1.王太子救出
初めて小説を投稿させて頂きます。小説を書く事自体も初めてですので、誤字・脱字・表現方法や文章の構成がおかしい等、読み苦しい事が沢山あると思います。どうか優しい目で、読んで頂けたら幸いです。毎日投稿は難しいかもしれませんが、完結出来るように頑張ります。よろしくお願い致します。
諜報員の女性は、計画通り建物内に侵入していた。
ターゲットに接近を図る為、所定の場所に移動して身を潜めていると、不意に背後から視線を感じる。咄嗟に身構えて、後ろを振り返った瞬間、目の前に一人の男性が身を潜めていた。
目と目が合い、見覚えのある顔に驚く男女は、思わず同時に声が出てしまう。
「「え⁈」」
(しまった。まずい。)
失態に気づいた時には、もう既に手遅れであった。建物内は、あっという間に騒々しくなり足音が彼方此方から聞こえてくる。
今ここで包囲されたら一貫の終わりである。
一刻の猶予も許されない事態に、選択の余地はなかった。
ざっと周囲を見渡す女性は、目の前にいる男性に「目を閉じて、行きますよ。」と、耳元に小声で囁いた瞬間、男性を抱きかかえて、ニ階の建物内を縦横無尽に走り抜けた。そして、勢い良く窓ガラスを突き破り地面に着地すると、待機していた馬に乗せるや否や「目的地まで、大至急!」と言い放った。
馬と待機していた侍女のラナは、予想外の事態に口をあんぐりと開けて呆然としていたが、説明する余裕なんてなかった。女性は、目で合図して心の中で祈る。
(お願い‼︎ラナ、頼むわよ。傷一つつけずに送り届けて。後で報酬は上乗せするから。もう時間がないの!早く逃げて‼︎)
「はっ‼︎」
侍女のラナは、瞬きをニ回して合図する。
(ふぅー、伝わったようね。さあ、ここからが勝負よ。)
女性は、先ず一息ついて息を整えた後、未だ予断を許さない状況に、瞬時に臨戦態勢をとる。
ラナは、急いで男性に外套を被せると、「行きます!しっかり捕まって下さい‼︎」と威勢よく掛け声をかけ、手綱を強く引いた。
馬が走り出した瞬間、建物から狙撃されて激しい銃撃戦が繰り広げられる。たが、寸前で回避したラナは、馬を走らせこの場から去って行った。女性の目には、もう馬の姿はほとんど見えなくなっていた。
(ふぅー、間に合った……。全くどういう事よ‼︎もう!何でここにあいつがいるのよ‼︎)
女性は怒り心頭であるが、感情に左右されてはいけない。
「ふふふ……。狡猾な方法でいくわよ。」
不敵な笑みを浮かべる女性は、帽子を目深に被り直して、再び続々と撃たれる銃弾をしなやかな動きで回避しながら、建物内へと戻って行った。
男性は、一瞬垣間見えた銃撃戦が衝撃的で、言葉を失い呆然としていたが、はっと我に返るとラナの腕を掴みながら、興奮さめやらぬ口調で、意気揚々と話し出した。
(え⁈ これが王子?まじか……。はぁー、お嬢ご苦労さん。)
ラナは、直ぐに男性が王太子殿下であると気づいたが、物怖じしない態度に唖然としてしまい、掛ける言葉も出なかった。
男性は、ロズウェル国第一王太子ライオネルである。
決死の覚悟で間一髪の所、救出に成功したが、まず普段の任務でここまで危機迫ることは滅多に起きない。ライオネルの不可解な行動により、計画が錯乱したのは確かであった。直接、本人に理由を問い質したい衝動に駆られたが、規定違反になる為、ラナは任務に集中して気を紛らそうとする。
一先ず、主人の命令に従い、あの場から死守できた事にラナは安堵していた。
漸く安全圏内に入った為、馬の走る速度を徐々に緩めていく。しかし、油断はできない。隈なく周囲を警戒しながら、目的地まで馬を走らせていた。ラナはいつも通り冷静沈着に、淡々と任務を遂行していた。
