22.責任の重圧
ゴードンは、グランド公爵邸に至急使いを出す。
そして、大急ぎでガバニエル公爵邸に馬車を走らせ、邸に到着するや否や執務室まで走った。ドアをノックすると、父親のイザルグが返事をした。
部屋に入った途端、頭を抱えて跪く。次第に、眉を顰めて拳を床に打ちつけた。
イザルクは、予期せぬ息子の登場に驚いた。しかし、それよりも突然膝から崩れ落ちて項垂れる姿が異様で危機感を覚える。
咄嗟に駆け寄り息子の背中を摩りながら、血が滲む拳を掌で優しく包み込んだ。諭すように優しい声色で事情を聞き出す。
すると、抑えていた感情が堰を切ったように溢れ出して、泣きながら心に溜まった澱を吐き出した。息も絶え絶えになりながら、やっと聞き取れる言葉を発する。
「父上、ライオネルを……ふぅーはぁー。ううぅっ……守れなかった。」と体を震わせながら嗚咽している息子の姿に、イザルクは胸がつまり言葉が出ない。
息子は王太子側近候補としての責任が重くのしかかり、憔悴しきっていた。
居ても立っても居られなくなり、息子を引き摺りながら、グランド公爵邸に馬車を走らせた。
オーウェンは、使者からの報告により、全てお見通しであった。にこやかな笑顔で、二人を出迎えた。
オーウェンとイザルクは、同級生で親友でもある。気の知れた仲ではあるが、突然の訪問にも関わらず、快く応じてくれた事に感謝の意を表す。
「オーウェンすまない。息子がライオネル殿下を止めれなかった。」とイザルクは深々と頭を下げて謝罪する。
「イザルク、気にするな。心配は要らない。まずはゆっくり茶でも飲んで。」
オーウェンは、使者から報告を受けて直ぐに任務地へ使いを出す。
任務地のベル商会倉庫には、息子と娘を派遣していた。
万が一使者が任務を失敗しても、状況を汲み取って対処すると確信していた。
後に悪戦苦闘した内容の報告書が提出されるとも知らずに、オーウェンは呑気に構えて、ゆっくり寛ぎながらお茶を飲んでいた。
一方でゴードンは、項垂れて大粒の涙を流していた。表情は暗く、虚な目をしている。
「大きい身体でそんなに泣くな、ゴードン君。君は良くやっている。誰よりもライオネルを想っているのは、わかっているから。子供達ばかり辛い想いをさせて、私の方が申し訳ない。敵も漸く動き出した事だ、ここからが正念場だ。忙しくなるぞ。泣いてる暇なんてない。今のうちに英気を養わないといけないぞ。これ、リアが作ったお菓子だ。まぁー美味しいから、食べて元気だせ。」
オーウェンは、甘いものが苦手である。
ゴードンがつられて食べるのを期待して、一気に口の中に入れてお茶で流し込んだ。しかし、口の中に纏わりつく甘味に顔を顰める。
どうみても明らかに不味そうな表情を浮かべていた。
「ぶーっつ。あははは。その顔はないでしょう。リアに怒られますよ。」
ゴードンはオーウェンの顔を見ながら、無礼を承知で吹き出し笑いをする。
「そうか。いつもリアの作るお菓子は甘いからなぁー。正直言うと、食べたくはない。でも残すと怒るから、塩味のある菓子を頼んだら、まぁーそれは、それは怒っていたよ。リアは怒ると怖いからな。すぐに暴力振るうから、こっちは逃げるのに必死だよ。はっははは。」と高笑いをしていた。
「え⁈」とゴードンは目を見開く。
「オーウェン、アリアナ夫人の次は娘か。それはまた大変だな。はははは。」とイザルクも高笑いをした。
「え⁈ 父上、どういう事?え⁈」とゴードンは目をパチクリさせる。
「夫人も何かと気に食わないと暴力的だったなと思い出して。昔からアリアナ夫人にそっくりだったからな。」
「まったく、似なくてもいい所ばっかり似てしまってな。」
「そういうもんだ。ゴードンが図体でかい癖に気が弱いのは、私に似てるからな。」
「そう言われれば、そうだな。はははは。」
「認めたな。あはははは。」
二人は互いに目を合わせ、大笑いしていた。
「あのー、エミリアが公爵閣下に暴力をと言うことですか?」と恐る恐る尋ねた。
「ああ、そうだよ。びっくりしたか。男より男前の性格してるからほんと困ったもんだ。」と首の後ろを摩りながら話している。
「えーー!なんて事だ。信じられない。……いや、あり得るな。俺も殴られるしな。」
ゴードンは、元の明るさを取り戻し、自然と笑みがこぼれる。
「え⁈ 君も殴られているのか。それは知らなかった。いつもすまないな。流石にライオネルは殴っていないよな。はぁー。」と机に肩肘を立て、額に手を当てながら溜息を吐いていた。
「それよりどうだ?少しは気分が晴れたかな。笑っていれば良いんだ。楽しくなければ、やる気も起きないだろう。」
「グランド公爵閣下、ありがとうございます。これからも頑張ります。」と椅子から立ち上がり、深々お辞儀をした。
「一人で頑張らなくても良いんだぞ。みんなが君の味方だ。何かあったら気にせず直ぐに言うように。」
「はい。わかりました。」
オーウェンは微笑み、イザルクは胸を撫で下ろす。
「オーウェン、今日は助かった。恩に着る。落ち着いたらゆっくり話でもしよう。」
「いやいや、こちらこそすまないな。早く片付けてゆっくりしよう。それにしても、お前の息子は立派に育って良かったな。」
「お互い様だろ。一人で男三人育てるのも楽じゃない。漸く、隠居生活だ。」
「じゃあ一緒に遊んで暮らすか。」
「それも良いな。」
二人は話に花が咲いて、一向に終わらない。
「父上、そろそろお暇しなくても良いですか?」と息子に言われ、イザルクは渋々馬車に乗り一人でガバニエル邸へ帰って行った。
ゴードンは、オーウェンの指示でグランド公爵邸に待機する事となった。
オーウェンは、ライオネルを一旦グランド公爵邸に帰還するよう部下に指示を出していた。
おそらくは、侍女のラナがオーウェンの愛馬を走らせ帰還すると予測していた。
到着するまでの時間が僅かであると判断して、執事に言伝をする。
残された時間で、ゴードンからことの顛末を聞き出す事にした。
昨日、次話投稿ができず大変申し訳ございませんでした。
今後、1日おきに投稿する事になると思います。次は、6月6日となりますので宜しくお願い致します。
それまで頑張って執筆します。応援宜しくお願い致します。




