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学園生活 3

 期末試験が終わった。

燃え尽きたぜ。

なーんてことは言ってられない。

この後は夏休みがあるんだもん。


 久々に家に帰れるんだけど、グレダがうちに遊びにおいでよって言ってくれた。

嬉しい。

ともだちの家に遊びに行くって何ていい言葉かしら。



 ホント今までマジボッチちゃんだったから、友達と一緒に何かするってすごく楽しい。


そんなウキウキの私たちの前に試験結果が張り出された。

なんと一位は私、二位がグレダ、三位がフリードリヒそしてはるか下十位にニコラウス。


なんで入試のときに二位だったニコラウスがとんでもなく下がったかというと、試験期間中にもかかわらずニコラウスは実家に呼び出されていたのだ。

だから二科目くらい受けられていないので、その分下がったってわけ。


ついでに言えばどべはアルフレート。

こいつはこれでクラス転落だ。

やったぜ。



でも、私たち二人は手を取り合って踊りながら喜んでいたら、マナー教師のキースリング先生に怒られた。

てへへ。


「ヘルトリングさん。クロージングさん。御話があります、一緒に来ていただけませんか」

ニコラウス=フォン=ヴィスターヴが喜んでいる私たちに怖い顔で言った。

そんな怖い顔で言われてついて行く女の子なんていないと思うよ。


「ヴィスターヴさん、お話って何でしょうか?私たちは何の用もないので、一緒に行くことはできません。ここではできないのですか?」

「ちょっと人目を気にしたいお話なんです、できればご一緒に来てください」

話にならん。

なんで親しくもない男とどこかに行かねばならんのよ?

にらみ合っているうちに誰かが呼んだのか学園長がやってきた。


「ヴィスターヴ、女生徒を個人的に呼び出すのはマナー的に問題があります。お話があるのなら園長室を提供しますから、いらっしゃい」


 と言うわけで園長室のふかふかのソファに私とグレダが座っていて、テーブルをはさんで向かい側にニコラウスが座った。

お誕生日席は学園長で、その後ろにトレーニングルーム受付のオットーさんが立っている。

立ち位置的にオットーさんは護衛みたいな感じだろうか。


 ところでこのソファどこ産だろう?

うちでも欲しいなぁ。

すりすりしたくなるような肌触り、すばらしい。




「それでお話って何ですか?」

心情的にはファイティングポーズを取ってやんのかこらぁって感じ。



「ヘルトリングさんとクロージングさんはどこの国のスパイなんですか?」



は?

スパイ?

何言ってんのこいつって思った私は悪くないと思うの。



「ヴィスターヴさん、頭大丈夫ですか?」

とっさに返した私は悪くないと思うの。



「ヴィスターヴ、何を根拠にこの二人にそんな疑念を持ったのでしょうか?」

流石学園長。丁寧な言い方だけど、言葉の裏にあんたバカなのって感情が乗っているでしょう?




「春に入学して四カ月。この間にヘルトリングさんとクロージングさんに関わったばかりに、ヘンリック殿下とベルトハルトが失脚しました。あなたたち二人はどこの国の意を受けているのですか?」

失脚ぅ?そんなん私は関わってないですよ。



「どこの国の意も受けていませんし、私たちはただの女子学生です。特別科を卒業すれば実家に帰って領主の後継となるべくいま勉強しています。ヴィスターヴさんは何をもってそんな風に思ったのでしょうか?」

「試験前にお前たち二人の所為で殿下は休学させられて、ベルトハルトは家を出されて国境線に飛ばされた。お前たちが何かしたんだろう?」



何急にいきってやがるんだよ。


「ヘンリック殿下の件は学園長が詳しいと思いますし、そのベルトハルトと言う人は知りません」

私はそうに言って学園長を見た。

丸投げですいません。


「ヴィスターヴ、ヘンリック殿下は学園のルールを破った。だから、ヘンリック殿下の保護者に連絡した。その結果まだ学園に通うに値しないと言うことになったのだ。この二人は関係ない。

それとベルトハルトはヴィスターヴとどんな関係があるのだ?」


「ベルトハルトは私の従兄弟です。優秀で兄のように思っていました。先日近衛から格下げになり国境線に飛ばされたんです。そのベルトハルトがなぜ急にそんなことになったのかと、先日試験期間中にもかかわらず家から呼び出されて、問い詰められました。私は何が何だかわからないと話しましたけれど、殿下の護衛でもあるし、学園の中でのことが原因だと父は言うので、周りに聞けばこの二人に陥れられたと聞かされました」

