九死に一生を得る?
そこから先は一瞬の出来事で、衝撃に頭が真っ白になってしまった。
騎馬の一つがすり抜け様に私を体ごと抱え上げて馬に乗せたのだと気付いた時には、もう見上げる程に大きな身体を覆う冷たくて堅い金属の塊に身体を押し付けられたまま、不自然な格好で乗馬の衝撃に堪える事しか出来ない状況になっていた。
とにかく身体が痛くて、ともすれば振り落とされそうで、必死になって目の前の金属にしがみつく。
それが鎧だと気付いたのは先ほどのファンタジーな生き物を追っていた人達が身につけて居たものだと揺れる視界の中で関連付けることに成功したからだった。
だからどうしたと自身でツッコミながらも、少なくとも未知の物ではないというだけで少しは落ち着ける。
まぁその鎧も至る所に突起物があり体が揺れる度にゴツゴツと打つかって苦しさが増すばかりの代物だったが、せっかく助かったかもしれないこの幸運をみすみす手放す訳にはいかない。
不自由な視界のなか、死に物狂いで手に触れる感触にすがった。
どれくらい経っただろうか。
実際は数分も経っていなかっただろうが、体感速度としてはとてつもなく遅く長く感じられた。
身体を支える太い腕に力がこもる。と、次の瞬間馬体が大きく方向を転換した。
おかげで勢いにのって放り出されそうになったが、太い腕がしっかりと押さえ込んでくれて助かった。
なかなか頼もしいではないか、太い腕の人よ。
そんなどうでもいいことを考えて現実逃避している間に凄まじい勢いで走り出した馬の予想外の動きに立て直す間もなく硬い鎧に顔をぶつけてしまう。
かなり痛い、がそんなことはおかまいなしに、男は大きな声で叫んでいる。
いやこれは指示を出している?私のようなお荷物を抱えたまま獲物を追うとはかなり腕に自信があるのだろう。
その上常に追い立てるように声を発し仲間を動かしているのだから、きっと彼はこの団体のリーダー的存在なのだろう。
一際声高に男が号令めいた声を発したあとは一瞬だった。
何かを断ち切るような金属質な轟音に次いで、ぶちぶちと大量のゴムチューブがねじ切れる様な音と大量の液体が噴出す水音に覆いかぶさるような凄まじい断末魔の声。
すべてを掻き消すように上がる歓声のなかでやっとこの追走劇が終わったのだと分った。
馬を歩かせながら、ゆっくりとした動作で男が私を抱え直す。
今まではまるで荷物のように乗せられていたのが馬の上で向かい合うように座らされた。
体格の差があるから仕方が無いのは分かっているが、これでは扱いがまるで幼児だ。
頭上で交わされる聞き取れない会話を聞き流しながら強張った体に気を使ってゆっくりと体を起こすと、私を見詰める金色の瞳と目が合った。その状態でしばし見詰め合う。
・・・ごつい。