求人募集とほぼ空欄の履歴書
※本作はギャグ・コメディ中心の作品です。
※倫理・制度・恋愛要素などは深く考えず、ゆるくお楽しみください。
コンカフェの事務所。
強面オーナーが腕を組んで言った。
「一人、辞める」
「……え」
ヒロは思わず顔を上げる。
「来月から来れないらしい。家庭の事情だとよ」
店を回す人数はギリギリ。
誰かが欠ければ、即アウト。
「早めに人探さねぇと回らん」
「……ですよね」
ヒロは頷いた。
その日のうちに求人募集の紙を作り、
入口のドア横に丁寧に貼った。
『スタッフ募集 未経験可 元気な方歓迎』
──嫌な予感は、していた。
そして、その夜。
ピンポーン。
ドンドン。
ヒロは天井を仰いだ。
「……来ると思った」
ドアを開ける。
そこには。
キラッキラの目をしたイヴ。
手には、さっき貼ったばかりの求人募集の紙。
「それ取っちゃだめなやつ」
「貼ってたら他に募集きちゃうじゃん! アタシが働くの!」
「いや募集だからな?」
「今やって! 面接! すぐやってよ!」
履歴書をぐいっと押し付けられる。
そして。
するりと家に入り、ソファーに座る。
姿勢が異様に良い。
「……」
ヒロは履歴書を開く。
名前だけやたら丁寧。
それ以外、ほぼ空欄。
「急いで書いたな?」
「気持ちは込めた」
「情報を込めろ」
ヒロは深呼吸。
「では志望動機から」
「ここで働きたいから!」
「理由になってねえ」
「だって……隣で働きたいもん!」
「頭痛い」
ヒロは額を押さえる。
そのとき。
バタン、と部屋のドアが開く。
「お兄ちゃん、なにしてるの?」
ユイが顔を出す。
状況を一瞬で把握。
にやり。
「ずるい。楽しそうなことしてる」
「ややこしくなるから部屋戻れ」
「やだ」
ヒロの隣に座るユイ。
腕を組み、面接官の顔。
「では質問に答えてください」
「え?」
「ノア君についてどう思いますか?」
ヒロ「おい」
イヴ、固まる。
「え? 金髪? べ、別に何も思ってないし!」
「これは面接です。正直に答えてくださいね」
「……っ」
イヴの耳が赤くなる。
「金髪は……ノアは……アタシの──」
「こらユイ!」
ヒロが遮る。
「おもちゃにするな!」
「もっと遊びたい」
「帰れ」
イヴは真っ赤になって騒ぐ。
「ち、違うし! なんでもないし!」
ユイは楽しそうに笑う。
そして何気なく言った。
「今日はノア君は?」
イヴがぴたっと止まる。
「……え?」
「今夜は彼女のところじゃないか?」
「……は?」
「彼女」
「かのじょ?」
次の瞬間。
「かのじょおお!?」
バカでかい声。
ヒロが耳を押さえる。
「声量!」
イヴの目がぐるぐるする。
「彼女……? 金髪に……? 誰が……?」
ふらり、と立ち上がる。
「……無理」
そのままフラフラと玄関へ。
ガチャ。
静かに出ていく。
扉が閉まる。
沈黙。
ヒロがぽつり。
「……面接、いいのか?」
ユイはソファーに転がりながら言う。
「青春だねえ」
「俺の胃が持たない」
ヒロは天井を見上げた。
求人募集は、まだ貼ったままだ。
ただし。
一番面倒な応募者は、
すでに最終選考どころか最終局面にいるのだった。