あのトレーニングルームのときの護衛の誰かのことかぁ。



「つまりは試験期間中にもかかわらず家から呼び出されて、その結果試験を二科目受けられなかったのに、私たちは全科目きちんと受けられて、成績も一位と二位となったと?私たちが良い成績を取るために自分たちを陥れたと言いたいのですか?」


「そうだ。そうでなければ、殿下と俺は入学試験では一位と二位だったんだから、こんなのおかしいだろ」



私とグレダはうんざりした目で学園長を見た。

学園長は頭を抱えているし、後ろに立つオットーさんは┐(´∀`)┌ヤレヤレとかやってるし。

いいのかそれで、教育者よ。


「ヴィスターヴ、君は勘違いをしている。殿下が学園に通うに値しないと王太子殿下ご夫妻が思われるに至った事件があったのだ。

この二人はその被害者たちだ。ベルトハルトは立場を勘違いしていた。それを矯正するために国境線に飛ばされたのだろうと思う」


「だからなぜなんですか?」

だからさぁ、言えない事情があるって言ってるのに、なんでそうに熱り立つ(いきりたつ)かなぁ?

「それは君には関係のない話だ」


「それならなぜ俺は呼びだされて、成績を落とすようなことになったのですか?」


「それは君の家の問題でこの二人には関係ないことだ」


「なんでだよ?なんでなんだよ?俺だって一生懸命勉強してきたのに」


「だったらそうに言えばよかったんじゃないの?」

私はすらっと口から出た言葉に自分で驚いた。


「え?」


「だから、試験期間中だから、試験が終わったら家に戻りますって言えばよかったんじゃないの?」


なんでみんなこんなに素直って言うかバカなんだろう。

試験が大事だって思っているなら、例え親からの呼び出しだろうと、後回しにしてもらえばいいじゃん。

なんかニコラウスの家って家族関係が悪いのかなぁ。


「だって親からの呼び出しだぞ。すぐに来いって言われたら、行くしかないじゃないか」

「本当に?」

「え?」

「だって学園の試験期間って親だって知ってるよね?例えば誰かが危篤で今すぐ来ないと死に目に会えないとか、親戚の誰かが亡くなってお葬式があるとかだったら仕方ないけど、呼び出しでしょう?

試験が終わったら行きますじゃダメなの?」


魂抜けたような顔でニコラウスは茫然としていた。


「そうだな。ヘルトリングの言うように、交渉してみる必要はあっただろうな」

「親からの呼び出しだからって、勝手に試験休んで行って何にも知らなくて怒られて、その上に成績落とすってヴィスターヴさんはバカなの?」

どすっとわき腹に肘鉄が入った。

犯人はグレダだ。

「いた」

「言い過ぎ」

「はい、ごめんなさい」




「私は別に一番を取ることに固執しているわけじゃないです。ただ将来きちんと領治をするつもりなので学園で学べることはひとつ残らず勉強して持って帰りたいと思っています。それがこの首都から遠く離れた領地から送りだしてくれた家族と領民のためになると思っているからです」

そう、お金かかるのよ。

学費も寮費も文房具のお金だってかかる。

そのお金はどこから出てくるの?

