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番外編:ミレーナの手記

番外編を開始しました。以前に投稿削除した文章です。

 人々が寝静まった夜更けに、王宮内の王太子妃専用の部屋は仄かなあかりが灯る。深いため息と潤む瞳。込み上げる想いを飲み込むたびに、自然とため息ばかりが漏れる。王太子妃の望ましい在り方を日々模索するエミリアは、真夜中を過ぎても机に向かい一冊の古びた手記を真剣に読む。時より思い詰めた表情を見せるエミリアは、ミレーナの手記を拝読しながら、人生の道しるべとなる言葉と出会い、生きる糧を見つけるのであった。


 激動の人生を生き抜いたミレーナ。そのすべてが、このたった一冊の手記に書き遺されていた。

 忌まわしい過去が、手記を読めば読むほど、また現実に蘇るような、そんな恐ろしさを強く感じてならない。



 愛する人を守り抜く為に、愛と運命に翻弄された大人達の激動の人生。

 それはまさしく、『愛は人を変える』の言葉通り、愛欲に溺れた大人達が悪に手を染めて、罪を犯してまで自分の愛を貫き通した人生である。

 そんな大人達の醜悪な愛憎劇と復讐の陰謀に巻き込まれた子供達の哀しみと苦悩は、はかり知れない。


 背徳の愛に溺れる王女レイナーラとラームス。

 レイナーラから熱烈な愛情を注がれたラームスは、次第に好意を持つようになり、二人は隠れて愛を育んでいく。終いにラームスはレイナーラを溺愛するあまり、周りが見えなくなっていた。

 温厚で優しく、常に冷静なラームスは亡き父の遺志を継ぎ、このまま呆気なく復讐を終わらせても良いのかと心の中で葛藤を繰り返す。

 そんな矢先に悲劇が起こる。エディンの陰謀によりレイナーラが暗殺されたのだ。

 エディンはネビルが消えて、後はラームスさえ始末すれば望むものが全て手に入ると高を括っていた。併せて、サディアブル一族とグランド一族が協力関係になるのを阻止したいミラウェイ一族は、女王暗殺計画をグランド一族が企てたと虚偽の情報を流して関係に亀裂を生じさせる。

 ダニエルとネビルの二人が命と引き換えに交わした契約は、ミラウェイ一族が作為的に仕組んだ企みにより事実上無効となる。二人が命懸けで挑んだ復讐の終焉は、呆気なく果たされずに終わる。結局のところ、二人の死は報われないのであった。


 それからというもの、人が変わったように狂気を身に纏うラームスは常軌を逸した奇行に走る。最愛の人を失い悲嘆にくれる男は、孤独と喪失感を埋めるように再び復讐心を燃やすのであった。次第に感情を抑制できなくなり、私欲を貪る暴君へと成り果てていく。


 女王レイナーラ暗殺後、王配エディンはグランド一族により暗殺されていた。そして、裏で実権を握るミラウェイ一族達は斬首刑が下されて、害悪は国内から一掃される。

 心機一転を図るロズウェル国は、エスバーンが国王に君臨。だかしかし、裏で実権を握るのはラームスであり、命令に絶対服従であった王宮内は暗雲が立ち込めていた。ラームスとエスバーンの確執が深まる中で、一人の女性を巡り対立が起きる。この対立が波乱の幕開けであった。

 エスバーンはミラウェイ一族であるモネを愛するが故にラームスと対立。王宮内部紛争が起こり、異父妹であるミレーナが巻き込まれる。ミレーナはラームスに逆らえず、愛する夫ヒルマン、そして生まれたばかりの息子ザシランと引き離されることとなった。対立が激化する中で、異父弟ライアン、異父妹クロウネは、エスバーンを必死に説得するが意志は固く、頑なに信念を貫き通されてしまい苦慮していた。

 そんな最中、クロウネを奪還する目的でヒルマンとザシランは、ロズウェル国に戦争を仕掛ける。

 馬鹿げたことに、戦争を好機と捉えるラームスとエスバーンは、それぞれが自分の思惑通りに動き始めるのであった。


 しかし予想外に、キールッシュ帝国とロズウェル国の戦争が長期化、膠着状態が続く。

 それは、愚かな復讐心に囚われて、何気ない日常の幸せさえも見失う者達が、誰よりも愛してやまない家族や恋人に牙を剥き始めたからである。


 ミラウェイ一族を許せないラームスは、無理矢理にでもエスバーンとモネの関係を断ち切ろうと強硬手段に出た。モネに毒を盛り、毒殺を企てたのだ。毒を盛られたモネは一命は取り留めたものの、子孫を残せない身体となってしまう。

