一章終わり
* * *
無線を終えると、エドウは海警隊とサプレッサーの二人を甲板まで戻した。脱出を命じたのである。しかし、パルにその言葉をかけることはしなかった。今のエドウにとってパルは自身の手の届く範囲にある所有物の一つに等しかった。エドウはパルの不安定に揺れる肩を支えると、囁くように語り掛けた。
“これからパルにとって、とても酷なことが起きるかもしれない。けど、俺は傍にいる。いつもついている。パルが凄く痛い時も、苦しい時も、悲しい時も俺は一番近くに絶対いる。”
エドウはパルを抱きしめた。
“パルはこんなにも温かいじゃないか。この温かみは誰かに批判されたり蔑ろにされるべきものなんかじゃない。自分の中にある温かみを感じて。そして、信じて。俺はこの温かみを、君を守りたいんだ。”
エドウは空を切るような言葉を流暢に並べ続けた。
しかし、今のパルにはそれすらも神託のように思えてしまうほどに脆かった。パルはエドウの言葉の内容など何一つ理解しておらず、その高低、声量、テンポ、そういった無機的に表示できる要素のみを抽出して、自分に都合のよいエドウ像を誇大妄想していたのである。パルはその、ほんのりと色づいた梅の果実を思わせるような若々しい唇ですべてを計算し終えると、ゆっくりと頷いた。パルの頬を一すじの涙がつたった。
それは彼女の脳内で起きていた死んだはずの兄ダヴィを見たことへの激しい感情のうねりと、怖ろしいほどに実存的なエドウとの対応の温度差によって感情の一部が発露し、現われたものであった。そんな自身を嫌ったパルは今すぐにでもジョウザンしたい、そう思った。
船内のあちこちはクローンダヴィで溢れかえっている。それは悪夢的な想像力の産物であった。
“パル、ジョウザンをするぞ。”
パルは麻薬切れのジャンキーのように、大きな瞳を余すことなくエドウに見せびらかした。
ジョウザンシステムの光に包まれ、急激な意識の混濁を経てジョウザンしたパルには、先ほどまでの不安や戸惑いなどは一切無くなっていた。
シュナイターパルはその滾る血の流れにすべてをまかせ、通路を夜風の如く駆け抜けて行く。夜風は待ち人の頬を弄ぶように悪戯に撫でる。彼女はその瞬間に狂気を、弾丸にのせて噴出させるのである。下階から上がってきたダヴィの顔面は、シュナイターパルの連射によって跡形もなく吹き飛ばされてしまった。
パルはその迅速を保ちながら、階段を降り、機関室を目指した。彼女の後方、階段を付近の狭い通路の一帯には、折り重なるように複数のダヴィがたむろしていた。彼らは鉄と肉を擦り合わせながらシュナイターパルを追いかけて来ていた。それは急き立てるような俊敏な動きではなかったが、着実にシュナイターパルに近づいていた。しかし、彼女はそんなことなど気にも留めていなかった。
前方に、先回りしたダヴィが現われた。何人束になって掛かろうが、今の私の敵ではない。それがシュナイターパルの心意気であった。
パルは銃器を前方のダヴィへと向けた。その刹那、通路の壁を破って現われたダヴィに突き飛ばされてしまった。シュナイターパルは突き飛ばされた衝撃で通路の壁面に激突し、失速した。ダヴィ達は好機とばかりにシュナイターパルに飛び掛っていった。
打ちつけられた一瞬意識が飛び、慌てて目を開けて見れば、そこにはダヴィの勃起した男性器が何本もあった。シュナイターパルは手足をそこら中から湧いて出てきた手に押さえ付けられ、身動きの取れない状態であった。彼女の頭の中に幻聴のようにダヴィの声が響いた。
“パル、パル、お兄ちゃんだよ。お兄ちゃんを見捨てないでおくれ。受け入れておくれ。ああ…。愛しい妹よ……。“
