↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

成れ果ての誓約

作者: カリウム
掲載日:2026/09/04

自分に言い聞かせてきた言葉はいずれ、しがらみとなり深い深いまどろみへと誘う。

そのまどろみは、呪いのようにまとわりつき、"自分自身"の心と命を少しずつ蝕んでいく……。


弟が自殺をした。

私の弟は酷く醜いいじめを受けていた。

家へ帰っても平気そうに家族と接し、分け隔てなく仲の良い弟だった。

私より5歳の離れた姉弟だったが、私より大人っぽく弱さを見せない。

よっぽど私の方が泣いていた。

なのに、そんな弟が遺書も遺さず、何も言うこともなく死んだ。

私の目の前で。

その眼は既に生きる意味を捨てたのにも関わらず、偽りの夢と希望を纏わせ、ナイフで首を切る所作を見せるまで、死ぬことを予知させないような澄んだ眼をしていた。

澄んだ目は、偽りを捨て"事実"へと変わっていく。

現実とはなんて不平等なことだろうか。

どんなに悪いことをしてきた者でも幸せに生き、人を不幸にしてきた者に幸運が訪れる。

そんな目の前の絶望を受け入れるように……。

飛び散った赤に溶け込むように……、そっと目を閉じた。


弟の分まで生きよう。

そんな簡単に言えてしまう、重く深い誓約は、今となっては後悔してしまうものだ。

いじめは私には関係の無いことだ、そう考えていた。

机に置かれた花瓶には、美しく咲く彼岸花が一輪。

その深紅色は、次はお前の番だと言っているようだ…。

そんな不気味さが背筋をなぞる。

クラスメイト達が不自然にこちらを見ながら笑う。

ああ…、そうだ……。

私は―――……。


少しずつ身体に増えてきた痛みが、"希望の光"なんて図々しいものを掻き消す。

そんなものなどない。

"それ"を掻き消される度、何度首に刃を向けただろうか。

手前に引くだけでよかった。

そんな簡単なこともできない。

刃を向ける度、想起する。

あの時の現像が。

あの時誓った呪いが。

その度刃を投げ捨て、布団で啜り泣いた。

あの時誓わなければ…、私は……。


私に何も残らなければ、私は何度でも死んでいただろう。

あんな口先だけの誓約など捨ててしまえば、すぐに弟と幸せな時間を過ごせるのに。

自分に弟の分まで生きるなどと言い聞かせてきた自分自身を、呪っていた。

弟は偉いなあ。

最後まで幸せなフリをして、自分自身にかけた誓約を破り捨て死んだんだから。

普通はこんな地獄のような生活を送っていたら、とっくに刃を引いていたのに。

弟は大人だなあ……。

私も早く、この呪いをとっぱらってそっちへ行くから。


母と父が交通事故で死んだ。

悲しくなかった。

むしろ嫉妬した。

そんなあっけなく死ねるのが羨ましい。


そうか。


幸せな人ほど不幸になっていくんだ。


私は幸せだったんだ。


家に帰れば家族がいて、温かいご飯が食べれて、安心して眠ることができる。


だから本当の幸せを知ることができな"かった"んだ。



私は弟が最後まで生きていた場所で、もう一度刃を首に向けた。

そっと眼を閉じる。

ああ……。

弟の分まで生きるなんていう、軽々しくも深いまどろみが私を包んでいく……。

あの時の赤色が視界を埋めていく。

いつも刃を向ける時より、もっと鮮明に……。

あの時をフラッシュバックさせる……。

あれからもう2年と3ヶ月……。

私はあと1ヶ月で行きたかった大学へ行けるし、その大学で沢山友達ができるかもしれないんだ。

そんな希望が目の前の赤色を消していく。


眼を開ける。


ああ……、なんだ。


世界ってこんなにも綺麗じゃないか。


そう感じた瞬間、私はナイフを引いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。