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ジャンプ強化作戦

作者: さきら天悟

は~、とため息をついくと、

すぐさまロックグラスを取り、

いっきに酒をあおった。

「弱くなったな~、日本」

壁に掛けられたモニタを見つめたまま太田は言った。


はぁ~、と藤崎は語気を荒げ、疑問形で返した。


「ジャンプなんて日本のお家芸だろ。

なんで・・・」

太田は首を振る。


ジャンプと言っても週刊ジャンプではない。

スキージャンプだ。

スキージャンプ男子団体、個人とメダル0が確定した。

ヨーロッパ勢が上位を占め、日本は6位。

だから、ヨーロッパのテレビ放送に合わせ、

深夜に競技が行われたのだ。


「バカ野郎ッ。

お前らのせいだろう」

自称名探偵藤崎誠は与党若手有力議員、現文科大臣の太田に言った。

太田とは同期の官僚で親友だった。


「俺の?」

太田は自分を指さす。


「選手の責任じゃない。

お前らの責任だ」


太田は眉間にしわを寄せる。

「確かに長野オリンピック以降予算が減ったが・・・

強化の問題か?」


「それだけじゃない。

政治だ。

日本は政治で負けてるんだ。

ヨーロッパの長身選手が有利なようにルールを替えられている。

まあ、日本人の被害妄想かもしれないけど」


「日本人が不利なルールなのか」

太田は首をかしげる。

太田は政治家になるまでオリンピックなど興味を持っていなかった。


「背の低い人が長いジャンプ板を使うと有利だとさ。

だから、身長によってジャンプ板の長さが決められた」


「不利なのか・・・」

太田は言葉を詰まらせる。


「前回はメダルを取っているから、本当はどうか分からない。

被害妄想かもしれないが。

でも、俺は不利が有ると思う。

その不利を早急に克服する必要がある」

藤崎は太田をじっと見つめる。


太田は右手を何度も振る。

「俺はだめだぞ。

管轄外だ。

スポーツ大臣に進言はできるが」


「お決まりの縦割り行政の弊害か?

でも、これはお前の仕事だ」


「俺の?」

太田はおどけた顔をする。

ハッと真剣な顔になる。

「なにかいいアイデアがあるんだな」


藤崎は人差し指を1本立てる。


太田は頷く。

「10億か。

強化費それで足りるのか」


藤崎はニコリとほほ笑む。

「1億でいい。

でも、使わずに済むと思う。

一応の見せ金だ」


「1億?

それで強化できるなら安いものだが」

太田は完全に納得していないようで、首を傾げた。


藤崎は胸に手をあて、頭を下げる。


「名探偵にお任せあれ」







翌日から太田は動いた。

一週間後、日本の各大学の有識者を招集した。

東大、京大、名大などの物理学、数学者らを。

文科大臣の太田にはたやすいことだった。

でも科学的にフォームを解析するわけではなかった。

一月後、さらにアジアの物理・数学者からも意見を聞いた。

もちろんアメリカ、ヨーロッパも。





そして、一年後。

賞金1億円の物理学問題が日本政府から出題された。

出題を証明すれば一億円もらえるということだ。


『スキージャンプ競技における

身長によるジャンプ板長の規則の平等性』


日本政府は発表した要約はこうだ。

日本国民はルール改正をヨーロッパ諸国による横暴だと思っている。

国民を納得させるために物理学・数学的に不平等はないと証明するために、

懸賞問題を出題した。

国民を納得させるために各国協力して欲しいと。


すぐにヨーロッパ諸国からすぐに批判があがった。

しかし、これを妨げることに対しルールドーピング、

白人至上主義、人種差別とネットで意見が大半をしめた。

これを言われてはヨーロッパ諸国は何も言えなかった。

もちろん、これは藤崎が仕組んだことだったが。




二年後、日本政府は出題の受付を締め切った。


提出された解答は、ほぼ一致していた。

理論的には平等であると。

しかし、ジャンプ板が短いとより条件に影響されることも分かった。

風、雪質、飛び出し速度、

それだけでなくメンタル、体調面も。

つまり、小柄な選手はより技術の完成度を求められると。

これを受け、協会はルール改正の是非に入るという。






2022年、冬季北京オリンピックが始まった。


「スキージャンプに乾杯!」


藤崎と太田はグラスを合わせた。

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