30.旅の道中
大変遅くなりまして、申し訳ございませんでした。
ライオネルを乗せた辻馬車は、オリビア連合国との国境付近に差し掛かる。
「ゴードン!そろそろだ!」と大声を出す。
ライオネルは、グランド公爵閣下より車窓のカーテンを、絶対に開けないようにと警告されていた。
しかし、そこまで強く禁止されると、逆に見たい衝動に駆られうずうずしていた。手のひらを握りしめて、歯を食いしばり耐えるが……。
やはり衝動は抑えられない。王都を離れ、少し時が経過した頃には、カーテンをほんの少しだけずらして外を眺めていた。
ゴードンは、ライオネルの行動には、全く気づいていない様子である。
目を閉じてうつらうつらしながら、いまにも眠りそうになっていた。
突然、車内に大きい声が響き渡る。声に驚いたゴードンは目を開け、ライオネルに視線を向けた。
「はぁー⁈ ライル!何してるんだ!カーテンを閉めろ!危険だ!」と目の前の光景に、一瞬目を疑うも、危機感を感じて咄嗟に腕をグイッと引いて、窓から引き離した。
二人は見るからに、抱擁姿勢となった。
ライオネルは、直ぐに離れようと身悶えするが、抱きしめられている腕から抜け出せない。
「ゴードン、離してくれ。」
「だめだ。また同じ事するだろ。いつからそうしていた? これは、お仕置きだからな。」
ゴードンは、ライオネルを抱きしめる腕に力を入れていた。
「痛い、痛い、やめろ。分かったから。もうしない、しないから。許してくれ。」
ライオネルは、眉を下げながらひたすらに、許しを請う言葉を連ねる。
「本当か?怪しいなぁー。はぁー分かったよ。」
「ふぅー」と漸く解放され、溜息を漏らす。
ガタンと馬車が停車する音が聞こえた。
ライオネルは、無意識にカーテンを少しずらして、外を見た。
ゴードンの睨みつける視線には、全く気づいていない。
国境を越えて直ぐの道端に、一台の馬車が停車していた。周囲には、数頭の馬と軍服姿の男性が見える。
「ゴードン、国境に辿り着いたようだ。向こう側にさ、おわぁ、あれ、はぁ⁈ おい!やめろ!何するんだ!」
再び、ゴードンに力強く抱きしめられた。
「やはり、騙された。もう信用できない。どれだけ危険か分かっているのか!この馬鹿が!」
ゴードンは、激怒して大声を上げた。
「は⁈ 馬鹿とはなんだ。ひどいぞ!ゴードン!もういいから離せ!この大馬鹿者が‼︎」
「は⁈ それはお前だろ!お前に馬鹿と言われる筋合いはない!まずいいからじっとしていろ!!」
口喧嘩が勃発した。ライオネルは、日頃の鬱憤を晴らすかのように、野次暴言が凄まじくなっている。
一方でゴードンは、満面の笑みを浮かべ嬉しそうな表情を見せていた。その嬉々とした声が、ライオネルの癪に障り、口喧嘩が更にエスカレートしていた。
しかし、突如、口喧嘩がピタッと止まる。
馬車の外まで聞こえる怒声に、心配や不安が募り、オーウェンが喧嘩の仲裁に入ったのだ。
ノックもせず、いきなり馬車のドアを開けたオーウェンは、目の前の光景に驚く。二人と目が合った瞬間、反射的にドアを閉めた。
「「え⁈ えーーー!!! どうしよう、どうしよう。」」と二人は狼狽える。
直ぐに、ゴードンは抱きしめる腕を離して、馬車のドアを開ける。
ドアを開けると真ん前に、茫然自失のオーウェンが立っていた。ゴードンは、すぐさま弁解の言葉を述べる。
「グランド公爵閣下、違います。俺らはそういう関係ではありません。健全な男同士の友情です。決して誤解しないでいただきたい。」
「お取り込み中だとは知らず、勝手に見てしまってすまんな。許してくれ。」と頬を赤く染めて恥じらいながら話すオーウェンに、すかさずライオネルが補足する。
