キレた奴隷は恐ろしい……
※本作はギャグ・コメディ中心の作品です。
※倫理・制度・恋愛要素などは深く考えず、ゆるくお楽しみください。
ヒロの家での飲み会。
開始三十分。
空気は、最悪だった。
楽しそうなのはユイだけだった。
「いやー最高だねこのピリピリ感!」
「どこがだ」
ヒロは頭を抱える。
テーブルにはジュースと軽食。
ノアは窓辺に立ち、夜風を入れながら静かに呼吸を整えていた。
その背中を。
イヴは無意識に目で追っていた。
それを。
ユイは見逃さない。
「……なるほどね」
ぽつりと呟く。
「なに」
イヴが睨む。
ユイは無邪気に、爆弾を投げた。
「イヴちゃんってノア君のこと好きなんだ」
──静止。
「はあ!?」
イヴ、即赤面。
「ち、違うし! あんな奴好きじゃないし! 合理厨だし! 情緒死んでるし! タバコと酒しか楽しみない終わってるやつだし!」
早口でまくしたてる。
「だ、だからアタシはあんな金髪すきじゃないー!」
ニコが小さく名前を呼んだ。
「イヴちゃん……」
その瞬間。
窓辺にいたノアの動きが止まる。
一拍。
それから、歩いてくる。
「……結論はそれでいい?」
「は?」
イヴが言い返そうとした瞬間。
ぐい、と胸ぐらを掴まれた。
「ち──」
言葉は続かなかった。
ノアが距離を詰めたからだ。
唇が触れる直前で止まる。
代わりに。
額と額が触れる。
視線が固定される。
「……根拠は?」
低く、逃げ場のない声。
「な、なにが……」
この時点で、少し噛み始める。
「嫌いって断定した理由」
「り、りゆ……っ」
思考が追いつかない。
距離が近すぎる。
視線が強すぎる。
「……ないなら、訂正して」
「は……っ、はぁ!? な、なんで……!」
完全に崩れる。
「ろんり……っ、ろんりとか知らないし……!」
呂律が死ぬ。
顔は真っ赤。
呼吸も乱れる。
「ご、ごめ……っ」
噛む。
「ごべんなひゃい……!」
そのまま力が抜けて、後ろにバタンと倒れた。
「おい!?」
ヒロが慌てる。
「ノアお前何してんだ!」
「矛盾の修正」
「どういう理屈だ!」
ユイはケラケラ笑っている。
「イヴちゃん壊れてるじゃん」
ニコは少し困ったように、でもどこか優しく見ていた。
床に転がったままのイヴは、顔を両手で覆う。
「……むり……ちかい……むり……」
かすれた声。
完全にバグっている。
ヒロは深いため息をつく。
「……うちでやるな」
ノアは興味を失ったように視線を外す。
「次はない」
「く、くるし……」
即答。
ただし呂律は戻っていない。
こうして。
空気最悪だった飲み会は、
別の意味で収拾がつかなくなったのだった。




