7.一陣の炎が全てを焼き焦がす。
結局のところ俺は覚悟を決めた。ゴブリンと戦って無様に死ぬ覚悟を。ワンチャン生き残れるかもと思っていないわけではなかったが、まあ、悪い可能性を念頭に置いた方が、後々後悔しないで済む。
しかし、どうやって攻撃したらいいんだ?相手は三匹いるぞ?一匹に殴りかかってもその間に横から二匹に襲われゲームセットな未来しか見えない。困ったな。そうだ、魔法とか使えないかな。ああでも「ファイア!」とか、呟いてみるのも恥ずかしいな…
あれこれうだうだしていると、流石にあっちの会話も一通り終わったらしく、3匹の化け物がこっちに襲いかかって来た。
彼らが近づくと途轍もない刺激臭が鼻を刺した。こいつら無茶苦茶くさい。そして、マジ怖い。
近くで見るゴブリンの顔は冷静にトラウマ級だ。体も所々膿んでいて、黄ばんだ液体が、体の節々からほとばしる。
「うわぁ、こっちくんなあぁ」
「キャー、近づけないで私を。こんなのに。」
俺とアヤメは慌てふためいた。
そして俺はまだ間合いに入ってもいないうちから闇雲にアヤメを振り回した。
「キャーーキャーー」
振る度アヤメの悲鳴が耳に痛い。
そしてその剣筋は空中を切るばかり。
ニヤニヤしながら、完全に舐めきって、ゆっくりと近づくゴブリンたち。
「いやだぁ、来るなぁ。許してくれぇ。」
尚も剣を振り回す俺。もうプライドなど残っていなかった。
と、ここで、指が何かに当たってカチッと剣から音がした。
「ぼわっ」
瞬間アヤメの切っ先から炎の柱が迸りでた。それは地平線まで一直線に伸びていく。
一瞬で切っ先の前にいたゴブリンの顔が灰になった。首を失った体がバランスを崩していく。
他の2匹は瞬間顔が凍りついた。しかしもう遅い。剣を横に薙ぐと他の2匹もこの世をおさらばした。一体は首と足を残して胴体を失い、もう一体は足しか残らなかった。
俺はびっくりして咄嗟に剣を離した。瞬間剣から伸びた火柱は消えた。剣は「ゴン」と鈍い音を立てて地面に転がった。
随分遠くで森が燃えているのが見える。無数の鳥の群れが、慌てて森の木々から空へ逃げていくのが遠目に見えた。
俺はぼけっとそれを眺めた。アヤメも言葉がでないようだ。
「うわぁ、これは、たまげたなぁ。」
鳥の騒めきがようやく収まってから、俺はそう小声で呟いた。