「私がカーテンを開けて外を眺めていた為に、あの様に押さえつけられていただけです。決して、いかがわしい行為はしていません。勘違いしないでいただきたい。勘弁して下さい、こんな図体がでかい男と……私は決して男色家ではありませんから。ゴードン!元はと言えば、お前が悪い。しっかり弁解しろ‼︎」
「はぁ⁉︎ もう言うことないだろう。あーもうどうしたら良いんだ。はぁー。」とゴードンは溜息を吐きながら、頭を掻きむしる。
「「「………」」」
三人共、チラチラと双方を見ながら気不味い雰囲気に押し黙る。
「すまん、すまん。分かった、分かった。いやぁーびっくりしてしまって……まぁ勘違いで良かった。あっ!ゴードン、そろそろだから、準備を頼んだぞ。ライオネル、もうカーテンも窓も開けていいからな。十分に楽しむが良い。ではでは。」とオーウェンは元の場所に戻って行った。
「「ふぅーーー」」と二人は弁解が通じて安堵した。再び馬車の中に戻り、ライオネルはカーテンを開けた。ゴードンは、書類を準備している。
我々一向を先導している護衛が、オリビア連合国側にいる軍服姿の男性に話し掛けて、互いに頷く動作をした。
軍服姿の男性は、連合国側の馬車に近寄り、扉をノックしている。
馬車の中から一人の男性が降りて来た。
「叔父上か?」と呟いた。
ライオネルは、初見にも関わらず、一目で男性が叔父のエドワードであるとわかった。
すかさず、ゴードンが馬車から降りて、男性の方に向かって走って行った。互いに深々と御辞儀をした後、真剣に話し始めた。
話終わると直ぐに、ゴードンが走って戻って来る。馬車は、再び走り出した。
漸く国境を越え、オリビア連合国に入国した。
気兼ねなく、馬車の窓から外の風景を眺めようと窓に近づくが、馬ばかりが視界に入る。
気づかぬうちに、軍服姿の男性を乗せた馬が、我々一行の全方位を援護するように配置されていた。
ゴードンは、国境を越えたのを確認してから、報告を始める。
「やはり、ライルの叔父上でした。とても親切に応じて頂いた。先ずは幸先の良いスタートを切れて安心したよ。
ーーーこのまま、馬車は連合国の総帥官邸に向かい、閣下と謁見する事になっているそうだ。万全に準備しとかないとな。
ーーーそれと、実はもう既にグランド公爵閣下が裏で根回ししてたみたいだ。」
ゴードンは、カイアスから渡された書類を念入りに確認し始めた。
「え⁈ ……流石だな。そうか。ふぅーー。」
ライオネルは、心臓の鼓動が早鐘を打っているのに気づいた。
思いの外、緊張もしていたが、それよりも初めての外国訪問と長旅に、胸の高鳴りが止まらなかった。
今まで、国外の地に渡った事もなく、ましてや国内でも、王都周辺しか知らないライオネルには、楽しい旅行気分であった。
(ゴードンは、偉いな……。あーだめだ、だめだ。何してんだ、俺は。よし!)
心を鎮める為に、掌で両頬を叩き、深く息を吸い込んで、ゆっくりと吐き出した。
息を整えてから、ゴードンと一緒に書類の確認作業を始めた。
毎日投稿が出来ず、すみませんでした。
ストックしていた文章がもうすぐなくなりそうなので、長期間投稿できない時は、必ずお知らせしますので、宜しくお願い致します。
先々日、高評価をして頂き本当にありがとうございました。初めての評価に感動して、泣いてしまいました。
読者の皆様にはいつもたくさん読んで頂き、感謝でいっぱいです。これからも期待に応えられるように頑張ります。
明日は、次話投稿出来ますので、宜しくお願い致します。




