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学園生活 2

 私はきっちり家に連絡をして、オイレンブルグのバカの動向を確認して厳重抗議を行った。

そのうえ、これ以上勝手なことを言うなら、名誉棄損で訴えるし、去年貸し付けた援助金その他を一括返済してもらうと、父様が通告したらしい。

やればできるじゃん。

父様大好き。




そして、なんと驚いたことに一時的にせよ、あのバカが家に戻らされたらしい。

しばらく見てないなぁと思っていたら、謹慎中だと聞いた。

どおりで最近教室が静かで勉強がはかどるなぁと思ってたぜ。


 それからもう一人、やたらと静かに勉強をしている男がいる。

あの美々しいイケボのフリードリヒ=フォン=ホーエンハイムだ。

身分が下の男爵家の後継者から、あんたの売りは見た目だけかよと言われたも同然なのだから、中身を底上げする方向に向かったのは良いことだと思う。

 もともと入り婿なんかしなくても、領地は広大だし、爵位だっていくつか持っているんだから、分家方向に行けばいいと思うんだよね。


大体何のために学園に来て勉強しているのさと思う。


 入り婿狙いなら、騎士科でも行って身体を鍛えてどこかのお嬢後継者をたぶらかした方がなんぼかましだろうよと思う。

せっかく勉強できる場にいるんだから、勉強しろよって私たちは思っている。



ところでここはロマンスゲームだったはずなんだけど、全然ロマンスが始まらない。

なぜだ?


 ヒロインが恋愛しないのがいけないんじゃないかなぁ。

グレダはずっと私に引っ付いているんだよ。

ゲーム初期って校内をあちこち歩いて、攻略対象と切っ掛けつくりや好感度を上げるために頑張って居るんじゃないのかな?

なのに私と一緒に勉強と体力向上のための鍛錬ばかりしている。

それに攻略対象の一人とは決裂しているしねぇ?



「ねぇグレダ」

「なぁにアニエス?」

「あなた好きな人とかいないの?」

「今は居ないわ」

「フリードリヒに言ったみたいに、卒業を待つの?」

「今は同じクラスの人しか知らないけれど、上級生とかこれから入って来る下級生とかに好みの男の子がいなければそうなるわね」

「家族から結婚しろって言われていないの?」

「うーん、できたらしてくれると嬉しいけれど、無理ならいいかなってカンジ?」

グレダはもともとが養女に入って居る所為か、直系の後継者は特別必要とは言われていないらしい。

二代続けての養子縁組って言うのも優秀な人材が確保できればいいのかもね。



「アニエスは?」

「あのバカの所為できっちりと誰かと結婚しろって言われている」

「あぁ、なるほどね」



グレダがベンチプレスをしながら言った。

「一人でいたら、俺を待っているんだろとか絶対言いそうだもんね」

「言う言う、絶対言う。それも偉そうに言うわよ」

私もレッグエクステンションで足を鍛えながら言った。



「そういう所は懲りていないわよね。オイレンブルグさんでしょ」

「私が求めているのは私の邪魔をしないお婿さんなのよね。お婿さんが持参金とそこそこの商才があると良いんだけど」

「ヴィスターヴさんはどうなの?」

「彼は仕官するんじゃないかって思うのよね」

「あぁお父様がそうだものね」

「いい男っていないわねぇ」

私はため息を吐きながら言った。


予約したトレーニングルームで二人で身体を動かしながら話していたら、突然扉があいた。


あれ?鍵かけていたはずなのに?



「なぜ人がいるのだ?」

入ってきたのは王太子殿下の第三王子のヘンリックとその護衛三人だった。

「お言葉ですが、私たちの予約時間だと思います」

横目で時計を確認したから間違いない。

「私はいつもこの時間この部屋を使っているのだが」

「それは知りませんでしたけれど、受付で確認なさいましたか?」


トレーニングルームは一つの棟になっていて、入り口に受付がある。

そして、トレーニングルームは個室状態が5つ、大きなルームが一つあるのだ。

ここ大事なのでもう一度言う。個室は5つあるんだよ。

私たちは女の子二人なので、何かあった時にすぐ声が聞こえるようにと係員さんが受付に一番近いルームを宛がってくれたのだ。



トレーニングルームは係員さんに申し出て、使用時間を指定して使える仕組みだ。

大体いつも使っているからなんだって言うんだ?


