隣の席にいる銀髪ロシア美少女が時々愛の言葉をささやいてくるのだが、分かるのは俺だけです
小さな体にその大半が銀色の髪に包まれたお淑やかな少女、アリンさん。彼女が席替えで隣の席に座った時、片言の日本語で「ヨロシクネ」とその細やかな唇が動いた時、俺の心は跳ねていた。
俺、言塚瓜斗が高校に入学して、半年遅れの春がやってきた。
彼女は夏休みが終わった後に転入してきたのだが、どうにもこの学校の風習に慣れておらずに困惑していた。最初は転校生だからと珍しく皆が構っていたものの時間が過ぎると、旬が過ぎた鮨ネタを見るような目を向けてしまう。相当失礼なことはさておいて、俺は飽きず彼女の手伝いをした。
彼女が学校に慣れるまで場所の案内をしてあげた。同時に彼女は言葉なく、その冷たい手を俺に当てて感謝を伝えてくれた。もう、それだけで俺の体中が熱くなって心臓がはじけてしまいそうな気がしていたのだ。
そんな彼女は俺の隣で授業を受けている。途中、ロシアの民謡か何かのソングを口ずさんでいるものだから、コサックダンス的なものを踊りたくなってしまう。ただ、いかんいかんと我慢する。彼女に笑われてしまう。いや、笑った時の顔も可愛いから損はないかも、だ。
時に隣で他の人にはあまり聞こえないような声で何かを呟いている時がある。視線は前の方を見ているように思えるも黒目はこちら寄り。
何か伝えたいようと言うよりはからかっているようにも受け取れる、その小悪魔な笑い方。
分からないだろうと何か重要な言葉を放っているようで。
残念。
俺は中学の時からぼっちを克服しようと、色々な言語を学んできた。日本には俺と通ずるものはいないと、英語は勿論、中国からアジア圏内、ユーラシア大陸はだいたい「こんにちは」から「愛してる」位は把握している。そういった事情を露も知らない彼女。
こちらが聞こえないと思っている。
その「好きだよ!」を。
当然、そんなこと言ってもらえて冗談でも嬉しくない訳がない。俺がグーサインを出すと、彼女はニヤリ。そしてペコリと頭を下げる。
マジかよ……まさか、付き合えるってことか……と驚く俺は手からシャーペンを落とし、机から筆箱ごと落としてしまった。皆が注目し、教師は「何をしてる!」と怒っている中、そんなことが気にならない位にハッピーな俺。
さて、問題。上は洪水、下は大火事。これなーんだ?
普通は風呂って言うと思うんだよね。
残念。
俺の置かれてる状況だ。俺の肌から滴り落ちる汗が大洪水。そして、吊るされた俺の下でパチパチ燃えている炎が大火事ということ。
「アリン、今すぐ降ろせえええええええええええええええ! 何してくれてんだぁ!? デートの途中でいきなり俺を殴ったと思えば、何をする気だっ!?」
目の前にいる彼女は炎に目を輝かせながら、俺に言った。
「あっ、暴れると落ちるよ。……だって、いいって言ってくれたじゃなぁい! 儀式に使っていー? って聞いたら、オッケーのサインを……くれたじゃーん!」
「えっ、あの単語、ロシア語で間違いなく好きだ! 愛してるってことじゃなかったか?」
「うん、ロシア語ではね。私が来たのは……ロシアじゃなくて、ロシアのちょっと上にあるルシアって孤島……だよ? ルシア語では生贄オッケーって意味だよ……?」
「えええええええええ!? ロシアじゃねえのかよ!? ちょっ! お助け!」
「オタスケ……これは、ルシア語でめちゃめちゃにしてって意味! いいのね!」
「違うからやめろおおおおおおおおおおおおおおお!」
異文化交流って難しいね。
でも、異文化交流って面白いね。