シュナイターパルはがむしゃらに両腕の銃器を振り回した。今のジョウザンしたパルには、ダヴィのフィジカルな干渉に対して動じる不安要素など何も無かった。
だが、それが逆に仇となった。彼女はダヴィへの力の誇示に執着するあまり、他のことに目が向かなくなっていた。機関室への進行すらも念頭に置かれていなかった。
“パル、ダヴィのことはもう考えるな。ここを切り抜けて機関室へ向かえ。”
エドウの声などシュナイターパルにはまったく届かなかった。シュナイターパルはその小柄な体で狭い通路の中を蝶のように舞い、銃器を乱射した。通路一帯は体中に弾痕のつけたダヴィの死体で埋め尽くされた。それは常人から見れば、シュナイターパルの虐殺と取られても、反論の余地もない状況であった。
クローンダヴィの前ではシュナイターパルの力は圧倒的であった。だが、相手は数が多すぎた。クローンダヴィは次から次へと湧いて出てきた.殺せども殺せどもその数は減らぬ一方である。彼女はもはや、自分が殺人を犯している感覚、殺気すらも失っていた。彼女は徐々に五感が掠れてゆく。そしてついに、シュナイターパルは、翅をもがれた蝶のようにその場にへたり込んでしまった。気づけばシュナイターパルの周りはクローンダヴィで溢れかえっていた。これだけ囲まれてしまうと、ジョウザンを解いたとしても、パルを抱えた生身のエドウに相手はできまい。
エドウは死を覚悟した。
その時である。激しい銃撃音と共に、通路にひしめいていたダヴィは血飛沫を上げて、次々と倒れこんだ。機関銃による援護掃射が、シュナイターパルの転倒を見計らったかのように行われたのである。四肢を弾丸で食い破られたダヴィは、動けないシュナイターパルの上に折り重なってきた。それはシュナイターパルの神経を通してエドウにサプレッサーが自分を援護してくれたのか、エドウはそう考えた。そこにいたダヴィを一掃し終えるまで十秒はかかったであろうか。
大量に撒き散らされた硝煙が、血溜まりの中の血球と結びついたために血は粘りを失い砂のような触り心地さえ思わせた。むろん血液が化学変化し、粘度性質がなくなったというわけではない。それほどまでに先ほどの援護掃射はエドウにとって劇的であったということである。ジョウザンシステムを解いたエドウは、気を失せたパルを抱えると援護者の顔を一目見んと後ろを向いた。
エドウは息を呑んだ。暗視スコープを内蔵した台形状の角錐のヘルメット、全身を包むようにあてられた黒い装甲、それと汎用機関銃を隠すために強化繊維でできたマント、それらすべては、伝聞したとおりの市装兵団の装備であった。市装兵はゆっくりとエドウ達に近づいた。特殊な合金でできたブーツが独特の足音を鳴らす。なにか防塵のための呼吸器のような装備が付いているのだろうか、時折激しい音をたてて空気が噴出される音がする。その度のマントが不気味に揺らめいた。
エドウの目と鼻の先までそれは来た。その威圧感にエドウは言葉を失った。なぜここに市装兵がいるのか、なぜその市装兵が自分を助けたのか、エドウにはわからぬことが多すぎた。そんなエドウを察したのか市装兵は、
“ハヤクキカンシツニイケ。ソレガオマエノモクテキダロウ。”
と言った。ヘルメットの機能の一つで、個人の特定を防ぐための変声機により、その市装兵がカムギであるという確信には至らなかったが、エドウはこの声から微かにカムギを感じていた。エドウはその言葉を受け、パルを抱えながら機関室へと急いだ。市装兵はエドウの背中を眺めた後、ゆっくりと重たい体躯を反転させた。騒がしい足音を立てながら、クローンダヴィ達が雪崩れ込むように通路に入ってきた。
“アノトキハニゲラレタカモシレナイガナ。オレガイナカッタンダヨ。アソコニハ。コンドハ、ニゲキレルトオモウナヨ?”
