃない。)


 入れ替わりを予め配置していたとは、経験が活かされている証拠である。ラナの目覚ましい成長ぶりに、感心していた。のんびり感慨に浸っている間に、着々と支度や用意を進める侍女。

 「エミリアお嬢様、まずは、さっぱりしましょう。それからパパッと準備を致しましょう。」

 「あー、はい。」

 素早い動きの侍女に、呆気にとられたエミリアはされるがまま、あっという間に湯浴みが終わり、任務の準備に取り掛かる。

 


 ラナの行動や至急報告を要する言動の裏には、重大な秘匿情報が隠されているのは、分かってはいた。相当気にはなるが、違反行為であるが故に、深入りはせず引き下がる。


 機密情報は、グランド一族内でも限られた者しか知り得ない。情報漏洩は一族内であっても、違反であり罰則が科せられる。殆どの情報は、現当主のオーウェン又は次期当主のライドが握っている。

 だが、例外もあり、特にラナはオリビア連合国の元諜報員見習いであった為、連合国絡みの機密情報が、今でも独自に報告されていた。

 やはり、オリビア連合国で、何かが起きているのは確実となった。尚更、先を急がなければいけない。まずは怠けた体を元に戻す必要がある。


 体慣らしに、侍従と戦闘訓練並みの運動を三十分程度こなして、汗を流す。

 「よし!順調、順調。さてと、終わりにしましょう。」

 手合わせ終了の礼をした後、急いで自室に戻ろうとしたが、物陰から顔を覗かせる男性がいる。


 目が合うと、拍手をしながらサイモンとコスターが現れた。隠れて、病状を観察していたと言うが、何やら怪しい。サイモンは、コスターを睨んだ後、すぐに持ち場に戻って行った。表情からして明らかに怒っていた。どうせコスターが仕事を放棄して、覗き見していたに違いない。当の本人はというと、口を閉じたまま深々と頭を下げるだけである。先程とは打って変わって、まるで別人のようであった。不意に顔を見て、忘れかけていた疑問を思い出す。


 「あっ、コスターさん、カイアスとはどういう関係?」

 「え⁈ あっ、しまった。ええと……。」

 後退りをするコスターの手を覆うように握り、首を傾げて見つめながらもう一度尋ねる。見る見るうちに顔が真っ赤になり、恥ずかしそうに俯いた。


 「エミリア様、あまり揶揄わないでいただけるかな。」

 カイアスの従者ゼンが、握る手を振り解き、コスターを抱き寄せる。


 「え⁈ 」

 突然、目の前にゼンが現れて驚き、それと同時に二人の親密度にも驚かされる。


 「コスター、なぜすぐ離れようとしない。……まさか!お前!」

 ゼンを見るエミリアを見つめるコスター。緊張と羞恥に悶えながら、切なる想いが口から漏れる。

 「ええと、それは、その、あれです。そう、そうなんです。だから、エミリアお嬢様は大切なお方で。ええっと、ですから、困るんです。好きすぎて。いや、そ、そういう意味ではなくて、ち、違うんです。あのですね、あー、え、えーと、だから。」


 「はっきりしろ!」「はっきりしなさい!」

 考えている事が一致して、互いにコスターを見ながら苛立つ。


 「大好きです。愛しています。」


 「「はぁ⁈」」

 再び、考えが一致する。案外、波長が合うエミリアとゼンはコスターに呆れて、溜息を漏らす。コスターが直球勝負ならばと、エミリアも男らしく断言する。


 「貴方は、人としても論外ですから、当然無理です。今後の為にも、どこが悪いかお伝えした方がよろしいかしら。」

 「はい!是非、お願い致します。もしも改善したら、望みはありますでしょうか?」

 「「はぁ⁈」」

 最早、想像を絶する返答に呆れ果てる。


 「 お前、何を言っているのかわかっているのか。そもそも、始めから無理なんだ。諦めろ。高望みするな。」

 コスターのこめかみを拳でグリグリと押すゼンは、親子のように仲睦まじい雰囲気であった。


 「努力や結果次第では、もう一度機会を与えてもよろしいですわよ。まぁいつになるかしらね。ふっ、ふふふ。」

 呆れて笑うエミリアは、コスターが尻尾を振って大喜びする犬の様にしか見えなかった。不思議と憎めない存在になっており、ついつい甘やかしてしまう。


 それは、まさしくゼンも同じであった。

 「良かったのかどうかわからんが、まぁ頑張れよ、コスター。」

 「はい!師匠!頑張ります‼︎」

 「お弟子さんですか。そうなのね。という事は、カイアスの従者になるのかしら。あらまあ、それは大変。……え⁈ 待って、話が違う。さてはお父様やらかしたわね。お仕置き決定ね。」


 コスターはサイモンの後継者と主人から聞いていた。おそらくサイモンもそうである。本来の契約では、いくら甘く見積もっても利益はない、逆に損失の方が大きい。気づかないように契約書を捏造したに違いない。カイアスに知れたらと思うと、恐ろしくて想像もしたくなかった。

 疑問符を浮かべているゼンには、確証はないが父親の巧妙な手口を説明する。段々と顔が青褪めていくが、後はライドに任せるしかない。


 「お時間はありますか?丁度、主人は不在です。今のうちに書き換えましょう。」

 「ありがとうございます。」


 執務室に向かい足早に歩いていると、正面から兄のライドが走って来た。息を切らしながら、焦りの表情を見せる。珍しく慌てた様子に、嫌な予感が脳裏をよぎる。


 「リア!どこに行ってた?準備はもう整ったか?もう時間がない!早く出発しろ‼︎ 」

 「え⁈ 何、どうしたの?」

 すかざずラナが駆け寄り、耳打ちする。俄に信じ難い言葉が頭の中で反芻する。沸々と怒りが込み上げて掌を強く握りしめていた。


 「なんですって‼︎ 許さない!!!」


 コスターの件は、急ぎライドに申し送る。走馬で向かいたい所ではあるが、肝心の速く走る馬、当主の愛馬シルビアは厩舎にいない。しかし、見たことのない黒い大きな馬が視界に入る。

 

 「どうぞ、よろしければお使い下さい。」

 声が聞こえる方へと振り返る。ゼンが歩み寄って来ていた。後ろにはライドもいる。契約書の処理が無事に済んで、ゼンは安堵の表情を浮かべていた。


 「よろしいんですか?」

 「ええ、是非、お役に立てるのであれば、全然構いません。この子は、カイアス様の愛馬です。お強いですし、利口な馬です。きっと良い仕事をしますよ。そうだろ、よしよし、いい子だ。」

 馬を優しく撫でるゼンは、嬉々としている。

 「ありがとうございます。カイアスにも礼を伝えていただけますか。」

 「わかりました。エミリア様、任務の成功を祈っております。」

 「はい。では、行って参ります。」


 馬に乗り、ラナの操縦で走り出す。門番は時機を見計らい、裏門を開けて待っていた。軽く一礼して、再び馬は走り出した。


 「シルビアより走るの速いかもしれないわね。」

 「そのようですね。」


 軽快な走りで駆けて行き、もう既に王都は殆ど見えなくなっていた。



 投稿が遅くなりました。大変お待たせしまして、申し訳ございません。


 急な暑さに、もう夏バテ気味です。皆様も、お体に気をつけて、毎日頑張って下さい。

 いつもたくさん読んで頂き、本当にありがとうございます。これからもよろしくお願いします。

 

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