未知との邂逅。そして生命の危機。
なんとなく今までと空気が違う気がして立ち止まる。
しばらくじっと、耳をすませる。と、地面が小さく揺れているのがわかった。
その揺れはだんだんと大きくなり、ついには立っているのも難しい程になる。
地震か!?と中腰になりながら視線を上げると、今まで私が進んでいた方向からもうもうとした土埃と喧騒が迫ってきた。
それはあまりに速くて、予想外で、私は唯呆然と固まってしまった。
土煙を蹴破って現れたのは馬に乗った大勢の人間だった。
中世の騎士のような古めかしい甲冑を身にまとい、大声で叫びながら鬼気迫る様子で馬を走らせてくる。
一瞬私を狙ってきたのかと思ったけれど、良く見れば男たちの前方に、つまり男たちが追う形で転がるものがあった。
それを見たとき、場違いにもさすが異世界、ふぁんたじーだ。と感心してしまった。
それは巨大な触手の塊だった。
紫色のテラテラした巨大なみみずの様な生き物が何十匹も団子状に集まってわさわさと蠢きながら猛スピードで転がっているのだ。
なんて気味の悪い生き物なのだろう。
しかも大きい。直径が大型トラック程もある蠢く塊を騎馬の男たちが半円状に囲うようにして追ってきている。
つい先ほどまでの穏やかな景色との違いに、ここまで呆然と突っ立って観察していたけれど、男たちの顔の造作が遠目にでも見てとれるくらいになってやっと、このままでは危ないと気付いた。
たぶん同時に向こうも私に気付いたらしく、緊迫感が増したのが分かった。
金髪や茶髪が兜の隙間から見てとれるのと、顔形からどうも西洋系の人種らしい。
もしかしたら本当に物語に出てくるような騎士なのかもしれない。
包囲網はすでに私が逃げ切れない程の距離まで迫っていて、私はここで死ぬのかと思った。
死にたくはないけれど、どうにも逃げ切れない状況なのは分かるから、同じ死に様ならせめて良くわからない触手の塊に潰されて圧死するよりも、騎士(のような人たち)に踏まれたほうがまだマシだろうと思って急いで塊の軌道上から逸れようと移動する。
大地が裂ける勢いで振動する地面を這うように進むのは難しい。
精一杯急いで移動している間にも、男たちが叫ぶ声が一際高くなった。
この状況ではたとえ母国語でさえちゃんと聞こえるかわからないが、どうもそれだけではないらしい。言葉が違うみたいだ。
ついに群れが目の前まで迫り、転がるように避けた真後ろを塊が音を立てて横切った、と思った瞬間。
世界は反転していた。