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蛇の瞳の乙女

ノックの音が、二人しかいない家の中に、虚しく響いた。


「レオニート、いるんだろう。出て来なさい。」


厳かな声が虚空になびく。

ユーリ・スヴァロギチ・ソコロフは、帰ってきたばかりの軍服姿のままで、息子の名を呼ぶ。

返事はない。

彼は深々とため息をつき、そして言う。


「今日も、学校に行かなかったのか。何故だ?学校に行かない事で、我々の置かれた状態が好転するとでも?朝食が出ないから、学校に行きたくないだと?いつまで我儘を言うつもりだ。朝食なんて、出るわけもなかろう。母さんは、死んだんだよ。」


ユーリ・スヴァロギチは再び、深いため息を吐く。


「いつまでも自己の殻に閉じこもるな。入るぞ。」


彼はドアノブを握りしめ、子供部屋に入る。

そして、それと目が合った。


天井から首を吊り、ダランと伸びた、他ならぬ彼自身の子供の、固まった両眼と。


「馬鹿者…。」


薄暗い暗室の様な部屋の中で、彼は一人、つぶやき声を漏らした。


 ✝


「はぁ……。」


出淵(いでぶち)ナオは街中を当てもなくさまよい、歩き回りながら嘆息する。

自分自身に対しての、内省と自己批判が止まらない。

うら若く、どことなく古風な気品を備えた容姿。

ただそこに存在するだけで、新年の宴の様な華やかさを周りに振りまく。

しかし今日に限ってはどこか、くたびれた様なオーラを、周囲に放っているのだろう。

彼女自身がそう思う。

道を行きながら、今日起きた出来事を思い返す。

アルバイトの終わり、更衣室に向かおうとした彼女に、店長がかけたセクハラめいた冗談。


…普通なら、鼻で笑って流す様な、他愛もない言葉。

虫の居所が悪かった。という事なのだろう。

思わず全力で投げ飛ばした。

ずんぐりむっくりした、中年太りの店長の身体を。


自分でも、何故これほど急に腹が立つのか、そして何故自分にはこれほどの馬鹿力があるのか分からなかった。


しかし目下の課題は、そういう疑問の解決ではなく、つい先程そうやって失われた、仕事という収入源をどうやって復活させるかと言う、極めて差し迫った問題の解決方法だった。

彼女は街角のショーウィンドウの前で立ち止まる。

高級感のあるガラスの表面に映り込んだ、自分自身の顔が見返す。

人形の様に整った顔を縁取る、サラサラと長く伸びる、夜の色をした髪。

出淵ナオは視線を移し、すぐ横の壁に貼られたチラシを、蛇の様な鋭い目付きで凝視する。


“被検体アルバイト募集~高報酬”


“オーロック研究所”


「……。」


彼女は無言のままスマートフォンを取り出し、そこに記された連絡先をカメラで撮影した。

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