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一日一本の合理契約

※本作はギャグ・コメディ中心の作品です。

※倫理・制度・恋愛要素などは深く考えず、ゆるくお楽しみください。

ある日、ミレイがコンカフェに遊びに来ていた。


カウンター席で、軽く酒を飲んでいた。


ノアはいつもより少しだけ真剣な顔をして、ミレイの前に座った。


空気が、少しだけ違っていた。


普段なら冗談の一つでも挟むのに、今日はそれがない。


ノアは静かに口を開いた。


「……お願いがある」


ミレイはグラスを傾けたまま、目だけをノアに向ける。


「なに?」


一拍。


ノアは小さく息を吸った。


「……タバコを」


そこで一度言葉を切る。


カウンターの空気が、ほんの少し重くなる。


「一日一本だけ、吸わせてほしい」


ノアは続けた。


「その代わり、なんでも言うことを聞く」


真剣だった。


合理性でも、冗談でもない。


タバコの匂いを我慢し続けている男の、静かな交渉だった。


ミレイはしばらく黙っていた。


グラスの中の氷が、小さく音を立てる。


そしてミレイは、少しだけ笑った。


「ノア」


「うん」


「それ、本気?」


「本気」


ノアの目は揺れていなかった。


ミレイはグラスを置き、テーブルに頬杖をつく。


「一日一本は許してもいいよ」


ノアの表情が、ほんのわずかだけ動く。


期待と安堵が、静かに混ざった顔だった。


だがミレイは、そこで言葉を止めなかった。


「ただし条件」


「……何」


「私の前でしか吸わないこと」


ノアは少し考える。


「合理的だと思う」


「毎日会えるとは限らない」


ミレイが言う。


ノアは少しだけ沈黙した。


「合理的ではない」


「でも?」


「それでもいい」


ミレイは小さく頷く。


「じゃあ、会えない日は?」


「吸う前に連絡する」


「報告?」


「うん」


ミレイは少し考えてから言った。


「監視じゃなくて、報告ね」


「合理的だと思う」


ノアは即答した。


ミレイは満足そうに笑う。


「あと」


指を一本立てる。


「一日一本まで。増やしたらダメ」


「守る」


ノアは迷いなく頷いた。


カウンターの向こうで、ヒロが静かに天井を仰ぐ。


(……交渉、成立したのか?)


ノアはふとミレイを見た。


「ありがとう」


素直に言った。


ミレイは少しだけ目を細める。


「別に」


「ノアがタバコを吸う顔、ちょっと見たいだけだから」


ノアは首を傾げた。


「合理性?」


「趣味」


ミレイはそう言って、酒を一口飲んだ。


コンカフェの夜は、少しだけ変な方向に穏やかだった。

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