そう言うと、汎用機関銃に弾を装填した。
エドウ達を機関室へと向かわせたカムギは、市装兵団の名に恥じぬ、残虐さを示していた。
持ってきていた弾丸は尽きたためか、カムギは、右腕の備えられた通電仕様のトンファーをマントの間から突き出した。しかし、トンファーと言っても打撃部が角形になっており、打ち方よっては人肉を切り裂くことも可能であった。カムギは左半身になり、通電トンファーをマントで隠すようにして構えた。そして、目の前のダヴィに目掛けて突進した。ダヴィもそれに呼応するかのように駆け寄ってきたが、間合いへの入りはカムギの方が圧倒的の有利であった。カムギは左指でダヴィの首を鷲掴みにした。ダヴィはカムギのその拘束を解く手立てがなかった。トンファーはダヴィのみぞおち、剣骨を砕くように突かれた。それはダヴィの貧弱な肉体に易々と入り込んだ。ダヴィは潰されつつある咽喉から悲鳴を上げた。さらにカムギはトンファーの通電機能を使用する。辺りに独特な揮発音のようなものと共に、白煙が立ち込める。ダヴィの肉が通電により焼けた際に発生したのである。通電によって脆くなった部分から、腸を支えていた筋肉を真っ二つにするようにトンファーを思い切り振り下ろした。ダヴィの裂けた腹から腸が飛び出し、ダヴィは倒れ込んだ。
この一連の行為は恐ろしく作業的に、屠殺でもするかのように行われる。
飛び掛ってくるダヴィをカムギは左腕で振り払う。ダヴィの肉体は鈍い音をたて、壁に叩き付けられた。彼の左腕は隙間無く装甲で覆われており、それ全体が盾であり、鈍器のようでもあった。カムギは左半身に構えたのはこの左の盾兼鈍器があったためであった。
カムギはそのように、左手でダヴィを受け流し、崩しながら、右手のトンファーで確実に仕留めていた。これが、カムギの一姿、市装兵としての姿であった。
しかし、体力の衰えは打ち負かすことができず、ものの数分で息があがってしまった。
“ヤッベェナァ…。ツカレテキチマッタゾ…。”
徐々に倦怠感も増してきた。
“ケジメツケルタメニヤッテミタケド、アジケネエシ、アキチマッタナァ…。”
そう言いながらも、向かって来たダヴィの下顎にトンファーをアッパーでもするように突き刺した。ダヴィの眼球が少しばかり浮ついた。
彼の体術の観点から見た凶暴さもしくは殺気というものは、格式ばったものではない。むしろ楽観にすら見える。だが、その動きというものは完璧な暴力の定石、型ともいうべきものを踏襲しており、型のままに行えば凄惨に見える行為なのである。それをあえて崩すことのできる感性、そして崩してもなお成立させられる技量の高さがあるからこそ、カムギの強さは部類のものなのであった。
カムギは激しく脈打つ心臓を整えて、周りを見た。今まで押し寄せていたダヴィはすべて死体となっており、その山の上にただ一人、市装兵姿のカムギがいるだけであった。
“オワッタカァ。ツカレタナァ…。ジャア、ボチボチヨウジデモスマセニイクカ。”
カムギは通電トンファーの電流を止めた。使っていた時は気づかなかったが、血液はそれの表面にコゲとなって付着していた。カムギは転がっていたダヴィの頭部を鷲掴み、その額でトンファーのコゲを落し始めた。固まった血はぽろぽろと剥がれ落ち、トンファーは元の沈鬱な照りを取戻した。
* * *
甲板に着陸していたヘリコプターの中にいた、海警隊やサプレッサー、入崎などは、船内の有様など想像だにしなかったが、足元に蠢く何かを感じないはずはなかった。
入崎に離陸を遅らせる提案をした海警隊員は自分の判断を恥じた。なぜなら、この危険は、元々は負う必要の無いものであったからである。この彼の考えは、先ほどの彼の言動の延長だとすれば非情な、人間味に欠けたものと思われるかもしれない。だが、海警隊がこのクローヴィムで受けた精神的な摩耗は彼を、その薄情な思考へと追いやってしまうほどに脅迫的なものなのであった。
もう、この際、人間的な尊厳などくれてやったっていい。一刻も早くこの場から逃げ去りたい。海警隊員は震える肩を押さえ、何も見ぬように俯きながらそう思った。それは、アシュラを前にした人間の当たり前の姿であった。
船体が微かに揺れた。それはヘリコプター内で過敏になっている彼らにも伝わっていた。その揺れは、船上の旅客スペース、カジノホールに横たわっていた数多のダヴィが一斉に動き出したために起きたのであった。ヘリコプター内の彼らは、挙動不審とも取れるような動きで辺りの様子を窺った。彼らの目には、ヘリコプターの中から辛うじて見える通路に大勢で波のようにうねりながら押し寄せる人間達が映った。この押し寄せる人間を、入崎を除いた誰一人としてダヴィであると認識する者はいなかったが、恐怖心を煽るには十分すぎる光景であった。プロペラの激しい振動は機内の彼らの心拍と一致した。
“もう、これ以上は!”
