表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

一話 2

「さて、急がないとまずいな……」


 時計の針は8時15分を指していた。走らなければ遅刻してしまう時間。


「お兄の寝坊とお説教のせいだよ〜」

「説教の原因は何だと思ってるんだ?」


こめかみを押さえながら、態とらしく振舞ってみる。


「そんな事はどうでもいいでしょ! 遅刻するよ! 」


麻衣は顔を赤くして声をあげ玄関のドアを開けた。



自宅を出発し足早に学校へ向かう。お互い危機感があるのか、さっきのやり取りのバツが悪いのか無言だ。

そんな中、近所の公園の前を過ぎる際、妹によって沈黙が破られた。


「どうした?」

「お兄、覚えている? ここの公園、自殺があったんだって」

「……自殺?」


 いつも、この道を通ってはいるが、確かに誰一人この公園に入っている所を見たことがなかった。


「丁度この時期ぐらいだよ。三年前に女子高生が首を吊っていたの」

「……そうか。若いのにやり残した事もあっただろうにな」


そんな事があれば人が居ないのも頷ける。


「……それ以来、一人で公園に行くと――……出る・・らしいよ?」

「出るって何が?」

「おばけ」


 真面目な顔をした おばけ発言の麻衣に不謹慎だが笑ってしまった。


「お前いくつだ? まさか信じてるわけないよな?」

「ほんとだもん! クラスで持ちきりだよ? その女子高生のおばけが、首を絞めに来るんだって!」

「幽霊とか、怪奇現象というのはだな。プラズマが原因ってテレビでやっていたぞ」


 俺は幽霊を信じてはいない。怖いという思い込みが幻覚を見せるものなんだ。


「最近、通り魔も出るって言うし。――私、思うの。この公園の幽霊の仕業なんじゃないかなって」

「考えすぎだ。早くしないと本当に遅刻するぞ」


 急ぎ足で踏み出し急かしてみるものの、麻衣はまだ立ち止まっている。


「……お兄は、居なくなったりしないよね? お父さんや、お母さんみたいに急に死んだりしないよね?」


 悲しそうな顔を見せる麻衣。亡くなった父と母を思い出してしまったのだろう。悲しさを和らげるように、麻衣の頭をポンと叩いた。


「心配すんな。料理できないお前を一人にしたらどうなるか分からんからな」

「あ! 酷い! 朝のはちょっとしたエアレスミスなんだから!」

「ケアレスミスな。空気無くしてどうするんだ。お前は俺にとって唯一人の家族なんだからな」


ツッコミが追いつかない……、こういうのを天然っていうんだろうな……。


「……そうだよね。約束したもんね」

「約束?」全く身に覚えが無く、妙な声が出てしまう。

「お兄? もしかして忘れてる?」


また頬を膨らませる麻衣。


「すまん。なんの約束だっけか?」

「もう! 知らない!」


 怒って先に行く麻衣。マンガなら湯気のようなものが出ているだろうな……。なんてどうでもいい事が頭をよぎった。


「麻衣! 悪かったって、ちょっと待てよ」


 麻衣の後を追いかけて、少し足早になったところで、曲がり角から急に人影が現れた。


「あぶな……」


俺の声は意味をなさず、人影とぶつかってしまい、長い赤の髪に、サイドテールが尻もちと共に揺れる。


「あぁ、すまない。えーと確か島板さん?」


 この子は確か同じクラスの島板レミ、父と母の葬儀の時に世話になった教会の娘だ。


「大丈夫か?」


起こそうと手を伸ばして見るものの、この手を掴まずスカートに付いた土を払った。



「……不注意。もっと回りを見て。もしも私が子供やご老人だったら大怪我をしている所だった」


淡々と告げられ、ぶつかった怒りからか睨みを効かせて来る。世話になった人の娘だが、どうにも摑みどころが無く苦手な印象が強い。


「あ、あぁ……、すまない」


自分でも嫌になるような小さな声が出る。うつむいた視界に白くて細い指が現れて、驚いて顔をあげる。目の前には島板の顔があった。


「……ネクタイ」

「え?」


驚きと焦りを混ぜた声が裏返る。

「緩んでるよ」と言って、俺のネクタイを直してくれていた。


「あ、ありがとう」

「もっとしっかりしてよね。妹さんの面倒見ているんでしょ?」

「まぁな。俺達の事……覚えていたのか?」

「昔とはいえ、丁度同じ年だし、覚えていただけよ。早く行かないと遅刻するわよ?」

「あ、忘れていた」


 俺とレミは、走って学校へと辿り着く。なんとかギリギリ遅刻は免れた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