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100.エミリア帰還

投稿が大変遅くなりまして、本当にすみませんでした。

そして、100話で終わらせることができませんでした。あと2話で必ず終わらせますので、大変申し訳ございません。

 馬を走らせて辿り着いた場所は、旧グランド公爵邸跡地に建てられた近衛騎士団宿舎と訓練施設であった。今も昔も変わらず重厚感あふれる壮大な正門を横目に、馴染みの門番に敬礼するエミリアは、「無事帰還ご苦労様であります。」と最敬礼で出迎えられていた。

 そしていつも通りに正門ではなく裏門へ回ると、馬と共に厩舎の中へと消えていくのであった。その後、厩舎から地下ヘと続く階段を降りていたエミリアは、どこまでも延々と続く暗い道を目的地へと向かい颯爽と歩いていた。此処はグランド一族専用の隠し通路である。知らない者が足を踏み入れると二度と出られないように、わざと入り組んだ構造で仕組まれた地下道は、首都ルクセルを中心として張り巡らされている。実を言うと地下道の存在自体、君主である王族も知らないのだから、依然としてミステリアスな雰囲気を醸し出すグランド一族は、想像以上に謎多き組織である。しばらくして、地上へと続く梯子や階段を登るエミリアは諜報員組織グランドのアジトに到着する。ドアの前に立ちノックを二回して、帰還を報せるのであった。


 爵位剥奪、国外追放されているが故に、以前よりも不自由な生活を余儀なくされたグランド一族は、オリビア国内にある数十カ所の住処に各々それぞれ人目を避けて暮らしていた。ドアをノックするや否や、部屋から飛び出してきた父親と兄に部屋の中ヘと引きずり込まれては、押し潰されるくらい抱きしめられたエミリアは、感動の再会を噛み締める。けれど家族水入らずの時はあっという間に過ぎて行き、始業時間を迎えるのであった。街も人も寝静まった夜更けに始動するグランドの諜報員達は、本日催される建国式典の警護任務を命じられていた。

 

「お嬢、無事帰還ご苦労様であります。元気そうで何よりです。」

「私が留守にしている間、色々とありがとうね。」


 ラナと近況報告や他愛もない会話をしながら、屋根の上を颯爽と駆けて移動するエミリアは、眼下に広がる王都の街並みに目を輝かせていた。カラフルな家が建ち並ぶ目抜き通りは、明日の建国式典に向けて軒先や道端など、至る所に花があふれて、この二年で王都の道は見違えるほど綺麗な石畳に整備されていた。そして、建ち並ぶ家々の軒先すべてに、青いリボンが特徴的なフラワーリースが飾られており、異様な光景に違和感しかないエミリアは作為を感じてならなかった。


「はぁ。姑息な手を使うとは、悪質極まりない。」

「あ、圧が凄い。………ここまでしなくても、さすが抜かりない。念には念ときましたか。」

「逃げも隠れもしていないのに、これでは却って逃げたくなるじゃない。ふっふふふ。」

「恐ろしい顔。何を企んでいるんですか?お嬢、大人しくしていて下さいよ。」

「言われなくてもわかっているわよ。ふっふふふ。楽しみだわ。」


 不敵な笑みを浮かべて、時よりせせら笑うエミリアは、街全体を青いリボンや花で埋め尽くす、青一色作戦に出たライオネルの計画に、期待してはいけないのに湧き上がる気持ちに心が躍る。一方でラナは、長年見続けてきた恐ろしい顔を見ると不安が頭をよぎりゾワッと鳥肌が立つのであった。


「それにしても随分と変わったわ。道も整備されて、街並みも明るくなった。こんなにも早く再建するとは、陛下のご尽力の賜物ね。皆さんの努力に感謝しなければならないわ。」

「クライシス陛下は本当に素晴らしいお方でありますから。」


 クライシスを尊敬してやまないラナは、目頭が熱くなり目には涙が滲んでいた。つられて感極まるエミリアも視界が滲む。手腕を振るうクライシスの功績は国内外からも高く評価されており、他国で修行を積むエミリアの耳にも届くほどであった。高い建物の屋根から眺める景色に、自然と過去を思い出しては感慨に浸るエミリアは、二度と繰り返してはいけない過去を心にとどめていた。背信行為をした王族を再び信じて、手を貸してくれた民には感謝してもしきれない思いであり、多くの血が流れた過去から見事な復活を果たした国は、民の底知れない努力の上に成り立っているのを決して忘れてはならない。エミリアは愛国心にあふれる民に敬意を払い、大きな変貌を遂げた景色を目に焼き付けては、民が新生国に込めた想いを心に刻むのであった。


◇◇◇

『エミリア、私が許可するまで外出禁止だ。これは命令だからな。お前たち!見張りを頼んだぞ!』

『はっ!』


 ラナと二人っきりで真夜中の王都散策ツアーをしていたエミリアは、いつの間にか監視役二名を付けられていた事実が発覚するや否や、果敢な抵抗もむなしく、あっという間に強制連行されるのであった。オーウェンの命令に従う屈強な大男二名は、羽交締め状態で窓のない監禁部屋に引きずり込んで閉じ込める。ドア越しに常時監視されているエミリアは、行く手を阻まれて身動きが取れないのであった。


