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18.国王代理の責務と不条理な人生

 ゴードンは、帝国に陳情する書類の原案をゼンと確認しながら、修正していた。


 ラリーシュシュ辺境伯閣下の身柄確保は、お茶会開催に影響を及ぼす危険性があり、ジルアン暗殺計画を優先する為にも、お茶会当日の身柄確保となっていた。

 それ故、帝国に陳情する書類は、帝国側の動向を把握しながら、ゼンが宰相に渡すことになっていた。

 ゼンの判断が、勝敗の鍵を握る事となる。


 そして、アルマンド侯爵一族とラリーシュシュ辺境伯閣下の刑執行日を同日に変更することを決める。

 本来であれば、既にアルマンド侯爵一族に死刑を科している為、絞首刑は即刻執行される予定であった。

 しかし、闇事業の全容が明らかとなり、更にはゼンの計画を知らされた以上、そう簡単に刑を執行するわけにもいかなかった。

 国民の不安や不満が高まる一方で、帝国と深く関与する重罪を穏便に対処するのは容易ではなかった。

 国民へ極悪組織の撲滅を主張し、戒めを込める主旨を掲げ、一括で刑を執行する決断を下す。


 ライオネルは、国王代理の責務として、国民の信頼に応えようと問題山積のなか、必死にもがいていた。当然、休む暇などなく、あくせく働かざるを得なかった。


 一先ず、ゼンの計画に希望を託した。

 ジルアン主催のお茶会は、非常に物騒なお茶会に変貌を遂げるであろう。護衛を大勢配置する為、心配は無用であった。

 

 (まさか、ゼンが……。)

 ライオネルは、カイアスの従者ゼンという位置づけでしかなかった彼を尊敬していた。


 感慨に耽りながら、ゆっくり生徒会室に歩いて戻って来た。

 部屋の中は、もう既にカイアスとリリーローズの姿はなかった。


 (見たくないものに限って、見てしまうんだよな……。)

 机上に置いてある書類の山に、感慨に浸っている場合ではないと忠告される。歩く足が止まり、深い溜息を吐く。


 「おっと! どうした?急に止まるから……。う-ん?あーー。」と後ろを歩いていたゴードンが、突然立ち止まったライオネルを咄嗟に避けて立ち止まる。


 ゴードンは山積みの書類を見ても、平然としていた。鞄を手に取り、帰り支度をしている。


 ドアがノックされて、ライドとエミリアが部屋に入って来た。エミリアは、ライオネルの机上を見ながら溜息を漏らす。


 「今日、半分くらいは処理した?あのお馬さんと鹿さんは、()()()()()になったのかしら。ふふふ。」とエミリアは嘲笑していた。

 おそらく、馬は国王で、鹿は宰相であろう。職務怠慢な二人を馬鹿にしたエミリアらしい揶揄に、ライオネルも嘲笑う。


 「今日は、優雅にお茶を嗜んでいらっしゃいましたから、お茶会の準備にお忙しいのでしょう。書類はいつもの保管庫に入れて置きます。明朝にゴードンが王宮に向かいますので、無理はせず全て終わらせて下さい。では、私は失礼致します。」とライドは部屋から消えていった。


 「あら、お兄様が一番毒舌ね。私が悪いのかしら。『無理はせず全て終わらせて下さい』って圧が強くないかしら。ゴードン、明日は予定ないの?」とエミリアは、多忙な兄を振り回した自分の行動に反省していた。


 「え?あー予定はないよ。もう疲れたから帰ろう。リアは迎えを手配したか?一緒に乗って行くか?」とゴードンは自分の帰り支度は済み、ライオネルの帰り支度を手伝っていた。

 「じゃあ乗せてもらうわね。ライル、いいかしら?」

 「だめだ。ゴードンと一緒は……。」とライオネルは、自分よりも仲が良すぎる二人に、恋愛感情がないのは知っていても毎回嫉妬していた。

 「じゃあ、()()馬車という事で、決まりね。」とエミリアは、いつも通り三人でライオネルの馬車に乗合しようと提案した。

 「いや、俺はもうさ、イーサンを乗せて待たせてるから無理だ。ライル! 明日、お前の部屋の前まで行ってもいいよな。 おーわかった。じゃあな。また明日!」

 ライオネルがゴードンに「あー。」と返事を返すと、すぐに手を振って走り去って行った。


 イーサンとは、ゴードンの弟である。一学年である為、もう既に帰っている時間ではあった。


 「一本取られたようね。今朝の仕返しかしら。やるわね、ゴードン。」とエミリアは腕を組みながらぼそりと呟く。

 「は?仕返し……。」

 見当もつかないが、疲れて考える余裕もなかった。

 そんなライオネルを見ながら、エミリアの大きな蒼色の瞳が揺れている。

 「ライル、無理したらだめよ。」とか細い声が聞こえた。


 「案ずるな。わかってる。」と下を向いたまま書類整理に集中していた。ふと、エミリアの声色が気になり、顔を上げた。

 「どうした?」と明らかにいつもと違うエミリアに驚き、近くに寄って行く。

 「なんでもない。………。」と俯きながら目に涙を浮かべていた。

 ライオネルは、エミリアを優しく抱きしめて、背中を優しく摩った。

 「安心したんだろう。カイアスとリリーローズの事、誰よりも心配してたのはリアだからな。後は、ゼンに任せるしかない。………ジルアン皇太子が……。」とエミリアの肩に突然、項垂れた。

 「………でも仕方ないのよ。大人の事情なんて、子供は……分かりたくもないわよ。」とライオネルの頭を優しく撫でた。


 二人は宿敵ジルアンに、不謹慎にも同情する感情が抑えられなかった。


 誰一人も心から愛したことのない(ジルアン)が、初めて愛した女性(リリーローズ)。皮肉にも、愛した女性(リリーローズ)に騙されて、女性(リリーローズ)愛する人(カイアス)に殺されるのは、想像しただけでも辛すぎる結末であった。


 (ジルアン)が母親に愛されていれば……。カイアス(愛する人)に……なれたのかもしれない。


 不条理な(ジルアン)の人生が、否でも自分と重なり、二人はただただ抱きしめ合い、想いを分かち合っていた。


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