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21.第二王太子と王妃の訪問

 ゴードンは、久々に早朝から王宮に出向いていた。昨日は、学園で殆ど執務が出来なかったからである。


 『無理はせず全て終わらせて下さい。』


 使命を果たす為、二人は書類と格闘しながら黙々と執務をこなしていた。


 すると、突然ドアを勢いよく開けて、第二王太子ロマイクスが入って来た。


 「どうした。何かあったか。」

 ライオネルはロマイクスを一瞥しながら、威厳のある低い声で、極めて冷静に応対する。

 そして、下を向いたまま、書類を書く手を止めなかった。


 ロマイクスは、意気揚々と話し始めた。

 「兄上、知っていますか。王都のベル商会が違法薬物と異国の違法な武器を売買しているそうです。学園の同級生から聞きましたが、ベル商会にグランド公爵令嬢のリア様が出入りしていると噂になっています。兄上はリア様とご親友とお聞きしていたので、早くお伝えしなければと。」

 一瞬、うっすら不敵な笑みを浮かべながら、ご満悦な表情を露わにした。


 「そうか、早く教えてくれて、ありがとう。」とライオネルは椅子から立ち上がり深々と礼をした。

 「いえいえ、兄上の為なら僕は何でも喜んで協力しますよ。では、また。」と部屋のドアを勢いよく閉めて、出て行った。


 ゴードンは、ライオネルを一瞥するが、黙々と真剣に書類を捌いていた。

 ゴードンは、怒りの感情が制御できず「ラ…」と言いかけた時に、強い視線を感じる。

 ライオネルはゴードンを見つめながら「また来るぞ。」と小声で囁き、険しい目付きでドアを睨んだ。


 再び、ロマイクスは勢いよくドアを開けて部屋に入り、ライオネルの机の前に大きな足音を立てながら大股で歩み寄る。

 そして、ライオネルが自分を見てないのを良い事に、嘲笑を浮かべながら頭上で話を始めた。


 「兄上、言い忘れたことがありました。学園に入学してから、気になる女性が出来ました、スランダード侯爵令嬢のサラ様です。彼女は本当に清楚で、お綺麗でお優しい方です。そしてとても知的で優秀です。母上に話したら、是非一度お会いしたいと話していたんですが、何せ従姉がグランド公爵令嬢のリア様だそうで、ベル商会との噂もあるので……。王宮にお茶のお誘いをしたいのですが、どう思いますか?」


 「ベル商会の件は、早急にグランド公爵閣下に忠告しておく。お前が好意を抱いているのであれば、遠慮せずにお茶会にご招待したら良いのではないか。良かったな素敵な女性に出会えて。ゴードン至急書類の手配を!」 

 ライオネルは下を向いたまま、一切表情を変えず、抑揚なく淡々と話す。終始、書類を捌く手は動かしたままであった。


 ロマイクスは、怪訝な顔でライオネルを睨みつけた後、ゴードンに強い視線を向ける。

 そして、無言のまま部屋のドアを閉めずに、足早に去って行った。


 ライオネルは足音が遥か先で聞こえた事を確認し、本音を漏らす。


 「漸く行ったな。全くどうしたものか。あのままなら国が潰れるか、彼奴が殺されるかどっちかだな。」と深く溜息を吐いて、失笑する。


 ゴードンは、怒りを抑えて仕事を再開するも、手に持っていた書類を無意識に握り潰していた。


 「あっ、やっちまった。はぁー。」

 「気にするな。やり直すから貸せ。」

 「いつもこうなのか?」

 「ああ、そうだが。」

 「息が詰まるな…。めっちゃ睨んでたよ。なにか企んでいるんだろうな。怖い、怖い。」

 「お前、気付いてないのか?そうか、教えてやる。サラ嬢はイーサンが好きだから、挑発してきたな。愚かな奴だ。ここで問題なのはサラ嬢だな。イーサンに守ってもらうしかないか。」

 「えー知らなかった。あいつもやるな。わかった、それは俺が何とかするから、リアはどうする?」


 「リアは……。」とライオネルは言葉を詰まらせた。



 仕事を再開しながら、暫く沈黙が続いた。





 突然、部屋中が殺気で充満し、寒気と震えに襲われる。

 ゴードンは、恐る恐るライオネルに視線を向けた。


 無表情で部屋のドアを見ている。死んだ目をしていた。

 部屋のドアは、先程、ロマイクスが開けてからそのままの状態であった。


 (廊下に誰かいる?俺からは見えない。誰だ?もしかして……。)



 「ごきげんよう。お仕事、お忙しそうね。」と聞き覚えのある声が聞こえた。


 ゴードンは、恐怖で鳥肌が立つ。目を閉じて、耳を塞いで、顔は俯いた。身震いが止まらない。息が苦しい。息を思いっきり吸い込んで、咳き込んだ。


 「あら、他にも誰かいらっしゃって?」


 (あ! もしかして部屋の中に入って来る?ダメだ。無理だ! 怖い、怖い、怖い。殺される。母上、お願いです! 助けて下さい‼︎)

 ゴードンは、両掌を指が重なる様に強く握りしめ、胸に当てて祈りを捧げる。

 必死に、亡くなった母親に助けを乞うていた。


 ふわっと暖かい空気が流れた。


 ゴードンの肩にライオネルがそっと触れて、耳元で「そのまま動くな。」と囁いた。

 そして、ライオネルはドアの方に歩いて行った。


 「王妃様、どうされましたか?」

 「いえ、ロマイクスが出て行くのが見えて、何かあったのかしらと思いまして。」とねっとりとした声で、微笑みながら射抜くような視線を向ける。

 「他愛もない話をしていただけです。ロマイクス王子は学園でも良く頑張っている様ですし、兄としても誇り高いですよ。」とライオネルは王妃の目を見て、穏やかに微笑みながら話を続けた。


 「こんな所で立ち話もなんですから、中に入ってお茶でもどうですか。」

 「あら、申し訳ないけれど、今日はこれから予定がありますの。折角お誘い頂いたのに、何だか悪いわね。ふふふ。………お部屋にお花もなくて殺風景だもの、遠慮させて頂くわ。」


 最後の一言だけ小声で呟き、嘲笑を浮かべる。赤い花の刺繍が入った青いドレスの裾を靡かせて、その場から消えていった。



 ライオネルはゆっくりと戻り、書類に手を伸ばす。


 室内は、紙をめくる音だけ聞こえる。


 音が突然消えた。小さな呟く声が聞こえてきた。


 「ゴードン、協力してくれるか?」と額を手で押さえ、心苦しい表情をしながら、俯いている。


 ゴードンは、ただならぬ空気に息が詰まる。


 嫌な予感しかしない。

 全力で静止したいのに、自分の心がそれを許さなかった。

 ただ頷くしかなかった。



 ライオネルは部屋から消えた。



 もし良かったら、誤字・脱字報告や感想、いいね、評価などなど是非よろしくお願い致します。



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