青碧の
ふと、雲を見た。
まだ子供だった頃、写真家気取りなのか、携帯のカメラでよく撮っていた雲と同じ、夕暮れで、太陽に向かって薄くオレンジがかった雲たち。
懐かしい匂いがした。植物の匂いと排気ガス。傍を通る車がその空気をかき混ぜていく。
ノスタルジーに浸っていた訳ではなかったが、言いようもない感情に、ふと、足を止めた。よくある空だ。よくある雲だ。何度も見てきた。ほんの数分しか見られない夏の空。それなのに、どこかで、見たような。切なさよりも深い、何かが、目の奥にあった。
あぁ、いや、そうだ。
昔、病気で寝込んでいた頃、熱に絆されながら見上げた、天窓の向こう側。
一面に広がる、青碧の海に泳ぐ雲。
今はもう届かない天窓の向こう側へ、あの時、確かにあの時、自分は、この海を泳いでいたのだった。