泣きすがるように一人の海警隊員が入崎にしがみ付いた。
“待ちなさいっ!誰かが来ていますっ!”
押し寄せるダヴィの波の鼻先に一人、こちらに駆けて来る男がいた。それはディオであった。
“彼を収容し次第、離陸します。サプレッサー!援護を!”
つまり、エドウとパルに関しての回収は不可能であると入崎は判断したのであった。
ヘリコプターから身を乗り出したさサプレッサーの三人はディオへの援護射撃を行った。ダヴィ達の波は、射撃によって先頭を走っていたそれが倒れると、今まで持っていた規則性を失い、速度が落ちた。それでも、その波が近づきつつあることに変わりはなかった。
海警隊員の一人はディオの走ることの単純な繰り返しの動作の中に言いようも無い憎しみを覚えていた。それは今の自分達の惨めさとの両極にある、必死に燦燦と生きんとするディオの身体への嫉妬であるかもしれない。この場では海警隊である彼らに不自由な場面が多かったのである。
“早く、早く!”
風のように駆けたディオは何とかヘリコプターに辿り着くことができた。
“離陸してっ!”
ヘリコプターはその言葉と同時に機体を浮かばせた。眼下に広がる貨客船には、いたる所にダヴィがいた。後数瞬遅れていればヘリコプターはダヴィの波に飲まれてしまっていたのいたのかもしれない。皆、取り敢えずの生還に一息がついた。
“エドウさんとパルちゃんは?”
ディオは言った。しかし、海警隊の面々はこの言葉などまったく聞く耳持たず、自分の息吹に酔いしれていた。
* * *
機関室に到着したエドウは抱えていたパルを一旦下ろすと、爆弾の設置に取り掛かった。
発電機を中心とした様々な機材が線対称に整然と配置されていた。設計士によって合理的に配置された美しさは幾何学的なものであった。エドウはその美しき構図の中を駆け巡った。最も効率よく火の手が回る場所を見つけ、破損もせず引火することもなく爆破が失敗してしまう所を避けるためにエドウは適所を探し続けた。機関室は外界からの風を考慮する必要がないためその分選択の幅は広がった。エドウはポノウェの中で多少なり爆破についてのノウハウを学んではいた。だが、この時彼はこの船を爆破させる要因、大量のアシュラが積載されているという事実をまったくもって忘れていたのである。
アシュラの存在をエドウが少しでも考えていれば、その行動は変わっていたやもしれぬ。それはエドウが船の爆破を思い留まるということではなく、ある程度のゆとりを持って任務ができたであろうといことである。彼の脳内は爆発のイメージのよって、まったくの不可視状態となっていた。それはもはや、自殺願望に近しい様相をしていた。今のエドウにとって爆破の成功とはアシュラの上陸を未然に防ぐことではなく、爆風で船体に風穴が開き、船内に横たわる肉体が弾け飛ぶことそのものなのであった。だが、エドウはそのことに気づくことはあるまい。それこそが今のエドウの醜態なのである。
エドウは熱狂的な徘徊の後、爆弾を仕掛けた。
爆発までの時限は十五分であった。エドウはゆっくりと目をつぶった。彼は死の直前の芳醇な時間を味わった。
忙しなく動くエンジンが発生させた熱は、機関室に染み付いた油や泥、汗垢などを気化させた。それは汚物として堆積していたものから抽出させた廃油の臭いであった。
エドウはその臭いが嫌で嫌で堪らなかった。だが、後数分後に散りゆく命である自分にそんなことなど関係なかった。エドウの横で倒れているパルにもそんなエドウを叱咤できるだけの力は残っていなかった。互いが互いに依存をしすぎて依存の体そのものが崩壊し、手を合わせることのできる距離にいる二人の間には、深い溝裂ができていた。エドウは油まみれの機材に背を押し付け、眠りに就こうとした。