「鍵をかけていたはずですが、どうやって開けたんですか?」

「私はここをいつも使っているのでカギを持っている」

「それは生徒規約に反するのではありませんか?」



「受付で予約を確認してください。それで私たちが優先だったら謝ってください」

「え?王族の私がお前たちに謝るのか?」

「学園内ではみな平等という触れ込みです。王族だろうと女子のトレーニング中にわざわざカギを開けて入室して、謝罪もないなんて許されることではありません」

ヘンリックの言い方にカチンときた私は、グレダを後ろにかばって言い張った。


「おい、誰か確認して来い」

ヘンリックは護衛に向かって言い放ったので、一番後ろにいた護衛が走って出て行った。



しばらくしたのち、バタバタと複数の足音が駆け込んできた。




護衛と受付の係員、それになぜか学園長まで来たぞ。



「殿下、女子のトレーニング中に狼藉を働いたとは本当のことですか?」

「ろうぜきぃ?」

殿下がありえないって顔で言った。


「はい学園長、私は特別科一年の、アニエス=ヘルトリングです。こちらはグレダ=クロージング。私たちはこの時間このトレーニングルームの予約をしていました。そして、カギをかけていたのに、殿下はカギをお持ちで、カギを開けて突然入室してきてなんでいるんだっておっしゃいました」

鍵のところは何度も強調して言ってみた。


「殿下、なぜ学園の施設のカギを個人でお持ちなんですか?」

「いや、いつもここを使うからどうせならカギを持っていた方が便利かなと思って」

「誰にカギをもらいました?」

「何回か使った後に、護衛のベルンハルトがどうせ使うならカギ有った方が良いと言うから」

「あ、殿下。なに私の所為にしているのですか。殿下がカギを借りに行くのが面倒だから、お前複製しておけって言ったんじゃありませんか」

「ちょお前、王族に向かって不敬だぞ」

殿下が焦ったように言い放つ。


「殿下、それはどちらが本当のことを言っているのですか?」

学園長が怒声交じりに言うとヘンリックは黙り込んだ。

多分護衛の言うことが正しいのだろう。



「それよりも、こいつらがここを使っているのが問題だろう?」

「だからなぜですか?ヘンリック殿下、私とグレダはきちんと予約しています」


学園長が施設係員に確認をしている。

予約シートにはこの時間は、私たちの予約が入っていると書き込んであった。


「殿下、この予約シートには殿下の予約は入っておりません」

「今まではずっとこの部屋はこの時間俺が使っていたんだ。だから今更予約なんかしなくても開いていると思っていたんだ」

「殿下、なぜトレーニングルームを使うのに予約が必要なのかわかっていますか?」

殿下は答えない。

「トレーニングルームで万が一怪我とか事故が起こった場合、すぐに係員が駆けつけるためです。

どれだけ十分に注意をしていても事故や怪我は起こるときには起こってしまうものです。

それをできるだけ最小限の被害で済ませるために、学園内の施設には担当員を置いてだれがいつどこで使ったかを管理しているのです。なのに今まで無断で使っていたことが問題です」

学園長は怒りを押し殺すように、諭すように殿下に言った。

なのに殿下はまた黙り込んだままだ。




「殿下先ほど言ったように、私とグレダに謝罪を要求します」

「悪かったな」

「殿下それは謝罪ではありません」

おざなりな謝罪で一番怒ったのは学園長だった。




「殿下の行いは、王宮に連絡させていただきます。学園の施設のカギを個人で勝手に作って使った事、今まで予約もせずに勝手に施設を使っていたこと、女子のトレーニング中に勝手にカギを開けて狼藉を働きその上謝罪一つできないこと。これで王族だからというのは、王宮の教育に問題があると言うことです。今後王族の学園入りの際は厳しくなると理解しなさい」


