8.残骸がもたらす哀愁。
一通りの驚愕ののち、俺はゴブリンの死体を見て何とも言えない気持ちを抱えた。さっきまであんなにも生き生きと汚らしい悪臭と醜悪さで生命力を誇示していたのに。今、彼らの足や首などが、バラバラに静かに現代アートのように、そこに並べられていた。火柱に裂かれた断面は一瞬で焼け焦げたため、血も出ないようだった。
俺は流石にちょっと彼らを哀れに思った。
剣と魔法の世界で生きるというのはまあこういうことだ。そんなことわかってはいるけれど。
彼らも屠殺場で死ぬ仔牛達よりはマシな死に様だったろう。そんなことはわかりきっているけれど。
しかし、死に対して不感症でいることはまだ到底できそうもなかった。
そのうち蝿が遺骸に集まって来た。初めは2,3匹だったのがあっという間に数えきれない数になった。彼らはきっとこのゴブリンの死骸に無数の卵を産みつけているのだ。
蝿が死体に群がる様子を実際に見たのはその時が初めてだった。
時間が経つほど、生前の強烈な臭いがさらに強さを増すばかり。終いには、多少距離を置いているにもかかわらず、ささやかな風がおぞましい空気を俺の鼻腔に運ぶようになった。俺はそのうち耐えられず吐いてしまった。
俺とアヤメは何も言わずその場所を去った。