パンク娘は今日も素直になれない
※本作はギャグ・コメディ中心の作品です。
※倫理・制度・恋愛要素などは深く考えず、ゆるくお楽しみください。
最近。
ほぼ毎日、ヒロの店のドアベルが同じリズムで鳴る。
カラン。
カツン、カツン。
ヒールの音が床に響くたび、ノアの眉間に皺が寄る。
「……来た」
常連がぼそりと呟くレベルで、もはや風物詩である。
今日も全身パンクファッションのイヴが堂々と入店してきた。
赤のインナー、鋲付きチョーカー、黒いヒール。
無駄に目立つ。
ノアは一目見ただけで、露骨に顔をしかめた。
「ヒロ、外出る」
「まだ仕事中だぞ。」
ヒロが即座に止めた。
「それに貴重な一本だろ。」
「ここよりマシ」
そう言い残し、裏口へ消える。
イヴは横目でその背中を見送った。
唇をきゅっと噛みしめる。
ほんの少し、涙目。
だがすぐに顔を上げる。
「……ふん」
その様子を、ニコは見逃さなかった。
「イヴちゃん、いらっしゃい」
にこっと笑顔でメニューを差し出す。
「今日はどうする?」
「別に……味は期待してないけど」
言いながら、限定メニューのページをしっかり見る。
「……このパンケーキセット」
「ありがとう」
ニコは嬉しそうに厨房へ向かった。
数分後。
ふわふわのパンケーキに、アイスとベリーソース。
湯気が立つ皿が運ばれる。
「お待たせしました」
そのタイミングで、裏口からノアが戻ってきた。
イヴの視線がすぐにそちらへ向く。
「おい金髪」
「……なに」
「あーんしろ」
ヒロが天井を仰ぐ。
(またか……)
ノアは数秒、無言。
それからイヴを見る。
「目的は?」
「は?」
「それを要求する理由」
「……食べたいからに決まってんだろ!」
「自分で食べればいい」
「違うし!」
ニコが慌ててフォローに入る。
「イヴちゃん、今日は私が代わりにあーんしてあげよっか?」
にこにこ笑顔。
その瞬間。
「やだ!!」
店内に響く大声。
「アタシは、ノアにあーんしてほしいの!」
駄々。
完全に駄々。
常連がコーヒーを吹きかける。
困り顔のニコ。
ヒロは額を押さえる。
ノアは小さく息を吐いた。
「……ニコ、いいよ」
「え?」
イヴに近づく。
「イヴ、口開けて」
イヴは一瞬だけ嬉しそうな顔をした。
すぐに強がる。
「は? 別に嬉しくねーし」
ノアはフォークを手に取り、パンケーキをすくう。
一瞬だけ考える。
「一口の定義、曖昧だよね」
「ちょ──」
フォークに乗せた量は、一口サイズではなかった。
ほぼパンケーキ半分。
そのまま、強制的に口へ。
もぐ。
イヴ、涙目。
必死にもぐもぐ咀嚼。
「んんんっ……!」
ニコが慌てて水を差し出す。
「イヴちゃん、大丈夫!?」
イヴは水を一気飲みして、息を整える。
ヒロ、即座にノアの頭を軽く叩く。
「やりすぎだろ!」
「要求通りあーんしただけ」
「量の概念を考えろ」
イヴは涙目のまま、したり顔を作る。
「……金髪、謝れよ」
「拒否」
「謝れよ」
「必要がない」
「子供か」
ヒロが苦笑する。
ノアはヒロに小声で言う。
「出禁にして」
「毎日それ言うな」
そのとき。
カラン、とベルが鳴る。
「お兄ちゃんいるー?」
元気な声。
ヒロの妹、ユイが顔を出した。
「……なんか空気変じゃない?」
店内の微妙な緊張を察する。
イヴはパンケーキをもぐもぐ。
ノアは腕組み。
ニコはおろおろ。
ユイはにやりと笑った。
「ねえ、今日うちで一緒に飲もうよ」
「お前飲めないだろ」
「雰囲気で」
「未成年の雰囲気飲酒やめろ」
ユイは楽しそうに目を細める。
「だってさー、なんか面白いこと起きそうじゃん?」
その言葉に。
イヴとノアの視線が、ばちんとぶつかった。
ヒロは確信する。
(絶対起きる)
ニコはというと。
少しだけ、嬉しそうだった。
「……また来るよね」
小さく呟く。
イヴはパンケーキを飲み込みながら。
「当たり前だし」
ノアは即答する。
「来なくていい」
「来るし!」