領民の皆さんの治めてくれている税金や荘園の皆が働いてくれたお金なのよ。

だったら一円だって無駄にできないじゃない。


「ヴィスターヴさんはどうしてこの学園に入ってきて、何を学ぶつもりだったんですか?」


「俺はお前たちと違って領地を持たない家だから、いずれは王宮に仕官するつもりだった。そのために勉強して良い成績を取って殿下にゴマ擦ってたんだ」



殿下にゴマ擦ってたんか~い。


「それなのに、殿下は居なくなるし、ベルトハルトは飛ばされるし。俺の家の評判はがた落ちだ。こんなんじゃ王宮に仕官したところで日陰の道を歩くことになる」


「だったら、別のことを考えたらいかがですか?」

グレダが言った。

「王宮に仕官するだけが生きていく方法じゃないですよね?別に商人になってもいいだろうし、どこかの家で働いてもいいですよね?」

「は?宰相家の長男である俺が庶民のようにへりくだって物を売ったりどこかの家に仕えろというのか?お前俺をバカにしているのか?」



「そういう身分を笠に着る立場じゃないでしょうに。それに宰相家と言うけれど、頑張っているのはお父さんですよね?ヴィスターヴさんが偉いわけじゃないでしょ」


ニコラウスは、再びショックと言う顔で黙り込んだ。



何なんだこの学校の男どもは。

偉いのは親だ。

親が一生懸命仕事をして頑張ってくれているから、いい生活ができているんだろうが。



「ヴィスターヴさんは何か一つでも自分でやれることがあるんですか?勉強以外に何か得意なことととか?」

「お前にはあるのかよ?」

「私ですか?私はありますよ。園長先生、この間の私の数学の試験の結果出して頂くことはできますか?」

「ああ」

と言ってオットーさんに私の成績を取りに行くように言った。


「ついでに私の分もお願いできますか?」

グレダが言った。



「なんだよ、自分の成績を自慢するのかよ」

なんつうお子様だ。

いや私たちまだ15歳か。

前世で言えば中学三年生か高校一年生くらいか。

だったらお子様だな。


少したってオットーさんが私たちの成績表と答案を持って来た。



「見てください。私数学と統計学満点なんです。一生懸命勉強しました。領治のためにです。

うちの領地は漁業と農業と観光で収入を得ています。税金の計算も必要ですし、前年比も出さねばなりません。収入が増えたらなぜ増えたのか、増えた分をどこに使うか、それとも災害対策のために積んでおくかとか、減っていたらなぜ減ったのか、減った分はどうしたら戻せるか、または別の手段でお金を稼ぐかと考えます。

正直本当にお金の計算ばかりなんですけれど、そのお金の使い方は領民のためになるのかとかを、この学園で学んでいるところです」


次いでグレダが言う。

「私は今まで庶民でしたけれど、この度縁あって伯父の男爵の後継者として養子縁組しました。うちの男爵領は、基本農業で成り立っています。でも農業だけでは天候に左右されるのでそれ以外の天候に左右されない産業を作りたいと思っています。アニエスの領地では幼年学校があるらしくその方法で領民が学ぶことができるというので、それを教えてもらっています。そのために私は数学と社会経済に力を入れて勉強しました。アニエスが産業を作り出すなら、きっと何か得意な子供や大人が居るからそれを探し出せと言われました。農作業だけでなく他のことができる余裕を生み出すためには、うちの領地の農産物をブランド化することも必要ですし、またうちの領地には山がありますからその山の木材を使って何か産業化できたらいいなと思ってこの学園で勉強しています」



学園長がほうっという顔で私たちを見た。

無駄に学園に来ているわけじゃないのよ。

きちんと将来を見据えているの。



「俺は今までそんなこと考えたこともなかった。そんなこと誰も教えてくれなかった」

ホントにお子様だなぁ。

「だったら今から考えればいいんじゃないの?私たちまだ入学したばかりなんだし、まだあと二年半はこの学園に通うんだから、その間にもっと勉強したり、他の領地の人から話を聞いたり、あんたんちは宰相なんかやってるんだから情報は入って来るだろうからやりやすいんじゃないのかな」


「ヴィスターヴさんはもう終わりじゃないですよね?まだこれからなんだってできるし、なんだってやれると思います。アニエスの言い分じゃないですけれど、これからのために学園で学ぶことができるって本当に恵まれているんだと思います」


私たちの話を聞いてニコラウスはソファに崩れ落ちて泣き出した。

いい年した男が泣くなよって思うけれど、泣くほどのことなのかもしれないなぁ。



じっとりとした目でニコラウスを見ていたら、学園長がそっと手で私たちにシッシッと払った。

私たちは無理やり呼びつけられここに来たのに、追い払うようなまねはヤメテよぉ。


オットーさんがスッと私たちの横に立ち、素早くエスコートするように園長室から出された。





「なんなのあの子?」

「うん、男の子の思春期って面倒だねぇ」

「グレダはなんか経験あるみたいな言い方だねぇ」

「うちの次兄がさ、まじおかしい時があったのよ」

「おかしい時?」

「そう、俺は暗黒剣の宿主で、この世界の悪と戦うとか言ってってさ。可笑しいったらなかったわよ」



あぁそれは日本で言う所の中二病ってやつかぁ。

異世界にもあるんだなぁ。

うちの弟にも来たらどうしよう?

おねーさんはこわいわぁ。









 それから夏休みに入ったので、私たちは知らなかったけれど、ニコラウスは心を入れ替えたようでしっかりとまじめに勉強したり、なぜか急にフリードリヒのところに顔を出して泊って行ったりしたらしい。

男の子ってよくわからん。



 てかさ、グレダのロマンスはどこに行ったのだ?

仕事しろよ、ヒロイン。

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