その時であった。目前の油分で光っていた機械の表面に、今にも死なんとする自分の姿が映っていた。
エドウはその表面映った己の姿身を忌避した。なぜなら、表面に映っている自分の姿が、肉体としての自分であるか、今まさに崩壊しつつある汚染された精神としての自分であるかわからなかったためである。
今のエドウにとって、面に反射するもう一人の自分は自身を苦しめるもの以外の何ものでもない。自分と同じ形をしたまったくの別物であった。まったく別の時間を吸収した、無性生殖によって誕生したエドウナウカである。
彼は意を決し、機械へと身体を思い切り叩きつけて反射するもう一人の自分を交合するかのように絡みつきながらしっかりと見据えた。
そこに失天の暗礁に高らかと翼を広げる黒天狗を見た。
時が静止した。そこには、すべてのエドウナウカの要素、肉体と精神が完璧に融合した中性且つ両性なエドウナウカがいたのである。しかしそれは、まったく別の存在、別の次元に生きるもう一つの完全なるエドウである。
完全なるエドウは表面からゆっくりと抜け出てきた。絶望に暮れるエドウの頬へと手を差し伸べた。その手は血潮で赤く発光していた。エドウはその手の上に自身の手を置いた。その血潮で発光した手は人間のものではない。しかし、エドウは今までこの手以上に生気に溢れた手に触れたことがなかった。その生気はエドウの右手の指に絡みついた。それは、自身が至る所の究極の姿であった。エドウは一人涙した。完全なるエドウの手は、軽やかな気体のように時間の流れに散り散りにされていった。エドウは叫んだ。
“お前は俺に何をさせたいんだ。”
エドウは分散し、弱まりながらも神託のような声が体の内に響いた。
“生きろ。それすなわち血である。死より血を。死より血を。”
激情に震えるエドウは機械の表面を見続けた。そこには機械の白緑色の表面に映していたので、多少の色彩性を欠いた何の変哲もない、彼の怯えた姿が映っているだけであった。
エドウの耳に、爆発を察知してか荒々しく息遣いをさせる貨客船のエンジン音が響いた。口の中には廃油の風味が残っていた。エドウは頭で考えるよりも先に、パルを抱え機関室から飛び出した。
* * *
0323を過ぎた数分後に、激しい爆発音と共にクローヴィム号から火の手が上がった。それから船は傾いてゆき、約五時間後、0842にクローヴィム号は完全に沈没した。
ヘリコプターで脱出することのできたディオと海警隊、サプレッサー達は無事救出されたが、エドウとパルの安否が危ぶまれた。その後、新たに編成された真の姿の海警隊にエドウとパルは救助されることとなった。それは、ディオのジョウザンシステム適合者としての能力が遺憾なく発揮されての結果であった。今回の作戦の強引な幕引き、ましてはアシュラ絡みの事件の終結で、一人の人死もださなかったことは奇跡に等しかった。
救助されたエドウとパルは、局立病院で療養することとなった。救助された際にエドウは意識が朦朧としながらもパルを抱きかかえ、右手の中には、しっかりとペンダントを握りしめていたということである。
そのペンダントをディオも一目見た。
中には砂遊びをしながらにこやかに笑う少年と少女が映っていた。
それはディオを和やかな心持にさせた。しかし、なぜそれをエドウが持っていたのかディオにはわかりかねたが、このペンダントの少年が二人を助けたのかもしれない、ディオはそんな事を考えながら、窓を開け、太陽に温められた風を室内に招き入れた。
*一章終わり*