一方でライオネルはというと、変わらず熱弁を振るっていた。流石に高貴な方の話を無視できないので、とりあえず相槌を打って何となく誤魔化していたが、次第にあまりにも話が長く、興味もない難しい内容に、段々と聞いている方が疲れていた。ラナは、終いに相槌を打つのをやめて、代わりに溜息ばかり吐いていた。
順調に馬を走らせて目的地の王宮に向かっている途中、遥か遠くの建物から点滅信号が見えた。
(グランド公爵邸に帰還の合図ね。はいはい。旦那様に気付かれたようね。それもそうか。)
人並み外れた動体視力で、瞬時に点滅信号を解読するラナは、ライオネルに目的地の変更を報告する。
「王宮ではなく、グランド公爵邸に向かいます。」
ラナは馬の手綱を引いて方向転換をしていた。すると案の定、ライオネルがラナに疑問を訊ねてきた
「え⁈ 王宮?はぁー。やはり、バレてたか……。何故、公爵邸に?」
「グランド公爵閣下からの指示です。宜しいでしょうか。」
「いつ指示が?」
「先程です。」
「え⁈」
「伝達方法は守秘義務によりお答え出来かねます。ご了承下さい。」
「あ、はい、わかりました。」
事務的な対応に首を垂れて、いかにもしょんぼりしているが、無論慰める必要はないので、ラナは指示通り、王都の公爵本邸まで馬を走らせた。
暫くして、お城の様な門に到着する。
ラナが門番に帰還の挨拶を交わすと、重厚感ある扉がゆっくりと開いた。
遠くから背の低い中年の男性が小刻みに走って来るのが見えた。馬の近くまで来ると、深々とお辞儀をして挨拶が始まる。
「グランド公爵家執事のスミスと申します。本日は、急なお呼びたて致しましたことを深くお詫び申し上げます。では、早速ですがご案内致します。」
執事のスミスは、体が背後に倒れんばかりに懸命に体を反らし、こちらを見上げていた。その首がなんとも辛そうだが、先程まで走って来たとは感じさせない流暢な挨拶と美しい身のこなしに、執事としての彼の秀逸な才覚が存分に窺える。
ラナがライオネルを抱えて馬から降ろすと、スミスが館の方へと案内して行く。
ラナは厩舎に馬を連れて行こうと別方向を歩いていたが、ふと聞こえてくる二人の会話に、無意識に聞き耳を立てていた。
ライオネルは歩きながら、纏っていた外套を器用に脱ぐと、執事のスミスに朗らかな声で話し掛けていた。
「スミスおじじ、久しぶりだね。元気にしてた?いやぁー、また一段と小さくなったね。」
「お久しぶりでございます、殿下。久々にその愛称で呼ばれましたので、私は嬉しくなりました。暫く見ないうちに殿下は本当にご立派になられました。」
「・・・?」
ラナは、無意識に首を傾げたまま立ち止まってしまう。
(一体どういう事だ?知り合いか?スミスさんが?殿下と?スミスおじじ⁇)
頭の中が混乱していた。二人の会話が頭の中で何度も何度も反芻する。
そんなラナの不審な動きに反応したライオネルは、いきなり声を掛ける。
「おい!そこの下僕、どうした?」
「え⁈」
混乱状態の中、不意打ちに予想外な言葉を言われたラナは、無意識にライオネルの方へと振り返ってしまう。振り返った先には、眉目秀麗な男性が自分を見つめて微笑んでいた。
髪は白に近い金色で短髪、前髪は少し長く、風で靡いていた。瞳は透明感の強い、澄んだ琥珀色をしており、日の光で眩いほどに輝いていた。
すらっとした高い背丈ではあるが、しなやかな筋肉がついており、骨格と筋肉のバランスが丁度良い感じである。
先程まで馬に一緒に乗っていたので、体型は大体想像がつくが、容貌風姿は任務に集中していた事もあり観察する余裕はなかった。
(え⁈ いつから私が男だと気づいていたの。え?すごーい‼︎こんなにも早く気づかれるのは初めてよ。それにしても………きゃあー‼︎ なんて綺麗なお顔なの。そんなに見つめられたら勘違いしちゃうわ。さっきまで一緒に居たのに全然気付かなかったわ。………そういえば私、腰回りを触っていたわよね。わぁーどうしましょう。ドキドキしちゃう!)