 そしてそのまま復讐心に突き動かされるラームスは、暴挙に出た。

 再びグランド一族を襲撃、更にはロズウェル国内の青い瞳を持つ人間を無差別に襲いかかり、虐殺したのである。精神が不安定なラームスは、もはや狂乱状態となり錯覚を起こしていた。今更になって、志半ばでこの世を去った父ネビルの望みを叶えようと、ロズウェル国内だけでも良いからミラウェイ一族の血を絶やそうとする。

 だがしかし、一連の暴動は全て王妃ミレーナの嫉妬による愛憎劇として片付けられる。一方的に悪者にされてしまうミレーナは、更にその後もラームスの陰謀は全て、ミレーナの仕業となるのであった。あっという間に悪女にまでのし上がるが、当の本人は蚊帳の外に置かれたまま、気づかない振りをするしかなかった。ミレーナにしてみれば、まるで虚構の人物が自分のまったく知らない世界で一人歩きしているかのようで、底知れない不安と恐怖に襲われる日々が続くのであった。それにより修復できないほどの深い傷を心に負う。

 そんなミレーナに、更なる悲劇が襲いかかる。

 愛する夫ヒルマンの死をきっかけに、ミレーナは正真正銘、本物の悪女へと変貌していくのであった。


 帝国山間部リューシュ地方の山々に棲みつく黒鳥が好んで食べる植物の実があり、その実は、中毒性が強いことから“悪魔の実”とも言われて、恐れられていた。悪魔の実がなる植物に、ミレーナの本名を名付けたのは、サディアブル一族を根深く恨むリューシュの民であり、リューシュ地方はクロウネへの復讐心から、ヒルマンを精神的に追い込み、死に追いやったのである。


 ミレーナは、“悪魔の鳥”と異名を持つほどに、毒草クロウネの実を使用して、巧みな話術で人間を操り、姑息な手段で罪を犯すのであった。

 それは、愛する人を守るためなら“毒を以て毒を制す”という東の国の言葉通りに、悪事には悪事を、悪女には悪女を利用して、ミラウェイ一族を、更にはロズウェル国を滅する為に、手段や犠牲さえも厭わなかったからである。



 ミレーナが平気で悪事を働いている裏では、国王エスバーンはラームス暗殺計画を秘密裏に進めていた。帝国と膠着状態が続く中、密談を図るエスバーンとザシランは、ラームス暗殺計画の成功報酬にクロウネを引き渡す提案を帝国側に示していた。帝国側はその見返りとしてクロウネ奪還確認後、モネを引き渡す提案をして両者の契約を締結させる。

 結果、ラームスはクロウネの息子、孫のザシラン率いる帝国軍に暗殺される。

 けれども、エスバーンが契約を反故にした所為で、クロウネとモネは愛する人の元へは、もう二度と戻れなかった。

 エスバーンは、モネではなく別の女性を愛していたのだ。その女性がクレイアスとクライシスの母親であった。エスバーンの心変わりに振り回されたミレーナは激昂する。エスバーンに毒を盛り、禁断の関係を持つ。精神的に追い込まれていくエスバーンは、後に残虐で卑劣な恐怖政権と恐れられるほど、暴君に成り果てる。だがそれは、エスバーンを傀儡に仕立て上げたミレーナが、裏で糸を引き、全ての実権を握っていたからであった。


 もはやだれ一人も過去の復讐とは無関係に好き勝手に暴れ始めていた。

 大きく膨れ上がったサディアブル一族郎党は、私利私欲の為に悪行を重ねていく。

 複雑に絡み合う人間関係の中で、恨みや嫉妬、憎悪、僻みなど悪意にまみれた心しか持てない、傍若無人な人間ばかりが生き残り、罪とわかっていても、歯止めがかからなくなっていたのだ。


いつも読んでいただきありがとうございます。本編完結後に、アクセス数を見て驚きと喜びで泣いてしまいました。たくさんの方々に最後まで読んでいただき、本当に感謝感激しています。

そして、こんな初心者の小説であるにもかかわらず、多くの方々にブックマーク登録までしていただき、本当にありがとうございます。

これからも不定期投稿ではありますが、もっと良い作品を投稿できるように努力していきたいと思っています。近いうちに短編の小説を投稿する予定でいます。もしも良かったら読んでいただければ幸いです。今後もよろしくお願い致します。

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