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12. 試食会

 「よし、これで後は…。え⁈」

 ゴードンはドアストッパーを設置して、立ち上がるとすぐ横にライオネルが呆然と立ち尽くしていた。


 目の前を、リリーローズが長い髪を靡かせてしなやかな動きで通り過ぎる。

 手にはお皿を四枚載せて運んでいた。

 もう戻って来た。

 今度はティーカップを五名分載せたトレーとお皿一枚を手に持っている。


 ゴードンは、慌てて声を掛けた。

 「リリーさん、ちょ、ちょっと待って下さい。」

 「ドアを開けて頂きありがとうございます。」と頭を下げて行ってしまった。

 リリーローズの隙のない動きに手も足も出ず、ゴードンは溜息を吐く。


 「誰?」とライオネルが呟く。

 「リリーローズ嬢です。さあもう準備が整ったようですし、行きましょう。」と給湯室を見るとエミリアが物思いに耽っていた。

 「リア!先に行くぞ。」と声を掛けてライオネルとゴードンは歩いて行った。


 テーブルには、昼食がセッテイングされており、リリーローズが傍に立っている。

 ライオネルとゴードン、遅れてエミリアが席に座る。

 カイアスはと言うと、生徒会室に来訪してから座ったままであった。


 リリーローズが、深々と頭を下げた。

 「先程は、お見苦しいところをお見せしてしまい申し訳ございませんでした。重ねて、貴重なお時間を無駄にしてしまい深くお詫び申し上げます。何分、お時間がございませんので、皆様がお食事をしている間、もしよろしければ、少々お話をしても宜しいでしょうか。」

 ライオネルが「はい。宜しいですよ。」と返事をした。他の三人も同意して頷く。


 リリーローズが話始めた。


 先ず最初に、昼食として出したパンの説明をした。

 お皿に乗った丸いパンと棒状のパンは、全てリリーローズのお手製である。


 丸いパンは、パンの中に数種類の香辛料で味付けをした、炒めた肉と野草を入れ、油でこんがり黄金色になるまで揚げている。肉は兎の干し肉、野草は毒草のセイスンを自家栽培で無毒化したものを使用している。

 セイスンはパン生地にも練り込んでいる。

 辛味が後を引く美味しさは、領地の山に自生しているサランの実を乾燥させ粉末状に粉砕したものを、味付けとして多く使用しているからだそうだ。


 棒状のパンは、木の実を甘く煮詰めてジャムを作り、ジャムと更に干し葡萄をパン生地に練り込んで焼いたものである。

 木の実は季節により変わり、今回は木苺を使用しているが、寒い時期になると保存食の胡桃や干し葡萄を練り込んだパンがよく食卓に並ぶ。


 いずれのパンも、中身の具材や生地に至るまで、人それぞれ嗜好に合わせて違い、多種多様である。

 領地の街にも、変わり種のパンが店頭に並び、街行く人々の食の定番となっていた。


 元々このパンは、お祖母様が戦地に赴くお祖父様の為に、戦で疲れた身体を癒し、英気を養う目的で、栄養価が高く、手軽に食べられるものを考案し、試行錯誤を重ねて作られたパンである。

 戦で苦しむ領民達にも無料で配布し、皆で戦を乗り切った勝利のパンとして、人々にこよなく愛されている。

 


 ラリーシュシュ辺境伯領主は、パンの更なる進化を研究、開発している。

 まあ、単純に御父様の好物であるが故に人一倍熱が入るのでしょう……と話すリリーローズは呆れ顔であった。


 

 ラリーシュシュ辺境伯の領地は、隣国のキールッシュ帝国に近く、自生している野草や木の実は有毒植物である事が多い。

 その為、見分けが付かない野草や木の実を摂取して体調不良や最悪の場合、死に至る事も少なからず報告されている為、無毒化の研究は領主の重大任務であった。


 今回のパンの材料であるセイスンは、領民がよく間違えて摂取してしまう毒草であった。

 漸く、初めてセイスンの無毒化に成功し、更には無毒化したセイスンは滋養強壮、疲労回復の効能があると実験で証明された為、歓喜の雄叫びをあげて皆で宴をしたと目を輝かせて、生き生きと話していた。


 ラリーシュシュ辺境伯領主は、セイスンなどの無毒化した有毒植物、特に有効成分を多く含む植物を家庭料理に使用して、領民の健康増進を促進したいと考えていた。

 無毒化計画の新規事業を立ち上げ、研究、開発及び事業展開に画策しているそうだ。


 要するに、民を利用して事業を展開し、効率良く収益を得たいのである。

 やり手のラリーシュシュ辺境伯閣下らしい計画である。


 品種改良した有毒植物の原価は最初は安価であるが、いずれ高く見積もるのであろう。

 そうなると、お試しで無料配布した後、徐々に売価を上げていくという目論見である。


 人間の心理で身体が健康になると豪語しているものを、一度は試してみたくなる。

 一度試して効果を実感すれば、忽ち拡散して商品は売れる。短期間で巨額の利益が得られるというわけだ。


 今回、セイスンをパン生地に練り込んで、具材にも使用した試作品を試食させた。

 結局は、王太子殿下のお墨付きを頂戴したい為だけに御膳立てをしたのである。

 魂胆見え見えであり、そしてプレゼンテーションを娘にさせる父親の心理も理解できず、ライオネルは極めて不愉快であった。


 それでも、美味しくパンを頂いたので心の中に留めておく事にした。

 従って、王太子公認は暫く保留である。それには、皆が満場一致であった。

 

 昼食を終えた頃には、午後のティータイム時間になっていた。

 リリーローズが、お茶を淹れ直す。

 

 カイアスが、お茶を一口飲んだ後、顔を歪める。

 「このお茶は……。」と呟いた。


 リリーローズがこの後、衝撃的な言葉を口にした。


 



 

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