「よっ!エミリア、久しぶり!」


 鈍い音が二回聞こえた途端、直ぐに扉が開かれて、意気揚々と一人の男性が部屋の中に入って来た。手を上げて挨拶する男性の正体は叔父のシモンズである。衰えを知らない凄腕の暗殺者シモンズは、愛娘サラとガバニエル公爵御令息イーサンの縁結びをした借りを返す目的で、エミリアの計画に一役買ってくれていたのであった。


「また、随分と過保護になったもんだ。どうせ無謀だとわかっているものを。余程、心配なのだろうな。まぁ、気持ちはわからなくもないが。」

「あははは。そのようで。」


 互いに軽く苦笑いしつつも、計画実行のために王都にあるスランダード侯爵邸へと向かうエミリアとシモンズは、張り巡らされた包囲網の目を掻い潜り、難なく目的地に到着するのであった。侯爵邸に到着した頃には、建国式典開始まで残り一時間を切っており、息を切らして忙しなく動く侍女達の手は止まらない。サラはエミリアの隣に座ると、終始にこにこと笑みをこぼしながら変貌していく様子をじーっと見つめていた。


「わぁー!エミリアお姉様、素敵です。やっぱりお姉様はこの国一番の美女ですわ。」

「そんな大袈裟な。こんな黒いドレスに、悪魔の女よ、美女だなんて、滅相もない。サラは目が悪くなったんじゃないの。どこからどう見ても悪女にしか見えないわ。」

「あら、そんなことはないわよ。ほんと、アリアナ様に似てお綺麗ですわ。

 ………どうしても夢は叶わないものなのね。また遠くに行ってしまうだなんて、心配だわ………もう危険な仕事はやめて欲しいのに。」


 エミリアの姿を遠くから眺めていたスランダード侯爵夫人セルフィーヌの目には涙が浮かぶ。アリアナが亡くなった後、姪を気にかけて優しく見守り続けてきた叔母は、もはや娘同然のエミリアが遠く離れていくような気がして寂しさと不安が込み上げる。思わず不安を呟くセルフィーヌは、片手で目を覆い隠して俯きながら涙を流すのであった。そんな妻の姿に夫はすかさず肩を抱き寄せて優しく慰めていたが、シモンズの目にも薄らと涙が浮かぶ。姉アリアナの姿と重なり込み上げるものがあった。


(私はまた、ただ指を咥えて見てれば良いのだろうか。でも今更どうしたら良いんだ。ああ。)


 不運を嘆くシモンズは、母モネと姉アリアナの報われない想いを蘇らせる。

 愛してやまないエスバーンを忘れられず、帰還する日を夢見た母モネは仲間を庇いこの世を去る。

 姉アリアナとクライシスは誰が見ても相思相愛でありながらも、互いに抱いだ感情は永遠に伏せたまま、姉は帰らぬ人となってしまう。

 すべては“青色の瞳”を悪魔の象徴としたロズウェル国が、青い瞳とミラウェイ一族を同等に捉えて排除し続けたからであった。けれどそんなを因襲を抗うかの如く、神は幾度となく王族と青い瞳の女性を運命的に出逢わせる。純粋に惹かれて愛し合う男女は、神が仕組んだ悪戯な運命に翻弄され続けた。禍根を絶った今なら、神から与えられた奇跡の出逢いとして、叶わない恋を叶えても良いのではないかと、シモンズはそう思わずにはいられなかった。



 ライオネルをひと目見るために、綺麗に着飾るエミリアはユニタスカ王国ライラ女王陛下から贈られたドレスを身に纏う。

 もとはスカイブルーの青い布地に赤い花の刺繍が施された、ごく普通のドレスではあるが、ライオネルには鮮烈な記憶として残るドレスであった。ライラの母カミラが、王子の心を蝕む目的で作らせた代物であり、エミリアがベル商会調査任務の日、どうしても捨てるに捨てられなかった因縁のドレスに袖を通して、ライオネルの部屋を訪れたライラ。見たくも触れたくもないドレスを身に纏った理由は、エミリアの命の危機を一刻も早くライオネルに報せるためであった。最新鋭の武器と多量の毒薬を惜しみなく使用するベアルクス侯爵の卑劣な行為に、不安がよぎるライラは咄嗟の行動に出たのであった。



 ライラから贈られたドレスは、デザインはほとんど変えず、色彩と生地を変えて作られていた。自由に羽ばたくエミリアへの“はなむけ”として贈られたドレスには、未だに過去の呪縛に囚われて苦しみ葛藤して生きているエミリアを解放したい想いと、サディアブルとミラウェイを融合する意味を込めていた。ライラは、ある日を境に青を身に付けないエミリアのジンクスを破ろうとしていたのだ。

 黒いレースの生地を基調としたドレスは、スカート部分に小さな青い花の刺繍が施されており、上品で落ち着いた大人な雰囲気ではあるが、それがまたエミリアの洗練された美貌を引き立てていた。長いブロンドヘアはアレンジされて、普段はまったくしない化粧が施される。支度が終えると、いつも通りに真っ黒な外套を羽織り目深にフードを被る。


「行って参ります。侯爵家の皆さん、ご協力していただき本当にありがとうございます。」


 深くお辞儀をして感謝を伝えるエミリアは、ドレス姿なのにも拘らず俊敏に動き、瞬く間にスランダード侯爵邸から姿を消すのであった。


いつも読んでいただき、本当にありがとうございます。明日も投稿しますので、よろしくお願い致します。

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