4.洞窟での奇跡的偶然
洞窟の中に入って狭い道を20mほど進むと、俺の兄のワンルームの手狭な部屋くらいの開けた空間に突き当たった。視界は暗いながら不思議と冴えていた。きっとこちらの世界では眼の作りが違うのだろう。中央に剣が一本刺さっていた。華美ではないが入り口から刺す光を滑らかに反射しているその様は、結構洗練されて見えた。
抜くか?抜かないか?、そりゃあ抜くに決まっていた。
思い切って剣を抜いた。
「おめでとう、あなたは最強の剣『アヤメ』を拾ったわ!」
その瞬間そんな女の声とファンファーレが鳴った。何だ、ステータス表示は無くても、ナレーションは入るのか?
随分ゲームっぽいじゃないか。
しかし、それにしては、声の抑揚が素人っぽいな。
「誰か、いるのか?」
俺は辺りを見回した。
「いやいや、違うって、そうじゃないわ、こっちよ!こっち!」
やっぱりナレーションではないらしい。
しかし、そうは言われても、どこで誰が話しかけているのか、さっぱりわからない。
俺はキョロキョロしつづけた。
「違うわよ。あなたの手元のその劍、最強の剣、『アヤメ』があんたに話しかけているのよ。」
そういうことらしかった。
「何だ、ここは剣が喋るような世界なのか。」
なるほどここは、少なくとも剣と魔法のファンタジー世界ではあるらしかった。
「その反応、あんた、もしかして、転生人?」
「ああそうだ。」
「嘘!?もしかして地球出身じゃないよね…」
「ああそうだ。」
「えぇ?まさかまさか、日本出身だったりしちゃう?」
「そうだとも。」
「じゃあじゃあ、もしかして、出身は埼玉だったり…」
「いや、俺は生まれも育ちも東京だ。」
「がーーん。」
「でもすっごい偶然!私も日本から転生してきたの。」
それは本当にすごい。異世界人の中でも日本人って確率何パーだ?だいたい、異世界って何個あるんだろうか。まあ日本って言っても本当に俺のいた日本と一緒の世界とは限らないわけだが。
「でも転生して剣になっちゃう事なんてあるんだな。」
「そうなの、聞いて聞いて、神様っていうのが本当にひどいやつだったの。私PCの某刀剣擬人化ゲームが大好きだから、転生するとき神様に『私、どうせ転生するなら、最強の剣になって、イケメンになって、カッコいい男たちに囲まれて、壁ドンされて、顎クイされて、《君は食べちゃいたいくらい可愛いなあ》とか言われちゃって、知らない間に男同士の友情をその美貌で壊しちゃってー☆…』って色々自分のお願いを言ってたのに、神様は『あーはいはい、剣ね、強くてカッコイイ剣になりたいのね』って、私の話も最後まで聞かずにー…。(ぐずっぐずっ)」
何か、面白い奴だということが判明した。
「(ぐずっぐずっ)本当にあいつ許せないわ。これなら元の私の姿の方が全然良かった。私これでも元はかなりの美少女だったのよ?自分で言うのもなんだけど。」
「それはかわいそうに、お前も大変だったな。確かに今のお前も美しいもんな、元の素材が良くなければこうは行かない。」
俺は社交辞令を述べた。異世界人同士仲良くしたかったし、神が強いって言ったのだから結構使える剣かもしれない。
「そうよ。それに、洞窟で刺さったままってどれだけ寂しいかわかる?何度も日が昇って落ちて、ずぅーと待っても誰も来てくれないの。ホント、私がなんでこんな目に合わなくちゃいけないの?」
「それは、辛かったな、俺が外に出してやるよ。同郷人の縁という奴だ。」
「ありがとう。正直それについては私、本当に嬉しいし、あなたに感謝したいの。私、あの隙間から僅かに刺す暖かい光を感じながらずっと夢見てたの。この光はどんな世界から差し込んで来るんだろうって、あの先にどんな世界が広がっているんだろうって。」
こうして我々は、右も左もわからぬこの世界で共に仲良くやって行こうと決めた。