初恋の人
つたない文章ですが宜しくお願いします。出来れば後学の為に至らぬ点をご指摘ください。
酒のツマミに聞いた話だ。
その人は高校時代に忘れられない経験をしたらしい。
誰にでもある、青春の一コマだ。
クラスには委員長と慕われていた女の子がいて、たいそうな人気だったそうだ。
誰にでも優しく、誰にでも丁寧で。
その人だってそうだ。そんな魅力的な彼女に告白を考えたのは一度や二度ではなかったらしい。
もっとも、その人は勇気がなくて終ぞ告白まで至らなかったそうだけれど。
残念なことだ。
二年で行った修学旅行での写真。広島の記念公園での集合写真だ。彼女も、もちろんその人も笑顔で写っていた。同じクラスだったそうだからな。
そして三年生になって。その人はその彼女と一緒のクラスになってとても嬉しかったそうだ。
だってそうだろう? 一度は告白も考えた相手だ。例えその勇気がなくったって、そんな人の傍にいるだけで心が弾むってものだから。
その人は賭けに出たそうだ。一生で一度の勝負。告白だ。
ずいぶんと考えたらしい。
場所、時間、シチュエーション。遅くまで考えて考えて、寝付けなかったとその人は言っていた。
そして次の日、その人は誰よりも朝早く学校に行って古風な手を……一通のラブレター、呼び出しの手紙を彼女の靴箱に入れたそうだ。
だけどその人が告白を決意した次の日、告白をしようと思った相手の子は、彼がいくら待ってもあの元気な子は学校に来なかった。いや、来れなかったんだ。
そう。彼女は学校に来なかった。来れなかった。
みんな、もう言わなくてもわかるよな? そうだ。彼女は死んじゃったそうだ。
交通事故だったらしい。急に交差点に飛び出してきた白い普通車に撥ねられて。
たぶん即死だっただろうと、その人は言っていた。
もういい大人だと言うのに、お酒のせいかその人、涙ぐんでしまっていて。
俺は宥めるのに大変だった。
ああ、この話には続きがある。
その人が言うには、クラスの皆は呆然としていたと言っていた。もちろん、その人は前日に告白の計画をしていたんだ。そしてラブレターまで書いた。おそらくその人が一番ショックを受けていたのだろう。だから俺に酒の席でそんな話をしたんだと思っていた。だけど、それはもうどうしようもない事。俺は慰めたさ。だって、お互い大人だろ? それこそ星の数ほど色々な経験はあるんだから。
ところが、問題は卒業写真の事らしい。なんだよ、その彼女でも写っていたのかよ、と俺は言ったさ。
……図星だった。写っていたらしい。笑顔で列に並ぶ彼女の姿が。
心霊写真。
よくある話だ。そう、よくある話……。
だけど、話はそれで終わりじゃない。
問題なのはその人を含むその他の生徒たちだ。皆、彼女の方を向いて頭を垂れていたんだと。皆が皆、笑顔で微笑む彼女に向かって頭を垂れていたらしい。
この人は明らかに悪酔いしていた。また変な事を言っている。
止めろと言うのにまた頼んだビールを持って来てくれた娘が、その彼女そっくりだと言うんだ。
え? その彼女? 笑顔のかわいい娘だったよ。俺は頭を下げて礼をしたさ。紳士だからな。