ラナは、胸の高鳴りが落ち着かない。頬も赤く染まり、ニヤニヤが止まらなかった。
知らぬ間に、ライオネルの前で醜態を晒していたラナは、ハッと我に返った時には、もう既に手遅れであった。
「最初から知ってたよ。君、男だろ。それよりもお前、男の癖になんて顔してるんだ。」
ライオネルは冷めた目で、ラナをじーっと見つめていた。
「失礼しました‼︎」
慌てて敬礼をしたが、心臓は早鐘を打ち、顔は更に真っ赤に染まっていた。ラナは居た堪れなくなり、その場から一目散に厩舎へ駆け出して行った。
一部始終を見ていたスミスは、すかさずライオネルに謝罪を述べて、深々と頭を下げる。
「御無礼をお許し下さい殿下。最近入ったばかりで、躾が行き届いておりません。殿下のご寛大なご配慮に感謝致します。」
「くっくっ………いやいや、こちらこそ彼に助けてもらった身だ。少し揶揄い過ぎてしまい申し訳ないことをした。後で謝っておいてくれ。」
ライオネルは、口元を手で押さえながら必死に笑いを堪えていた。その姿に幼き日を思い出すスミスは、目頭が熱くなる。
「畏まりました。」とライオネルに応対するスミスは、温かい眼差しでライオネルを見つめて微笑んでいた。
(いや、いや、まだ心が荒んでいなくてほっとしましたよ。しかし、相変わらず鋭い洞察力、お見事です。)
スミスは今の一件で、一気に心が緩んでいた。
◇◇◇◇◇◇
スミスは、ライオネルをグランド公爵邸の庭を通り館まで案内することにしていた。
実は、旦那様に時間稼ぎをする様に仰せつかっていたからだ。
公爵邸の庭は手入れが隅々まで行き届いており、王宮の庭と引けを取らない素晴らしい庭園である。
ライオネルは急に立ち止まり、その場にしゃがみ込み何かを見つめていた。
そこには一面、スカイブルーのネモフィラが咲き乱れており、小さな花弁は風でしなやかに揺れていた。
「エミリアお嬢様が一番お好きなお花です。以前は白い花も混じっていたのですが、いつのまにか全部この色になってしまって………ここにいると、まるでエミリアお嬢様に見つめられている様です。
まあ、もう………花が綻ぶような笑顔を見ることは無いでしょうが………。」
優しい声色で呟いているスミスは、どことなく寂しい表情を浮かべていた。
ネモフィラは、グランド公爵夫人が好きな花であった。
彼女は公爵夫人の身分など気にせず、庭師と一緒に庭園を管理し、誰よりも花を愛してやまなかった。王宮の庭園にも、彼女が手入れしていた花々があったくらいだ。花のことになると時間は惜しまない程、丁寧に育てていたと王宮の庭師から話を聞いたことがある。
その中でも、ネモフィラは彼女の瞳を彷彿させる可愛らしい花で、また彼女の娘のエミリアも同じ瞳をしており、グランド公爵家にとってはなくてはならない花であった。
愛娘はいつも母親と一緒に庭園の仕事をしながら、花を愛し大切に育てていた。
「…………リア。」
ライオネルは、愛おしい声で女性の名を囁いていた。
ライオネルも、寂しい表情を浮かべていた。
1話目から、長文となっております。
長すぎると思うかもしれませんが、飽きずに読んで頂けたら幸いです。
よろしくお願い致します。