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恋人の前でタバコを一本だけ吸わせてもらった
※本作はギャグ・コメディ中心の作品です。
※倫理・制度・恋愛要素などは深く考えず、ゆるくお楽しみください。
夜。
ノアは、ミレイと一緒に店の外に立っていた。
少し冷たい風が吹いている。
ミレイは、ノアの顔を見たまま言った。
「最初の一本は、私の目を見て吸って」
ノアは少しだけ黙った。
「……分かった」
火をつける。
煙が、ゆっくりと立ち上る。
ノアはミレイの目を見たままタバコを吸った。
視線を外さない。
頭の奥がじわじわと緩んでいく感覚がある。
久しぶりの煙。
目の奥がじんわりと熱くなった。
嬉しいのに、なぜか泣きそうになる感覚があった。
だがノアは、それを必死に飲み込んだ。
泣いたら負けな気がしたからだ。
ミレイは、そんなノアをじっと見ていた。
煙を吐くたびに揺れる目元まで、観察するように。
やがてノアがタバコを消す。
灰を落とし、静かに火を潰した。
ミレイが言った。
「ノア」
「うん」
「なんでも言うこと聞くって言ったよね」
「言った」
ミレイは少しだけ手を差し出す。
「駅まで送って」
それだけだった。
ノアは一瞬だけ考える。
そして、軽く頷いた。
「……喜んで」
声の抑揚はほとんどない。
だがノアは、ミレイの手を握ったまま歩き出した。
理由は特に説明できないが、断る選択肢は思いつかなかった。
夜の街灯が、二人の影を長く伸ばしていた。




