パンクの乱入者はツンが強すぎる
※本作はギャグ・コメディ中心の作品です。
※倫理・制度・恋愛要素などは深く考えず、ゆるくお楽しみください。
その日、ヒロの店はいつも通り穏やかな空気に包まれていた。
カウンターでは常連がコーヒーを啜り、ニコは事務所で在庫の確認をしている。
ノアはやる気のない顔でグラスを磨いていた。
──そのとき。
カラン、とドアベルが鳴る。
振り返ったヒロが、思わず「おお……」と声を漏らした。
入ってきたのは、全身パンクファッションの女の子だった。
鋲付きのチョーカー。
破れた黒タイツ。
派手な赤のインナーカラー。
黒いヒールで床を鳴らしながら、カツン、カツンと店内に入ってくる。
そして。
ノアと目が合った瞬間。
ノアは、わずかに目を細めた。
「……知り合いか?」
ヒロが小声で聞く。
「今、叩き出すとこ」
「やめろやめろ」
苦笑いで止めるヒロ。
女の子は空いている席にどかっと座ると、肘をつきながら顎でノアを指した。
「おい、そこの金髪。メニュー持ってこいよ」
「……はいはい」
ノアは心底めんどくさそうに歩き、メニューを差し出す。
だが。
女の子はそれを奪い取るように引ったくった。
「おっ、なにこれ。うまそ……」
ページをめくるたび、目が輝いていく。
「え、なに。これもいいじゃん。……は?限定?ずる」
完全に楽しんでいる。
数分悩んだ末、メニューをバンと閉じた。
「……季節のフルーツパフェ」
「はい」
ノアは淡々と厨房のサクラに伝える。
しばらくして、綺麗に盛られたパフェが完成した。
ガラスの器に、アイス、生クリーム、フルーツ、チョコソース。
ノアが無言でテーブルに置く。
「どうぞ」
そのまま立ち去ろうとした、その瞬間。
「待てよ!」
ノア、止まる。
「……なに」
女の子はスプーンを持たず、腕を組んだまま、偉そうに顎を上げる。
「あーんしろよ」
店内、静まり返る。
ヒロ「……は?」
常連「……青春?」
ノアは一拍だけ考える。
「目的は?」
「は?」
「それを要求する理由」
「……食べさせろって言ってんの!」
「自分で食べればいい」
「食べさせて!」
短く息を吐く。
それから一歩、距離を詰める。
スプーンを手に取り、パフェをすくう。
「……あーん」
声は低く、無駄に落ち着いている。
女の子は一瞬固まる。
次の瞬間。
かぁぁっと赤面。
「な、なに普通にやってんだよ……!」
だが口はちゃんと開けている。
ぱくり。
「……」
もぐもぐ。
しばらく無言。
そして小声で。
「……別に、うまくねーし」
ヒロ(完食フラグだな)
その様子を眺めながらヒロがぼそり。
「あの子なんなんだ?」
「早く出禁にしてよ」
「言い方」
そのとき。
事務所の扉が開く。
「ヒロさん、在庫なんだけど──」
出てきたニコが、パンク少女を見てぴたりと止まった。
「……あ」
女の子も顔を上げる。
「……は?」
「イヴちゃん、久しぶりだね」
イヴ、と呼ばれた少女は目を見開く。
「えっ? 誰? ……もしかしてニコ?」
じっと見つめる。
「かわい……いや、相変わらずの不幸面」
「えっ」
ニコ、しょんぼり。
ノアが横から言う。
「食事が終わったら退店して」
「はぁ!? 別に会いにきたわけじゃねーし!」
スプーンを振り回しながら叫ぶ。
「このパフェだって別に美味しくないんだから!」
──その五分後。
器は綺麗に空になっていた。
最後のコーンフレークまで完璧にすくって。
「……ふん」
席を立つイヴ。
帰り際、ニコをちらりと見る。
「……まあ、その……元気そうでよかったじゃん」
「うん、イヴちゃんも」
「別に心配してねーし!」
ドアを乱暴に開け、去っていく。
カラン、とベルが鳴った。
静寂。
ヒロが苦笑する。
「……なんかすごい子だったな」
「非効率」
即答のノア。
ニコはくすっと笑う。
「でも、イヴちゃん昔からああなんだよね」
「……昔?」
ヒロがニコを見る。
ニコは少しだけ遠い目をした。
「うん。ちょっとだけ、一緒にいたことあるんだ」
ノアがわずかに眉を動かす。
ヒロ、察する。
(また面倒なフラグ立ったなこれ)
「来なくていい」
小さく呟くノア。
──翌日。
カラン。
カツン、カツン。
「昨日のは不味かったから確認しにきただけ」
同じ席に座るイヴ。
「……季節のフルーツパフェ」
ヒロが笑いを堪える。
ノアは無言で厨房を見る。
「来なくていい」
「来るし!」