「なんでだよ?俺と他の家族は関係ないだろう?」

「あります。まずきちんとしつけされていない傍若無人なケダモノに教育はできません。なぜこの学園に入るのは15歳からなのかわかりますか?」

「大人になる前に見識を広めて人脈を作るってことなんだろうが?」

「違います。まずは家庭できちんと人としてのしつけをしてから来るようにという事です。躾を行われた大人として認められる人間に、いいですかに・ん・げ・んに教育を施すのです。ケダモノに教育は無駄です。

そこの駄護衛このバカ殿下を連れて行きなさい」


「たかが学園長のくせに何を言う。不敬だぞ」


「殿下、私の立場をお忘れですか?」



「私は先代の国王陛下の末の弟です。これでも王族の一端を担っておりますよ」

ヘンリック殿下にすごい物言いだと思っていたけれど、学園長も王族だったのかよ。

知らなかったぜ。


駄護衛と呼ばれた三人が、学園長の指示に従い、殿下を抱えてトレーニングルームから出て行った。



「ヘルトリングとクロージングの二人には私から謝罪を申し上げます。怖かったでしょう?

無駄にデカい男が四人も突然入ってきたら、女の子二人では怖いですよね。大体何のために使用中のルームのカギをかけるように言っているのかわかってないですね、あのバカどもは」

グレダが私の前に出て言った。

「怖かったです。アニエスも震えていました。学園長、来てくださってありがとうございます」

震えてなんかいねぇよ!

ヒロインの特技ともいえる、あざと可愛さ全開で口元に両手を組みふるふると涙を浮かべていた。

あざとい、グレダあざといよ。


学園長はそれを見て、おーよしよしとグレダの頭を抱えてなでなでした。


グレダは全然怖がってなかったじゃん。


「今日はもう寮に戻りなさい。あのバカは王宮からしばらく出さないようにしますから、オットーこの二人の予約を取り直してあげてください、それが終わったら着替えた二人を寮まで送ってあげてくださいね」

「はい学園長。承りました」



二人できゃわきゃわとシャワーを浴びて、着替えた後、受付のオットーさんが再度予約をしてくれて寮まで送ってくれた。

個室の一番手前の部屋は、鍵の交換が済むまでは使えないという事なので、二つ目の部屋を取ってくれた。

その上お詫びとして五回分優先予約をしてくれたのだ。

試験前に集中して練習できることになったので、二人で大喜びをした。

通常は一人一回なのだ。


寮に戻って夕食を食べた後、ふと学園長が言っていた、当分王宮から出さないというのはどういう意味なんだろうと思った。




 翌日掲示板にヘンリック殿下は二週間の謹慎処分となったと張り出されていた。

おいおい、二週間と言ったら試験期間に突入じゃないのか?

大丈夫か殿下?






そしてその夜、私とグレダの部屋には抱えきれないバラの花束と高級そうなショコラの詰め合わせがお詫びとして王太子殿下ご夫妻から届けられた。

バカ殿下のせいで親は大変だなぁって思ったけど、ショコラは美味しかった。



 試験の前日に、フリードリヒがこそっと私たち二人に話してくれた。

どうやらヘンリック殿下は一度休学になって再教育となったらしい。

学園長が王太子殿下ご夫妻に向かってケダモノのしつけをするように言い含めたんだと。

ヘンリックはかなり厳しい家庭教師に付きっ切りでマナーとかマナーとかマナーとかを叩きこまれているらしいよ。

その合間に王族としての教育もあるようで、寝る時間も減らされているって言うけどホントかよ?

それからヘンリックについていた護衛三人は、近衛から降格されて、北の国境線に送られてたんだってさ。

護衛は確かに王族を守るものなのだけど、王族が悪いことをしたときはきちんと身体を張って止めないといけないらしい。もちろんそれで不敬とか言う王族が一番悪いのだけれど、一人が止めても他の二人が居るのだから、お手打ちにする前に王宮へ知らせろってことらしいよ。


なんか聞かなきゃよかったよ。








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