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10.懐かしき人混みのにおい

 俺は、ゴブリン達を粉々にしてしまったあと、何も考えずぼーっと歩いていたのだが、その結果運良く道を発見し、壁に囲われた、街らしき場所へたどり着いた。

 しかし、どうやら街の入り口では検問をやっているようで、多くの人が列を作っている。

 そして、俺はここで初めて、この世界の人間達の姿を見たのだった。

 彼らは幸運にも身体的特徴という点で自分の世界の人間とあまり違わないように見える。このことに俺は若干安心した。もしも、この世界を統べる種族がさっきのゴブリン達であったらどうしようかと内心恐れていたのだ。一方、服装の違いは明らかで、現代人からすれば彼らの服装は、粗野で質素だった。大丈夫かな、思いっきり学ランとか着ちゃってるんだけど。


 自分と同様武器を携え筋肉の厚い冒険者や狩人風の者、大きな荷馬車に乗り、護衛を連れた商人、みすぼらしい服装の旅人、山菜をカゴに下げた女たちなど様々な人が列に並んでいる。


 俺が最後尾につくと、列で目の前に並んでいた、農家風の人たちが俺に話しかけてきた。

「こうも列が長いと、困っちゃいますねえ。」

「いつもはこうじゃないんですか?」俺が問い返す。

「いや、いつもも検問はあるけど、こんな厳重じゃあないよ。お兄さん東から旅で来てる人?」

「はあ、まあそんなもんです。」

「はあなるほど。服装も変だもんね。東じゃあ色々厳しいらしいけどね。こっちじゃ普通こんなことはないよ。何かあったのかなあ。」


 結局俺たちは2時間程度列に並び、ようやく、自分の番が来た。怪しまれないと良いけれど。


「次はお前だ、こっちに来い。」鎧をまとった男に呼ばれて前に立つ。


「お前身分証は持ってるか?」

「いえ、持っていません。魔物に襲われた拍子に無くしてしまって。」

「この街の人間か?」

「いえ、東の方から来ました。」

「ほう、ベディー地方かリュクサ地方かそれともクンディートか?」

「はあ、ええと、リュクサ地方です。」

「何、リュクサ?俺と同郷じゃあないか!同郷人に会うのは久しぶりだぜ。どこの街から来たんだ?」

「ええっと、クラヴィーから...」

「クラヴィー?なんだその街聞いたことがないな。どの辺にあるんだ?それにそんな服装は正直リュクサ地方のものではないと思うんだがな。」

 あれ、だんだん厳しくなってきたぞ。

「クラヴィーはですね...」


「検問中悪いんだが、ちょっといいか?」

 そこで、横から声がかかった。

 横に振り向けば、大剣を背負った冒険者風の若い男が立っていた。

「通るついでにちょっと調査の結果を報告したくてな。」

「いえ構いませんとも。ヒサジさん。」急に検問官が背筋を伸ばし態度を変えた。

「現場を点検した結果、魔力痕が見つかってね、それにエルフの祭りをちょうど狙ったとしか思えないんだ。あれはやっぱり人為的なもののようだよ。」

「おそらく、炎熱系の強力な魔法具か、魔法によるものだ。」「だから、そうだな、特に怪しい魔法具を持っているものとか、西のヘイズの街から来た魔法使いがいたら報告してくれ。知ってるだろ。あそこは火炎魔法のメッカだからな。あんなことができるバケモンがいても不思議はねえ。」

 そう言って、前髪を掻き指で後ろに撫で付けるような動作をした。それで、俺はビックリした。その癖にはひどく見覚えがあったからだ...

 そういえば、髪型も服装も変わってはいたがその顔には見覚えがあった。


「お前、まさか、"浅葱 ヒサジ"じゃねえよな。」

 その俺の問いに若い男はビクッと反応する。

「なんでお前、俺の名前を知ってるんだ?」

 そう言いながらこっちに振り向いた彼は俺を見て、驚き、言葉を失った。


「ダチの名前を忘れるわけねぇだろ。」

「まさか...、いや、そんな馬鹿なことって....」


 ***

「ひさびさの再開を祝して、かんぱい。」


 俺とヒサジはグラスを合わせた。

 俺たちは街の酒場に来ていた。酒場では日の暮れぬうちから多くの人が集まり、酒を飲み、騒いでいる。


 そう、結局ヒサジが俺に気づいて、俺はヒサジの友達だということだけで、難なく検問を通過できた。


「やーまさか、お前までこっちに来ちまうとはな。」ヒサジが俺に言う。

「それはこっちのセリフだ。おいおい、俺の3年前の涙を返せよ。」

「はは、俺もあのとき終わったなって思ってたんだがな。だいたい、お前もこっちにいるってことはよ。やっぱあれか?死んだのか?」

「はは、そーだよ、トラックでドカンっ、一発だったよ。あーあ思い出したくねー。」

「ひえ、想像したくねー。でもお前、それじゃあ乃絵ちゃんかわいそうだな、高校も、一緒だったんだろ。」

 痛いところを突いてきた。

「あーそうだよ。まあそうだな。俺なしでテスト受けるんだから。大変だろうな。数学とか、悲惨だと思うぞ。」

「馬鹿、お前そういうことじゃねえだろ。お前もさ、俺の死んだとき、残された人間の気持ちってやつ、わかったんじゃないか。」

「どーだかね。散々キモいとか言われてきたし..」

「まあ口ではなんとでも言うといいさ。でもそういうの大切にした方がいいと思うぜ。別に俺に話さなくてもいいけどさ。そうしないと人生が紙っぺらみたいになっちまうぞ。」

「まあ今日はいいだろそういう暗い話はさ。こちとらまだこっち来て初日だぜ?それにさ、3年ぶりの再会ってわけだろ。もっと楽しい話しようぜ。」

「楽しい話ってなんだよ。」

「例えばさ、お前今何やってるんだ?ずいぶん偉くなったみたいじゃん。」

「何って、なんだろうな。色々やってるからな。」

「色々ってなんだよ。どうすりゃそんなになれるんだ?」

「...お前も女神と話て転生してきたんだろ?」

「ああ。そうだけど。まさか!あれか?転生特典にミラクルパワーでももらったか?」

「なんだそりゃ。まあでもそんな感じだよ。そのときちょっと神様にお願いしてな。おかげさまで言っちゃなんだが、俺、こっちの世界では結構やれてるぜ。でっけー魔獣とかが街に攻めてきたのを何回が撃退してるしさ.....そうだな。最近はそんな感じの街の治安維持系の仕事が多いかな。」

「そういえば、今日のあれ、なんだったんだ?今日は検問、厳しかったんだろ、それに調査?とかなんとか。」

「いや、実はそう、この街からそう遠くにない場所にエルフの村があるんだが。そこでちょっとな。いや全然ちょっとじゃあないか。まあ、こっちに来たてのお前がまだ気にすることじゃないよ、そうだ、こっちに来てどうしてここまで来たのか、聞かせてくれよ。俺も最初は大変だったぜ。何も知らないのに、いきなり、モンスターの群れにポイだったからな。」

「まじかよ。俺はそんなんじゃないぜ。まあ初めは穏やかに草むらで目覚めてだな。」




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